約束
「よぉ、昨晩ハーレム野郎じゃん」
「誰の事だ」
「お前以外誰がいんだよ」
「いや、俺夜逃げして一人部屋で寝たから違うけど」
「一緒に遊んだ時点で同じようなもんだろ」
俺は、一人トレーニングをするシンヤの隣に座った。
「お前も来ればいいだろ、俺はバカラでチート使ったって恨まれてたんだぞ」
「おめぇはなんでもかんでも勝ちすぎなんだよ、ちょっとは譲ってやれ」
「バカ言え、負けたら何要求されるか分からない状況だったんだぞ」
「みんなはお前のそういうとこを見たいんだよ、分かってねぇな~」
トレーニングの区切りを付けたシンヤが横に座る。
「んで、さっきから大事そうに持ってるその"カレイドクレープ"って書いてある箱はなんだ?」
「食うか? さっき買ってきたんだよ。30食限定、20種ぶどうのドーナツクレープ」
「おぉ! 俺の分があるのか!?」
「ちゃんとあるぞ。俺はユキみたいに"シン虐"しないから」
「んだよ"シン虐"って、シンヤ虐待の略か? 変な造語作んな」
「よく気付いたな」
「へっ、舐めんなよ」
「そんなあなたには、はい、ご褒美です」
ドーナツクレープの入った箱を渡す。
シンヤはすぐに中身を見た。
「おぉ~! クッソ美味そうじゃん! 真ん中にドーナツがくっ付いてんのか!」
「さっきニイナとノノと買いに行ったんだよ。二人は一瞬で完食してた」
「だろうな! こりゃすげぇや! 中は、クリームとぶどうがぎっちぎちだぜ! ⋯ほんとに食っていいのか?」
「気にせず食え、何も変な事しねぇよ」
「そんじゃ、いっただき~!」
シンヤが頬張ると、中からクリームが溢れた。
「クソ美味ぇや! ぶどうとドーナツとクレープってこんな合うんだな! またこのドーナツとクレープがもっちもちなのがいいわ!」
「良かったな、これでまた明日から頑張れそうか?」
「んなもん言われなくても当然よ! こうしてお前も無事帰って来た事だしな、俺たちで総理も真犯人もぶっ飛ばして、また楽しく生きて行こうぜ!」
「ふっ、そうだな」
「なんで一瞬笑ったんだよ」
「いや、お前の明るさは健在だなって」
「やっぱ俺がいねぇとダメだろ? そんでさ、全部終わったらまた俺と勝負してくれよ」
「へぇ~、まだ諦めてないのか」
「俺はな、人生が終わるまでお前に挑み続けるんだ。"成功者"のお前にな! んで、勝って俺が"成功者"になってやる!」
「まるでどっかの主人公みたいな事言うな。でも俺思うんだよ、最後に負けるならシンヤ、お前がいいって」
「急にらしくねぇ事言うなぁ、新崎さんやアスタだっていんだろ?」
「いいや、最後の最後で納得出来そうなのがシンヤだな。他は想像出来ない」
「ふーん、意外だな」
「そんな事無いと思うけどな。いっつも決勝でやり合ってた時、お前は俺の想像をいつも超えてきた。今だってプロでそうやってるじゃねぇか」
「よく見てんな! さすが出禁社長~!」
「誰が出禁社長だ。だから頼むわ、"本当の意味での負け"を付けるのは、お前であってくれよ」
「⋯任せろ、俺は研鑽をやめねぇ! 約束だ!」
俺とシンヤの拳がぶつかる。
そこに嘘など一つも無い。
その後は、シンヤのトレーニングに少し付き合った。
面白い手法が何個かあって、俺も取り入れてみようと思った。
これをヒナのトレーニングにも取り入れても良さそう。
「⋯ふぅ、こんなもんか」
「それじゃ、そろそろ俺はユキのとこ行くわ。これ渡さねぇと」
俺はドーナツクレープの箱を持ち、立ち上がる。
「新崎さん喜ぶだろうぜ。またイチャイチャが始まるか?」
「うっせぇ、んじゃ後でな」
GPSでユキの位置を確認すると、部屋に戻っているようだった。
ただGPSの様子が最近おかしく、長い時間表示されない時がある。
人工衛星に何か悪影響が出ているんだろうか⋯?
考えていると、突然通話が来た。
ユキからだ。
「ルイ? シンヤ君と一緒にいるよね? 位置近いし」
「さっきまでいたけど、今一人でそっちに向かってる」
「あ、こっち戻ってくる?」
「うん、ちょっと渡したい物があって」
俺とシンヤの位置をGPSで見たのか。
なんか用があるって事か。
「こっちも"ちょうど渡したい物"があるの、ヒナと一緒にいるわ」
「お、そうなのか。ヒナにも渡したかったから都合がいいな」
「なになに? 何を渡そうとしてるの?」
「まぁ一言言うと、"美味い物"ってだけ」
「もしかして、今日売ってる限定ドーナツクレープだったり?」
「⋯」
「⋯え、当たった?」
「⋯さぁな」
「だったら凄い嬉しいんだけど、私たち間に合わなかったから」
「それなら、楽しみにしておいて損は無いかもな」
「ふ~ん⋯じゃ、あえて何も言わずに楽しみに待ってよっかな~。こっちにある物も楽しみにしてて!」
「おう。すぐ行くわ」
「はーい」
"渡したい物"ってなんだ?
ヒナと一緒にいる⋯限定クレープ間に合わなかったって言ってたし、何か作ってたとか⋯?
期待を胸に、俺は金星ドーナツ四人部屋へと向かった。




