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第105話 アルタギルドへの報告

——ギルドにて—————————————————————————


 「ふう~……やっと、一息つけたわぁ~」

 「書類の整理も、ここまで大量だと大変ね」

 「そうそう。次から次へと依頼がやってくるから処理するのが大変なんですよね~。なんとかならないかしら」

 「全くよね。ところでそのお菓子、この前新発売されたクッキーじゃない?」


 時刻は午後3時前。

 ギルドでは仕事のピークを乗り切った受付嬢達がカウンターの引き出しに置いたお菓子をつまみながらお喋りしていた。


 この時間帯だとギルドの受付にはあまり人がいない。

 ギルドの依頼をこなす冒険者はほとんどの場合、朝早くに依頼を受けて夕方くらいに報告に戻ってくる。

 ギルドに依頼を持ち込む依頼人も自身の仕事を始める前の朝早い時間帯だったり、あるいは夕方の仕事が終わった後にやってくる。

 もちろん全員というわけではなく、中には昼間にやってくる冒険者や依頼人もいるにはいるが。


 他にも商人などが商談を持ち込んだり、役人が何かの用事でやってきたりすることもあるが、しかしそれらの数はそこまで多くないうえに来たとしても早々に個室へと入っていく。


 なので受付嬢達は客の対応から解放されるこの時間帯に報告書などの書類整理を行い、それが終わると再び忙しくなるまで半分休み時間みたいにして過ごしていた。

 今日も彼女達はそうやって書類整理を終え、事実上の休憩タイムに入ったところである。


 「それにしても……忙しいのも嫌だけど、何もすることが無いっていうのもそれはそれで嫌なのよね~。何か事件でも起きないかしら」

 「こらこらミランダ。そんなこと言わない。ほんとに起きたらどうするのよ」


 そんなミランダと呼ばれた受付嬢の声が天に届いたのか、ガチャッとギルドの扉が開いて少年と大男の2人組が入ってきた。

 大男の方はワイバーン2体を背負っており、本人の巨躯と併せて迫力満点だ。


 「あっ、受付空いてる。良かったな、待たなくていいぞ」

 「うむ。早速報告だな」

 「「…………え!? えっ!?」」


 入ってきた少年達はさっそく受付のカウンターにやってくる。

 大男が歩くたびに床がギシギシと悲鳴を上げている。


 受付嬢達は近づいてくるその2人……正確には大男と彼に担がれているワイバーン2体を見て驚きのあまり言葉を失った。


 「すみません。Eランク冒険者のアルフレッドです。こちらは従騎士のゲオルグ。依頼の報告に来たんですが————」

 「「なんかほんとに事件がやってきたぁー!?」」


 ギルドに受付嬢達の悲鳴が鳴り響いた。


  ・

  ・

  ・


 「————つまりコージロ湿原で冒険者1名が安否不明、なおかつ本来いないはずのワイバーンが6体存在していて、そこで異変が起きている可能性があると……」

 「はい。その通りです」

 「証拠になると思って倒したワイバーンを持ち帰ったのだが……何か不備があっただろうか?」

 「あ、いえいえ。実物を見せられた以上疑ったりなどしていません。このことは上に報告して、然るべき処置を検討することになります。ご報告ありがとうございます」


 アルフレッド達から聞いた報告をまとめ、労いの言葉を掛ける受付嬢のミランダ。

 彼女は嫌でも視界に入ってくるワイバーンを見て、先ほど言った「何か事件でも起きないかしら」という言葉を内心後悔した。

 「自分があんなこと言ったせいで、今日はこれからまた仕事がいっぱいやってくるのね」という感じで。


 ワイバーンの死体はアルフレッド達が座る椅子の後ろに置かれており、カウンターの上にはワイバーンの両耳が4体分置かれている。

 持ち帰れなかったワイバーンについても報告の必要があるので、討伐証明部位の耳を切り取ってアルフレッドの背嚢に入れて持ち帰ったのだ。


