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第108話 【ヤクザ潰しパート2】情報収集(sideリリヴィア)

 「情報収集で何があったら、またヤクザを襲撃することになるんだよ」

 「まず経緯を説明すると……」


 アルフレッドの追及にリリヴィアが今日の出来事を説明しだす。


——時は遡り、ギルドにて————————————————————


 「さて、と。ギルドに着いたし、まずは伝言掲示板の確認ね」


 時刻は午前10時。

 アルフレッドが薬草採取のためにコージロ湿原に向かって移動している頃、リリヴィアはギルドに来ていた。


 生活費が足りなくなったアルフレッドと違い、リリヴィアの方はまだ依頼を受けなくてもあと数日は困らない。

 なので彼女は今、依頼を受ける為ではなく情報収集のためにギルドに来ている。


 何の情報を集めているのかというと、彼女の目当ては【ワールム商会】だ。

 その商会は傘下のヤクザ組織【アズル組】を使って教会の地上げを行っており、そのこと以外にもいろいろと悪事をしているらしい、悪徳商会である。


 リリヴィアは2日前に地上げの現場に居合わせたことで【ワールム商会】を潰すことを決意。

 半ば成り行きに任せた結果だが、昨日は傘下の【アズル組】を壊滅させた。

 そして今日、商会打倒の手始めにまずは情報集めにやってきたわけだ。


 「捕まえた【アズル組】の尋問や調査はマッスルさんやグスロー達任せになってるし、私は私でなにか新情報手に入れたいわね。伝言、メノアさんに見てもらえてると良いんだけど」


 捕らえた【アズル組】の組員は現在マッスルさんが尋問中。

 事務所を襲撃した時に手に入れた犯罪の証拠はグスローとツァコフが確認。


 宿でアルフレッドの出立を見送った後、リリヴィアが彼らに進捗を確認すると、どちらも順調とのこと。

 【ワールム商会】との繋がりについて組員に口を割らせたうえで証拠と一緒に衛兵に突き出せば、潰れるとまではいかずとも商会にそれなりのダメージを与えられるらしい。


 ということでマッスルさん達は今、組員達の心を折るべく行動中。

 現在、宿の地下室では相手の心と顔面を崩壊させるマッスルさんのディープキスが猛威を振るっているところだ。


 とはいえまだまだ油断するわけにはいかない。

 商会自体はまだ健在なので、報復のために動いてくることもあり得る。


 ゆえにここで油断せずに勝利をものにするため、リリヴィアは商会に関する情報集めのために動いているわけだ。


 まずは伝言掲示板をチェックする。

 2日前の時点で彼女はメノアに商会の情報が聞けないかとギルドの伝言サービスを使って会いたい旨を伝言として掲示板に載せていた。

 もしそれがメノアの目に触れていたなら何か返事が書かれているはずだ。


 「あ、メノアさんからの返事がある。今日の12時にギルドの酒場で待ち合わせか。よし! 何かあった時のために連絡方法を決めといてよかったわ」


 リリヴィアはメノアの返事が掲示板に貼られているのを見てガッツポーズ。

 アルタに来てまだ日の浅い彼女にとって知り合いは少ない。

 つまり情報源も少ないので、その数少ない情報源であるメノアと連絡が取れたことを彼女は喜んだ。


 「いまはまだ10時だから、ちょっと時間あるわね。 ……よし、メノアさんに会う前に【ワールム商会】のお店をちょっと覗いておきましょうか」


 リリヴィアは一度ギルドを出て、グスローから聞いていた【ワールム商会】の店に向かった。

 ちなみにお店はごく普通の大きな店舗で、特に悪事が行われているわけでも雰囲気が悪いわけでもなく、食料品や生活に使う道具などが普通に売られているだけだったという。


  ・

  ・

  ・


——12時ごろ、ギルドの酒場にて————————————————


 「こんにちは、メノアさん。会えて嬉しいわ」

 「こんにちは。リリ」


 約束の時間に数日ぶりに再会したリリヴィアとメノア。

 いくつかの雑談を交えながらお互い無事に会えたことを喜ぶ。

 お昼ご飯を注文した後、さっそくリリヴィアは本題に入る。


 「実は私達ちょっと厄介事に巻き込まれていてね」


 リリヴィアは教会の地上げから始まった一連の出来事をメノアに説明する。


 「———というわけでいま【ワールム商会】についての情報を集めているのよ。それでメノアさんの知っていることも教えてほしいのだけど」

 「なるほどね。別に教えるのは良いけど、私もそこまで詳しいことは知らないわよ?」

 「別に構わないわ。例え噂話レベルでも大歓迎よ」


 メノアは大した情報は無いというが、ちょっとした内容であってもどこで役に立つか分からない。

 リリヴィアにとってはどんな情報でも有益だ。

 なので、リリヴィアはメノアに問題ないと伝えて話を促す。


 「そう。それなら話すわね。まず【ワールム商会】は身近な食料品や生活用品から高価な魔道具や貴金属まで色々な商品を幅広く取り扱う商会で、私がまだ小さいころ、だいたい15年くらい前までは私の実家の商会とも取引があったわ」

