表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/111

横顔

「うわぁぁぁぁぁッ!?」


 あれ!?

 身体が自由に動く!?


 手足をひっきりなしに動かしてみる。

 ちゃんと感覚がある、後遺症も無い。

 痛みも無い、どこも焼けてもいない。


 ん?

 誰かいる?


 暗闇の中、目を凝らすとパジャマ姿のユキがいた。

 微かな寝息を立てて寝ている。


 こっそり頭を撫でてみた。

 そうだよな、ユキはちゃんと生きてるよな!?


 ちょっと顔も触ってみた。

 今は"さっきのが夢"だったって事を証明したい。


「んー⋯なぁに⋯」


 あ。


「⋯うーん⋯んー⋯え⋯ルイ⋯? え!?」


 彼女は飛び起きると、俺の顔を揉みしだいた。


「本物よね!?」

「それいがいにゃにがあんにゃ」

「よかったぁ! 起きたのねっ! いつ起きたの?」

「いま」

「そっかそっか。なんかね⋯怖い夢を見てたの」

「怖い夢?」

「そのー、私が死んで、ルイが初めて泣く夢。私は見ている事しかできなくて、触れる事すらできなくて、そんな夢。おかしいよね、そんな事あるわけないのに」


 そう、そんな事あるわけない。

 なのに⋯

 ⋯"あの墓"の事が脳裏を過った




 【 新 崎 ユ キ 】




 そんな事あるわけない。

 なのに、


「!? どうしたの!?」


 涙が出ていた。


「あれ、なんで」


 悲しいわけじゃない。

 嫌な事があったわけじゃない。

 なのに、なんで。


「ごめんね、私が変な話しちゃったからかな」

「いや違う、身体が勝手に反応して」

「⋯ルイでも泣くんだね、なんか嬉しい。初めて見ちゃった」

「嬉しいもんでもねぇだろ」

「いーや? ちゃんと人間なんだな~って! ルイのそんな様子、今まで一度も無かったから」


 そう言うと、ユキは俺を無理やり引き寄せ、頭を撫で始めた。


「なっ! いいって、子供じゃあるまいし」

「いいの、こういう時は。甘える事だって、大事なんだから」


 い、いやいや!?

 "2つの柔らかいモノ"の感触が!?

 涙が止まったかと思えば、最悪のタイミングで俺の股間が膨らみ始めた。


「へぇ~、ルイもちゃんと性欲あるんだね。よかった~」

「いや、ちょっ! 見んなって!?」

「やーだ。ルイにそういうのがあって、安心するんだもん」

「い、意味分かんねぇって!?」

「だって大きくなってくれないと、本番できないんだよ?」

「それはそれだろ!? もういいってっ!」

「あ~、逃げちゃダメ!」


 何やってんだろ、ほんと。

 小学生かよ、マジで。

 他愛ないやり取りを数分した後、俺たちはまた寝っ転がった。


 そして俺は、"ユキと同じような悪夢を見た件"を話した。

 五年後の自分がいた事、そこにユキたちの墓があった事、さらにはタイムマシンのような機械があった事など。


 茶化すことなく、ユキは最後まで真剣に聞いていた。

 たぶん、滅多にない悪夢繋がりだったから、余計に気になったんだと思う。


「私のは"死んだ直後の自分を俯瞰視点で見る"って感じだったけど、ルイのは"私が見たのよりかは、結構先の未来?"って感じだね」

「そうだな。だから話聞いて、余計に身体が反応したのかもな」

「ね。なんか聞けば聞くほど不思議。こんな事あるんだね」

「今まで生きてきて、こんな事なった事無い」

「私も」

「夢だけど、正夢にならないようにするわ」

「うん。私もより一層、周りに注意するようにするね」


 そう言った後、ユキは俺の方へと身体を向けてきた。


「ねぇねぇ、夢の中に"アスタ君の墓"もあったって言ったよね」

「うん」

「ここに来る途中見かけたよ? "アスタ君っぽい人"」

「は!? マジ!?」

「うん。似てたけど、違ったらわるいかなーって思って話しかけなかったけど⋯話しかけた方が良かったかな」


 マジか。

 アスタは中学時代に仲良かったヤツだ。


 俺とユキとアスタ、いつも3人で競い合っていた。

 今でも思い出す。


 ♢


「白石アスタです。卒業後はイギリスに行くので、それまでよろしくお願いします」


 それは中学3年始めの4月の事。

 転校生が入って来た。


「えー! めっちゃイケメンじゃん!」「ハーフなんだってさ、日本とイギリスの」「いいな~、俺もあんな顔になりて~!」と、いろいろ声が上がっている。


「(変わった人が来たわね)」


 窓際のユキが話しかけてくる。

 日本とイギリスのハーフか。


 すぐにアイツは有名になっていった。

 頭脳の鋭さ、運動能力の高さ、顔面偏差値の高さ、それはもう群を抜いていたから。


 ユキは最初こそ認めなかったが、交流を深めるうちに、徐々に受け入れていった。

 "あのキツい性格を抑えた直後"ってのもあって、影響あったんだと思う。

 それぐらい、アイツは別格だった。


「また3人同じ点だったね」


 アスタは、3人それぞれの数学の点数を見比べて言う。


「そろそろミスりなさい、アスタ君」

「いや、それを言うならルイ君でしょ? この人完璧すぎておかしいって」

「ルイだもの。私が唯一尊敬してるんだから、認めなさい」


 なんでコイツが偉そうなんだよ。


「もう認めるよ、ってかもう認めてるよ。運動でも勝てないし」

「だって、ルイ」

「俺に振らんでいい」


 アスタは少し笑うと、外を眺め始めた。

 その横顔はどこか、"ここではないところ"を見ているようだった。


「新崎さんとルイ君って昔から仲良いんだよね? 羨ましいな、そんな関係」

「そうか?」

「僕はずっと、一人だったから」

「でもお前、いつも囲まれてんだろ。いくらでも話し相手出来そうに見えるけどな」

「うーん、それはそれ、これはこれって感じかな。本音で話し合える関係にはなれそうにないしね」

「ふーん。俺たちにはよく話しかけるのにな」

「二人は全然違うよ。なんかこう、全てをさらけ出して本音でぶつかり合える。好きなんだよ、君たちの事」

「だって、ユキ」

「え、私?」


 俺たちと話す時、確かにこいつは楽しそうだった。

 取り繕わないような、よく覚えている。


 ♢


 ついこの前までやり取りはしてたんだ。

 だけど、L.S.に変わってから急に連絡が取れなくなった。

 また話がしたいな、あいつと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