 「念のためにお聞きしたいのですが、この辺りでワイバーンが出るのはやっぱり異常ですか?」


 報告が一段落したタイミングでアルフレッドが質問する。

 彼はつい3日前に初めてアルタに来たばかりなので、アルタ周辺のことにはあまり詳しくない。

 なのでこういう時にしっかり情報を集めておく必要があるのだ。


 「そうですね。ワイバーンは北のクリカラ山脈に生息していて、この辺りには数十年に一回くらいしか姿を見せないと言われています。この件についてギルドがどう対応するのかはまだはっきりとは申せませんが、過去の事例だとまず目撃情報があった場所や本来住んでいるはずのクリカラ山脈に調査隊を送って、そのうえで必要に応じてレイドクエストで魔物の間引きを行ったりしていますね」

 「なるほど」


 ミランダの回答はだいたい予想していた通り。

 ということは今後予定されているエルトルギドラ討伐の後、さらにレイドクエストが出される可能性があるわけだ。

 昇格を目指すアルフレッドにとって、ギルドに認められやすいレイドクエストが連続して出されるのは好都合と言える。


 「それにしてもワイバーンを倒すなんてすごいですね。普通ワイバーンって言ったら、Cランク以上の冒険者が複数人で挑む魔物ですよ。それをたった2人で6体も倒すだなんて……」


 どうにも驚きを隠せない様子でそう言うミランダ。


 「あ、俺が倒したのは1体だけですよ。それも運が良かっただけで。ほんとにすごいのは1人で5体も倒したゲオルグだけです」

 「1人でワイバーンを討伐出来るだけでも十分すごいですよ……ゲオルグさんは従騎士ってことでしたけど、私の知っている騎士さん達はそこまではできないと思いますよ」


 まるで2人で6体のワイバーンを同時に相手取ったみたいな言い方だったので、訂正するアルフレッド。

 しかし先ほどのミランダのセリフにある通り、ワイバーン1体を単独で倒すのも十分すごいのだ。


 そして1人で複数体同時に相手して倒してしまえるゲオルグは、ミランダから見れば完全に規格外だ。

 従騎士というのは言ってみれば騎士の見習い。

 一般的に言えば従騎士の実力は騎士のそれよりも数段落ちる。

 しかしゲオルグは明らかにそこいらの騎士とは比較にならない猛者だ。


 「はは。小官は修行中の未熟者だが、こと戦いについてはそれなりに自負があるのだ。ところでつい出しそびれていたんだが……実は小官、冒険者としての登録もしていてな。遅れ馳せだが冒険者証も提出させてくれ」


 そんな猛者のゲオルグは若干気恥ずかしそうに冒険者証を出した。


 「Fランク……ワイバーン倒せるのに最下位って、完全にランク詐欺状態ですね……」

 「え!? お前、冒険者でもあったの!?」

 「うむ。旅をするにあたって、騎士以外の仕事を経験してみるのも、見聞を広めるという意味では武者修行の目的に沿う。それに必要最低限の旅費は持たされているとはいえ、自分でも金策ができるようにしておきたくてな。旅立って最初に着いた街で登録したのだ。ま、そうは言っても登録した街でいくつか簡単な依頼をこなしただけだから、ランクは最下位のままだがな」


 Fランクといえば普通は冒険者になって1年も経たない新人で、強さは一般人に毛が生えた程度。

 どう頑張っても大空のハンターとして恐れられるワイバーンと戦えるランクではない。

 ゲオルグがそのランクというのは、もはや一種のジョークである。


 「……ランクの昇格申請も報告と一緒に出しておきますね。大丈夫、ワイバーン倒した実績があったら100%認められますから。むしろ昇格させないと私達が怒られるくらいですから」

 「あ、うん。なんかすまん……」


 片手で頭を押さえるミランダを見て、なんかやらかしたらしいことを察して謝るゲオルグ。


 「……ひとまず、これで報告関連はお終いですね。他に何もなければ、次は報酬と素材の買取に移りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 「よろしくお願いします」

