〇第7話『"ドラゴン"という憧れ』
ギルド内が慌てふためき、たくさんの従業員がギルド内を行き来していた。
ギルド内の大広場に集められた冒険者たち。
人数は二十名以上、人間の冒険者もいれば他種族の冒険者も複数いる。
その冒険者の人込みを近くで傍観していた俺は軽くため息をついた。
「何か面倒なことになってきたな……」
受付嬢さんから聞いた話によるとこうだ。
ここから北に位置する森からこの街に向かって危険な魔物が向かって来ている。
魔物が街に到着するまでの制限時間は約三日間。
このまま三日が過ぎると魔物は街に到着し、街は蹂躙されてたくさんの犠牲者が出る。
そのため現在、Cランク以上の冒険者たちがギルドに集められている。
魔物討伐隊が組まれている最中だった。
ちなみに何で魔物がこの街に近づいているのかは不明のまま。
「ユウヤ、これからどうする?」
「どうするもなにもしょうがないだろ。緊急事態ってことだし試験は一旦中断ってことだから騒ぎが落ち着くまで待ってるしかないな」
緊急事態のため俺の冒険者試験は中断。
魔物の討伐が終わるまでギルドで待機しているよう受付嬢さんに言われた。
だからこうして仕方なく討伐隊が組まれていく様を傍観していたわけだけど……。
こんな慌ただしい空気の中ただ待ってるだけというのも罪悪感を感じる。
「にしても……この世界の魔物って一体どんなんだろ……?」
魔物と言えば幻想物語作品の定番とも言える敵キャラ。
この世界でもその立ち位置は変わらないようだけど……
一体どんな姿をしてるんだろ?
見た目は全部異なるとは聞いたけどちょっと気になってはいる。
その時、柱の陰で密談する男二人組の話が俺とリーシャの耳に入ってきた。
「おい聞いたか? 街に近づいてくる魔物の話」
「あぁ、最初調査に出た数組の冒険者たちはほぼ全滅。噂に聞くと竜の魔物らしい」
「竜の魔物!? なんでそんなもんがこの街に――」
「シッ! 声がでけーよ。ベルカ大森林から真っ直ぐこの街に向かってるらしい。早い奴はもう街を出る準備を始めてる。魔物到着まで三日もないらしいぞ」
「どうする、うちらも急いで街から出るか?」
「逃げる準備してもうちは荷物多いし……出ていったところで避難先がねぇよ」
「だよなぁ……。出店とかの奴ならまだしも、うちみたいな街中に店を構えてる奴はそう簡単に店を手放せられねぇし……」
「ここは討伐隊の冒険者に期待するしかないな。ギルドが何とかすんだろ」
二人の会話を聞く限り、街に近づいてきてる魔物は相当ヤバイ魔物らしい。
竜の魔物か……。ん? "竜"の魔物???
「リーシャ、この世界には竜の種族『竜鱗族』ってのがいるんだよな、竜の魔物ってのは『竜鱗族』とはまた違うのか?」
「魔物には独自の形をしてる魔物もいれば他種族に形が似た魔物もいるの。他種族に似た魔物は元々その種族が邪悪な魔力に染まって魔物になるって言われてるけど……」
「つまり、この街に向かって来ている竜の魔物は元々は普通の竜鱗族の可能性があるってことか」
「そうだね、でもそれがどうかしたの?」
「んー……その竜の魔物って今の俺じゃあ倒せないかな?」
「え!? そんな無茶だよ! 確かにユウヤは強いけど竜の魔物ってなると上級の冒険者だって手を焼く魔物だよ? そもそも竜鱗族は全種族の中で最強の種族、魔物じゃなくても個体次第じゃ一国を亡ぼせる力があるんだよ、そんな種族が魔物化してるとなると――」
「だとしても放ってはおけない。もしこの街にその魔物が来たらかなりの犠牲者がでると思うんだ。それに早く問題解決してとっとと試験の続きやりたいしな」
なんて言ってはみたものの、らしくない理由だなと自分で呆れ果てる。
それもその筈、何故なら「この街のため」なんてのは後付けの理由に過ぎない。
竜っていう幻獣をこの目で見てみたいっていうのが本音だ。
どの漫画やゲームにも必ずとして強敵として現れる「竜」と呼ばれる幻獣。
凶暴な面を持ちながらも凛々しくも猛々しい。
ゲームや漫画、どの作品においても竜は強力な敵として、またはラスボスとして描かれ、幻想物語作品には絶対に欠かせない空想上の幻獣だ。
そんな幻獣にカッコ良さを感じ、いつの間にか俺の中で竜は憧れの存在となっていた。
小さいガキの頃は竜をペットにしたいと思ったこともあったっけ。
自分でオリジナルの竜を考えたり、下手ながらも粘土細工でドラゴンを作ったり。
それぐらい竜は俺にとって思い入れのある存在なのだ。
そんな空想上の幻獣がこの世界では実在している。
好機があれば見てみたいとは思っていたけどまさかこんなにも早く会える機会が訪れるとは。これは是非とも直で見て拝んでおきたい。
「リーシャ、ベルカ大森林って場所は分かるか?」
「分かるけどホントに行くつもりなの? 相手は魔物化した竜だよ? 多少の理性がある竜とはまた違う。出会ったが最後、殺されちゃうかも……」
「街の人たちのためだ、俺は行く。そんなに危険ならリーシャはここで待ってて――」
「それはダメ!」
リーシャは俺の言葉を遮り、身体にギュッとしがみ付いてくる。
「一緒にいてくれるって言ったじゃない……。やっぱり僕が一緒にいると迷惑?」
「いや、あの……そういうわけじゃあ……」
だからそんな潤んだ上目遣いで俺を見るなって。
こんなに怯える所を見るともう一人にはなりたくないんだろう。俺を頼りにする辺り身内もいなさそうだし、いくら奴隷から解放されたとは言え一人はやっぱり寂しいんだろうな。
「あぁっもう、だからそんな悲しい顔するなっての! 別にお前を置いてきぼりにするとか考えてないって、ただそんなに危ないならここで待ってた方がいいと思っただけで」
「分かってる、分かってるけど……でもここでユウヤと別れたらもう会えない気がして……」
「……分かった、一緒に行こう。ただし危ない目にあっても俺は責任追わんからな」
そう言って俺はリーシャを持ち上げ、リーシャを自分の首に股がらせる。
いきなり肩車をされて困惑するリーシャ。
「な、なに? どうしたのユウヤ?」
「一緒に歩いていくのも面倒だ、しっかり掴まってろよ。あ、途中道案内だけよろしく」
「それってどう――」
俺は脚にありったけの力を込め、街の外を目指し、全力疾走。
やっぱり怪力だけじゃない。この身体は脚力も凄まじいものだ。
余りのスピードに建築物の壁にぶつかりそうになったり、積み上がった樽を崩してしまったりなどなど道中トラブルもあったが十秒も掛からない間に街の外へ。
通り過ぎる一瞬、門番に引き留められた気もしたが無視して俺とリーシャは全速力でベルカ大森林へと向かった。
全ては自分の憧れの幻獣『竜』を目指して!




