褒美
怯んでいるアイツらに対し、ある程度距離を保ち、小威力ほどのズノウで追撃する。
あまり強いのを使う訳にはいかない、この後のためにも温存しておく必要がある。
すると、ヤツら4人は突然一体化し始め、床からとてつもない強風が吹いた。
その強風はなぜかシンヤだけを巻き込むように吹き上がると、一人上のトップデッキへと連れていかれた。
焦った俺はミカイノズノウから〈九極蝶新星〉を取り出し、初撃のみでどうにかこじ開け、一目散に走りながらシンヤ視点を確認した。
トゥウェルバーがあって良かった、まさかこんなところで役に立つなんて。
そこには、"あの時見た光景とほぼ同じ状況"があった。
仰向け態勢のシンヤは高速プロペラの間におり、とても動けそうな状況じゃない。
このままあいつが潰されれば、教えられた意味が何一つ無い、これ以上俺たちが進む事もできなくなる。
俺は咄嗟に銃剣を放り投げ、壁から反射させた。
その先は想定通りの位置へと浮かび上がり、シンヤ視点を確認しながら〈超小型台風ENNEA〉を発動すると、銃剣周りから九角形の小型台風が2つ飛び出し、高速プロペラを2機とも大きく飛ばしていく。
「あっぶねぇ!」
言いつつシンヤは立ち上がり、急いでこっちへと引き下がる。
上がって俺が銃剣を取り戻したところで、奥から一人が現れた。
全身銀色の人間、いや、もう人間じゃない。
外務大臣の佐島栄輝。
『まるで"こうなる事が分かっていた"かのような、そんな動きをするな』
目線がゆっくりとこちらへ向く。
後ろからは、みんなが合流していた。
『揃いも揃ってこんな場所に何の用がある。誰も入らなくなった、ここに』
銀の硫酸とオリハルコンを分けて使うと言われているアイツ。
一瞬たりとも目を離してはいけない。
「⋯佐島大臣が持つ物に興味があり、ここへ来ました」
『私の持つ物? この"銀の硫酸"かね?』
俺の問いに、嘲笑うかのように冗談交じりに言う。
しばらく黙っていると、"1個の宝石?"がこちらへと投げられた。
ヤツの体内で生成されたと思われる、銀色の何か。
これはたぶん⋯
『その"シルバーオリハルコン"が欲しいのだろう? この世で私にしか作れない、私しか持っていない、架空だったはずの神秘の鉱石。何処に行こうと、何をしようと、手に入る事は無い。どこで知ったか知らないが、欲しい気持ちも分かる』
しかし、誰一人手を伸ばそうとしない。
こんな物じゃない、俺たちに必要な物は。
『早く取り給え、私の気が変わらぬうちに』
「⋯いりません」
言いながら一歩出たのはカイだった。
「取ろうとしたところを殺す、勘のいい探偵にはそんなのは通用しませんよ」
『⋯なに?』
「もし貰えるとしても、あなたがいなくなって、安全を確認してから貰う事にします」
次第に、佐島大臣は銀の硫酸を激しく動かし始めた。
強烈な勢いで流れるアレは当たれば⋯死ぬ。
『私はネルトに成り代われて良かった。お前のような青二才を苦しめるのに、情に委ねなくて良い』
大臣が手でパチッと鳴らした瞬間、全壁面に"銀の硫酸の壁?"が盛り上がった。
後ろのトップデッキ入口にも上がり、ここからはもう出られそうにない。
カイがSMGのVectorを取り出し、ヤツへと向ける。
続くように各々が武器を構え、戦闘態勢を整える。
『⋯そうか、お前らか。大臣を次々消して回っている者は』
ヤツに纏われていた銀の硫酸とオリハルコンが、周囲へ飛散して浮く。
それらは一気にこっちへと襲い掛かってきた。
『慎ましく逃げ回っていれば良かったものを。ソンナオ前ラニハ銀ノゴ褒美ダ』