 「よろしく頼む」


 近くにいた職員に声を掛け、「急ぎの書類だから大至急上に見せて」といって書き上げたばかりの書類を渡したミランダは次の手続きに移る。


 「まず、アルフレッドさんが受けていた全部で8種類の薬草採取について。先ほど報告を受けている間にギルドでの確認が終わりました。品質も数量も全て問題なしとのことです。こちらが報酬の300セントになります」

 「ありがとうございます」


 アルフレッドは出されたお金を嬉しそうに受け取る。

 いまは金欠状態なので、お金が入るのはとってもありがたい。


 「次にワイバーンの素材買取についてなのですが……こちらについてはギルドでの買取か、もしくはギルドに一度預けていただいたうえで次のオークションに出品するかを選んでいただくことになります。いかがいたしますか?」

 「小官はその辺りに詳しくないので、すまないがどう違うのか説明していただけないだろうか?」


 ミランダが提示した買取とオークションの違いについてゲオルグが質問する。


 「はい。それでは説明しますね。まずギルドで買取する場合は通常の素材持ち込みと同じ扱いになります。ギルドに所属する鑑定士によって素材の種類や状態を確認し、その時の相場なども踏まえたうえで買取価格を決めます。そしてその価格が余程の高額でない限りは今日中に代金をお支払いいたします」

 「ふむふむ」

 「一方でオークションに出品する場合ですが、こちらは次に開かれるオークションに素材を出品し、その売上代金から手数料や諸々の経費、税金などを引いたうえで残りの金額をお渡しすることになります。金額についてはオークションでの競りの結果次第となりますが、一般的にはギルドで買い取る場合の数倍から数十倍ほどの値段になります。ですので諸費用を差し引いたとしてもギルドでの買取よりもはるかに大きな儲けが期待できます。デメリットとしてはオークションが終わるまでお金が支払われないことですね」

 「ちなみに次のオークションはいつだろうか?」

 「オークションは20日後ですね。代金をお渡しできるのはそれからさらに2日後になります。とはいえ、ワイバーンの素材であれば、相当な高値が付くと思われますので、急ぎのお金が必要でないならこちらをお勧めいたしますが」


 要するに儲けは少なくなるが今すぐ金を手に入れるのが買取で、大きな儲けが出せるものの受け取りが遅れるのがオークション、ということだ。


 「アル、お前はどうする?」

 「俺は買取。急いで装備を新調しないといけないから20日以上も待ってられない。ゲオルグはどうするんだ? 別に俺に合わせる必要はないから、急いでないならミランダさんの言う通りにオークションの方がいいぞ」

 「……小官も買取だな。装備の新調が必要なのは小官も同じだ。金は生活できるだけの額があればそれでいい」


 というわけで2人とも買取に決定。

 湿原で事前に話していた通り、それぞれが倒した分を別々に査定してもらってそれぞれ代金を受け取ることにした。


 「それでは、ワイバーンの素材について鑑定士による査定を行いますので少々お待ちください」

 「分かりました」

 「承った」


 査定はしばらくかかるということなので、アルフレッドとゲオルグはその間どうするかを話し合い、まずは汚れた身体を洗いたいということで近くの公衆浴場に向かうことにした。


 物語世界の小ネタ:


 ギルドが買い取った素材について


 冒険者が持ち込んだ素材をギルドが買い取った場合、その素材をどこに売るのかはギルドの商業部門が決めます。


 ギルドに対象の素材を依頼している人がいたなら、その人に連絡します。

 特に依頼している人がいないなら、買ってくれそうな商会などに売り込んだり、ギルドの名義でオークションに出品したりします。


 なおギルドが買い取った時点で素材の所有権はギルドに移っているため、その場合オークションでどんなに高値で売れたとしても、その売り上げは冒険者には渡らずに全部ギルドの儲けになってしまいます。


 そのため、オークションに出せるような素材を手に入れたなら、冒険者達は基本的に買取よりもオークションを選びます。


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