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第103話 ワイバーン再び

 「ふぅー……危なかったなぁ……」


 勝負がついたことで緊張感が解け、その場にへたり込むアルフレッド。


 「あんまり気を抜いてもいられないんだが……」


 そうは言うものの、一方で休息も必要だ。

 頭は周囲への警戒を怠るなと言っているものの、身体の方はギリギリの状況を戦い抜いたことで休息させろと主張している。


 「とりあえず、回復しないとな」


 彼は地面に座ったまま冒険者証で自分の<ステータス>を確認すると、ひとまず【マナポーション】を1本飲む。


 「光魔法〖ヒール〗」


 <MP>が回復するのを待って〖ヒール〗で<HP>を回復。

 全快とはいかないまでも、<HP>も<MP>も共に戦いに支障のないレベルにまで回復した。

 そして他の魔物が近づいていないか確認するために周囲を見渡す。


 「戦っているときは気付けなかったけど、ここって湿原に着いたときに依頼書を確認したところだな。必死に逃げ回っているうちにここまで来たのか」


 ワイバーンに襲われた時には湿原の真ん中辺りにいたアルフレッドだが、走り回っているうちにいつの間にか端っこの方に来ていたらしい。

 今日はもう引き上げるつもりなので、好都合ではある。


 「よし、幸い近くに魔物はいないみたいだな。そういや依頼の薬草は無事かも確認しとこう」


 アルフレッドは薬草や荷物を入れていた背嚢を手に取って中身を確認する。


 「薬草は無事でその他に入れていた荷物も全部無事なのは良かったんだが……背嚢が一カ所破れて穴が開いてる……ワイバーンの爪が掠った時に破れちゃったんだな……街に戻ったら新しいの買わないと」


 採取した薬草が無事だったことは喜ばしいのだが、それを入れていた背嚢は鋭利な刃物で切り裂いたような穴が出来ていた。

 穴はそこそこ大きく、全く物が入れられないというわけではないが、歩くときは気を付けていないとポロリと中の物がこぼれ落ちそうだ。

 穴が小さければうまく補修して使い続けることもできるのだが、今回は素直に新しいのを買った方が良さそうである。


 「買うと言ったら、鎧と盾も買わないと……でも金がなあ……」


 頭を抱えるアルフレッド。

 彼の装備はもはや限界だった。


 ただでさえイーラからアルタに来るまでの道中に起きた度重なる戦闘で小盾は壊れて使い物にならなくなってしまっており、鱗鎧もあちこち傷がついていた。

 それに加えて今回のワイバーンとの戦いで、鎧に貼り付けられた鱗が所々剥げ落ちてしまっており、見た目も防御性能も悲惨な感じになっている。


 「頼みの綱はメノアさんから支払われるはずの投資のお金だけど、それが支払われるのは4日後……北の街道に現れたっていうエルトルギドラ討伐のレイドクエストが3日後だっけか? レイドクエストは依頼が出されるのが3日後ってだけで、その日のうちに討伐に向かうと決まったわけじゃないが、最悪今の装備で向かうことも覚悟しないと……」


 アルフレッドの表情がどんどん暗くなる。

 彼は今、金欠状態なのだ。


 今回の依頼で採取した薬草をギルドに納品すれば報酬を得られるため、当面の生活費に加えて新しい背嚢を買うくらいなら問題ないのだが、鎧や盾はさすがに無理だ。


 「ワイバーンって、確かかなり高値で買い取ってもらえるんだよな。こいつをギルドに持ち込めば……でもこの巨体を背負ってアルタの街まで戻るのは……」


 ワイバーンの素材はかなり高価だ。

 肉は食用、爪や牙、鱗は武器や防具の素材に使える。

 また内臓や骨などは薬の素材としても重宝されるので、もしも今倒した個体をそのまま持ち帰ることが出来れば、あるいは新しい装備が買えるかもしれない。

 だが重量にして恐らく200~300kgくらいはあるだろうワイバーンを、およそ20km離れた街まで背負って運ぶというのはちょっと無理だ。


 「……ワイバーンについては討伐証明部位と持ち帰れそうな範囲を切り取って帰るか。爪や牙の数本くらいなら持ち帰れるし、それなりに高く買い取ってもらえるだろ。さすがに鎧の値段には届かないだろうけど……【魔法の袋】があればな~」


