横顔
「うわぁぁぁぁぁッ!?」
あれ!?
身体が自由に動く!?
手足をひっきりなしに動かしてみる。
ちゃんと感覚がある、後遺症も無い。
痛みも無い、どこも焼けてもいない。
ん?
誰かいる?
暗闇の中、目を凝らすとパジャマ姿のユキがいた。
微かな寝息を立てて寝ている。
こっそり頭を撫でてみた。
そうだよな、ユキはちゃんと生きてるよな!?
ちょっと顔も触ってみた。
今は"さっきのが夢"だったって事を証明したい。
「んー⋯なぁに⋯」
あ。
「⋯うーん⋯んー⋯え⋯ルイ⋯? え!?」
彼女は飛び起きると、俺の顔を揉みしだいた。
「本物よね!?」
「それいがいにゃにがあんにゃ」
「よかったぁ! 起きたのねっ! いつ起きたの?」
「いま」
「そっかそっか。なんかね⋯怖い夢を見てたの」
「怖い夢?」
「そのー、私が死んで、ルイが初めて泣く夢。私は見ている事しかできなくて、触れる事すらできなくて、そんな夢。おかしいよね、そんな事あるわけないのに」
そう、そんな事あるわけない。
なのに⋯
⋯"あの墓"の事が脳裏を過った
【 新 崎 ユ キ 】
そんな事あるわけない。
なのに、
「!? どうしたの!?」
涙が出ていた。
「あれ、なんで」
悲しいわけじゃない。
嫌な事があったわけじゃない。
なのに、なんで。
「ごめんね、私が変な話しちゃったからかな」
「いや違う、身体が勝手に反応して」
「⋯ルイでも泣くんだね、なんか嬉しい。初めて見ちゃった」
「嬉しいもんでもねぇだろ」
「いーや? ちゃんと人間なんだな~って! ルイのそんな様子、今まで一度も無かったから」
そう言うと、ユキは俺を無理やり引き寄せ、頭を撫で始めた。
「なっ! いいって、子供じゃあるまいし」
「いいの、こういう時は。甘える事だって、大事なんだから」
い、いやいや!?
"2つの柔らかいモノ"の感触が!?
涙が止まったかと思えば、最悪のタイミングで俺の股間が膨らみ始めた。
「へぇ~、ルイもちゃんと性欲あるんだね。よかった~」
「いや、ちょっ! 見んなって!?」
「やーだ。ルイにそういうのがあって、安心するんだもん」
「い、意味分かんねぇって!?」
「だって大きくなってくれないと、本番できないんだよ?」
「それはそれだろ!? もういいってっ!」
「あ~、逃げちゃダメ!」
何やってんだろ、ほんと。
小学生かよ、マジで。
他愛ないやり取りを数分した後、俺たちはまた寝っ転がった。
そして俺は、"ユキと同じような悪夢を見た件"を話した。
五年後の自分がいた事、そこにユキたちの墓があった事、さらにはタイムマシンのような機械があった事など。
茶化すことなく、ユキは最後まで真剣に聞いていた。
たぶん、滅多にない悪夢繋がりだったから、余計に気になったんだと思う。
「私のは"死んだ直後の自分を俯瞰視点で見る"って感じだったけど、ルイのは"私が見たのよりかは、結構先の未来?"って感じだね」
「そうだな。だから話聞いて、余計に身体が反応したのかもな」
「ね。なんか聞けば聞くほど不思議。こんな事あるんだね」
「今まで生きてきて、こんな事なった事無い」
「私も」
「夢だけど、正夢にならないようにするわ」
「うん。私もより一層、周りに注意するようにするね」
そう言った後、ユキは俺の方へと身体を向けてきた。
「ねぇねぇ、夢の中に"アスタ君の墓"もあったって言ったよね」
「うん」
「ここに来る途中見かけたよ? "アスタ君っぽい人"」
「は!? マジ!?」
「うん。似てたけど、違ったらわるいかなーって思って話しかけなかったけど⋯話しかけた方が良かったかな」
マジか。
アスタは中学時代に仲良かったヤツだ。
俺とユキとアスタ、いつも3人で競い合っていた。
今でも思い出す。
♢
「白石アスタです。卒業後はイギリスに行くので、それまでよろしくお願いします」
それは中学3年始めの4月の事。
転校生が入って来た。
「えー! めっちゃイケメンじゃん!」「ハーフなんだってさ、日本とイギリスの」「いいな~、俺もあんな顔になりて~!」と、いろいろ声が上がっている。
「(変わった人が来たわね)」
窓際のユキが話しかけてくる。
日本とイギリスのハーフか。
すぐにアイツは有名になっていった。
頭脳の鋭さ、運動能力の高さ、顔面偏差値の高さ、それはもう群を抜いていたから。
ユキは最初こそ認めなかったが、交流を深めるうちに、徐々に受け入れていった。
"あのキツい性格を抑えた直後"ってのもあって、影響あったんだと思う。
それぐらい、アイツは別格だった。
「また3人同じ点だったね」
アスタは、3人それぞれの数学の点数を見比べて言う。
「そろそろミスりなさい、アスタ君」
「いや、それを言うならルイ君でしょ? この人完璧すぎておかしいって」
「ルイだもの。私が唯一尊敬してるんだから、認めなさい」
なんでコイツが偉そうなんだよ。
「もう認めるよ、ってかもう認めてるよ。運動でも勝てないし」
「だって、ルイ」
「俺に振らんでいい」
アスタは少し笑うと、外を眺め始めた。
その横顔はどこか、"ここではないところ"を見ているようだった。
「新崎さんとルイ君って昔から仲良いんだよね? 羨ましいな、そんな関係」
「そうか?」
「僕はずっと、一人だったから」
「でもお前、いつも囲まれてんだろ。いくらでも話し相手出来そうに見えるけどな」
「うーん、それはそれ、これはこれって感じかな。本音で話し合える関係にはなれそうにないしね」
「ふーん。俺たちにはよく話しかけるのにな」
「二人は全然違うよ。なんかこう、全てをさらけ出して本音でぶつかり合える。好きなんだよ、君たちの事」
「だって、ユキ」
「え、私?」
俺たちと話す時、確かにこいつは楽しそうだった。
取り繕わないような、よく覚えている。
♢
ついこの前までやり取りはしてたんだ。
だけど、L.S.に変わってから急に連絡が取れなくなった。
また話がしたいな、あいつと。