 「あ、そうなの?」


 昔関係があったと聞いて意外な表情をするリリヴィア。

 彼女の中での【ワールム商会】の印象は、商会というよりもヤクザの親玉みたいな感じなので普通に商売しているイメージが湧かないのだ。


 「ええ。その頃の【ワールム商会】は悪い噂なんてないまっとうな商会でね。父もあの商会からいろいろな商品を仕入れていたの」


 だがしかし実際の【ワールム商会】はあくまで商会なので、普通の取引ももちろんやる。

 それに昔から犯罪行為を行っていたわけでもないらしい。


 「ふむふむ。『その頃の』っていうことは、今は違うのね?」

 「そうよ。20年前に【ワールム商会】の会頭が今代のドノバンという人に代替わりしたのだけど、どうもそこから少しずつおかしくなっていったみたい。取引で相手の足元を見て不公平な条件を押し付けたり、あるいは難癖をつけてきたりするようになってね。うちの商会との関係もだんだん悪化していって、最終的に関係を断ったの」

 「ふーん。アコギな商売をして嫌われたわけね」

 「そうなるわね。私の実家のところだけでなく、他にも離れていった商会がいくつかあるみたいよ。それで、その頃から次第にヤクザとよろしくやっているとか、ご禁制の品を扱っているとかの、よろしくない噂が流れるようになった」

 「なるほど。商売仲間から縁を切られて孤立して、その損失を埋めるために悪事に手を出すようになったとか、そういうことかしらね?」

 「私が知っていることをまとめるとそういう流れになるわね。もっとも、私の知らないことも当然あるでしょうから、本当は違っている可能性も普通にあるけど」


 話している間に注文していた料理が届いたので、2人とも話しながら食べ始める。

 ちなみに料理はパスタとサラダとスープだ。


 「もぐもぐ……これ、美味しいわね。ところでご禁制の品で【ジャム】って呼ばれるものを知らない? 昨日潰した【アズル組】が別のヤクザ組織から白金貨2枚で買ったらしいんだけど、現物は見つからないし一体何なのか分からないのよね」


 リリヴィアは【ジャム】について聞いてみる。

 ヤクザが大金を出して仕入れているあたり、おそらくは違法なものなのだと思われるが……所詮は推測である。


 それが何に使われるのか、そして本当に違法なものなのか。

 【ワールム商会】を追求するためには、まずはそこを確かめなくてはならない。


 「【ジャム】ね……うーん、私も知らないわね。何かヒントになりそうなものはある?」


 残念ながらメノアも【ジャム】が何なのか知らない模様。

 とはいえ、何か手がかりがあれば調べられる可能性もある。

 ということで、【ジャム】の正体に繋がる情報が無いか確認してみる。


 「ヒントと言ってもね……取引現場を見たグスローが言うには小瓶に入った赤い寒天みたいな物体らしいわ。それと【ジャム】が何なのか誰も知らないってことくらいかしら。ヤクザの手下だったグスロー達も、私達の味方になってくれたマッスルさんも、祭りの警備責任者のロックさんも……そのうえメノアさんも知らないっていうのなら、【ジャム】は本当に限られた人間しか知らないのでしょうね」


 とりあえず、知っている情報を列挙してみるリリヴィア。

 しかし今分かっている情報だけではちょっと厳しい。

 リリヴィアもメノアもだんだん表情が険しくなっていく。


 「なるほど。それだけだと調べるのは無理そうね。仮に手当たり次第に聞いたとしても普通の人はまず知らないでしょうからあまり成果は見込めないし」

 「あ、あと【ジャム】を【アズル組】に売りつけた組織は王国のヤクザで錬金術師と組んで違法薬物を売買しているという話だから、それが本当なら何かの魔法薬ということになるわ」


 リリヴィアは追加で思い出したことを言ってみる。

 するとメノアの表情が少し明るくなった。


 「そう……それなら錬金術師なら知っている可能性もあるわね。私、この街に錬金術師の知り合いが1人いるのだけど、会ってみる?」


 魔法薬なら錬金術師の専門分野である。

 もちろん【ジャム】が魔法薬だという確証はないし、魔法薬だったとしてもその名称は犯罪組織の中だけで使われるものなのかもしれない。

 その場合、錬金術師に聞いたけど結局分からないまま、ということも十分あり得る。


 「いいの? じゃあお願いするわ。その錬金術師ってどんな人?」


 しかし一方で【ジャム】のことを知っている可能性もあるわけだ。

 であれば会わないという選択肢はない。

 リリヴィアはメノアの提案を聞いて即座に会うことにして、知り合いの錬金術師について聞いてみる。


 「癖が強いけれど、悪い人では……いや、うーん……まあ、性格はアレだけど錬金術師としての腕だけは超一流っていう人間よ」

 「何それ? なんだか不安になる言い方なんだけど……その人の名前は?」


 その人物を思い浮かべながら眉間にシワを寄せるメノア。

 なんとなく、そんなことを言われる人物に心当たりがあるリリヴィアは、しかしひとまずその人物の名前を促す。


 「名前はカルミア・ファルガノットよ」

 「……そんな予感がしていたわ」


 メノアの口から出た名前は見事にリリヴィアの予想通りだったという。


 物語世界の小ネタ:


 この世界の商人達は一般のお客さん相手に物を売り買いするだけでなく、商人同士でも頻繁に取引や情報交換をしており、横の繋がりがとても強いです。


 そのため商人仲間から縁を切られてしまうと思うように商売が出来なくなってしまい、大きな損失を被って最悪商会が潰れてしまいます。


 【ワールム商会】も一時期はそうなりかけていました。


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