 この場に放置するには惜しい素材だが、出来ないものは仕方がない。

 思考を切り替えてアルフレッドは立ち上がる。


 「休憩終わり。ワイバーンの素材を取ったらさっさと引き上げよう。ギルドには拾った冒険者証だけでなくワイバーンのことも報告しなきゃだしな」


 アルフレッドはワイバーンの死骸に近づいて、まずは腹に刺していたナイフを引き抜く。


 「ナイフもダメになってる……まあもともと盗賊からの戦利品で、質も良くなかったから仕方ないけど」


 手に取ったナイフはパッと見ても分かるくらい大きく歪んでいた。

 ワイバーンの鱗は軽いが固い。

 その鱗に強引に突き刺した結果、もともと質の良くなかったナイフは限界を迎えてしまったのだ。


 どう見ても使い物になりそうにないがその辺に捨ててしまうのも気が引けるので、とりあえず腰に差す。

 街に帰ったら武器屋で鉄クズとして買い取ってもらうことにした。


 「ん?」


 そしていよいよワイバーンを解体しようとした時、アルフレッドの視界の端に何かが飛んでいるのが入った。


 「……げっ、またワイバーン!? 隠れないとやばい!」


 アルフレッドは急いでその場を離れ、近くの林に飛び込んで草むらの中に身を潜める。

 もちろん〖隠密〗スキルを全力で発動する。


 アルフレッドが身を潜めておよそ10秒後、5体のワイバーンが先ほどアルフレッドが倒した個体のところに集まった。


 「ガア」

 「グルアッ!」

 「グルルルル……」


 何やらワイバーン同士で話し合っている。

 人間の言葉に訳すなら「いったい誰が仲間を」とか「敵がいるぞ」とかだろうか。


 (ワイバーン、1体だけじゃなかったんだな……ここ、ワイバーンの生息地じゃなかったはずなんだけど)


 そんなワイバーン達の様子を近くの草むらの中から窺うアルフレッド。

 1体倒すのも大変だったのに、いま彼の目の前には5体のワイバーンがいるのだ。

 見つかったら終わりである。


 (とりあえず、見つかる前に強さを確認しよう。案外さっき倒したのがあいつらのリーダーで、この5体は意外と大したことないのかも)


 そうだったらいいな、と自分でも信じていない希望を胸に〖鑑定〗を試みる。


 「まず、あの一番大きいリーダーっぽい奴を……〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :

<種族> :ワイバーン

<ジョブ>:飛亜竜Lv40/60

<状態> :通常

<HP> :302/302

<MP> :269/269

<攻撃力>:241

<防御力>:157

<魔法力>:208

<素早さ>:298

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 「さっき俺がやっとのことで倒したのは〖Lv28〗だったな。そしてこいつは〖Lv40〗……うん、戦ったら負けるな。それと、やっぱりこっちがリーダーだったか……」


 なんとなくそんな気がしていたよ、と若干諦めの入った表情で他の個体も鑑定すると、他の4体は〖Lv10〗~〖Lv30〗の間だった。


 (幸い、俺はまだ見つかってない。あいつらがいなくなるまでなんとかやり過ごそう)


 アルフレッドはそう決めるとできる限り身体を小さくして、見つからないようにする。

 ワイバーンたちの方はというと———


 「ガア」

 「ガアガア」


 ———周辺の上空を飛び回って仲間の仇を捜し始めていた。


 (大丈夫、たぶん大丈夫……俺は今林の中、それも草むらの中に身を潜めているから、空からだと木々の葉っぱやら草やらに隠れて見えないハズ……)


 じっと息を潜めてワイバーンが去るのを待つアルフレッド。

 仮に見つかって襲われたなら今度こそ助からない。

 だからこそ平常心を保つために、大丈夫だと心の中で自分に言い聞かせる。


 〖気配精査〗スキルでワイバーン達の様子を確認すると、いずれも鳴きながら周辺の上空を旋回している。

 アルフレッドのいる林の上も飛んでいるが、草むらの中に隠れている彼を見つけることはできていないらしい。


 (このまま行けばそのうち諦めてどこかに行ってくれそうだな。こっちが急に動いたり大声を出したりしなけりゃ、見つからずに済みそう……ん?)


 上手く隠れられていることに少しだけ安堵していると、アルフレッドの下の地面がなにやらもぞもぞと動き出す。

 そして人の手がにょきっと出てくる。


 ガバッ!


 「うわあっ!?」

 「ぶはぁっ! はあっ、はあっ、ここは一体どこだ?」


 その手が地面を掴んだかと思うと、次の瞬間地面の下から鎧を着た大男が出てきた。

 突然真下から出てきた大男にびっくりして飛び退くアルフレッド。

 大男は辺りをキョロキョロと見回して、すぐ傍にいるアルフレッドを見つけると彼に話しかける。


 「おお、久しぶりに人に会えた! なあ君、実は小官、道に迷って———」

 「声が大きい! 隠れて! ワイバーンに見つかる!」


 地面の下から現れた謎の人物がけっこうな大声で喋るのを遮り、アルフレッドはすぐに隠れるように促す。


 「ガアァーーッ!」


 しかし時すでに遅く、アルフレッド達がいるところ目掛けて風の弾丸が降り注ぐのだった。


 物語世界の小ネタ:


 ワイバーンは群れで暮らす生き物なのです。

 群れから追い出された「はぐれ」も存在しますが、基本的には数体~数十体くらいの群れを作って暮らしています。


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