表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

〇第5話『冒険者試験』


 ギルドの中にこんなデカい地下階段があったなんてな……。

 受付嬢さんの持つ(ランプ)があるけど、進んでも進んでも薄暗い地下階段。

 ちょっと不気味で怖いな……隣りを歩くリーシャも怯えてるし。


「何か怖い……」

「まぁ……そんなヤバい場所に連れてかれることはないだろうけど……」


 にしても、俺は何所に案内されてるんだろう。

 今から冒険者になるための試験を受けに行くんだよな? 

 こんな地下深くまで何しに行くんだ?

 黙々と前を歩いく受付嬢さんもちょっと不気味なんだけど……。


「あの……本当によかったんですか? 俺、ローダって人は……」

「いいんですよ。ローダ(あのひと)腕は良いんですけど人間としては最低なんです。勝負に負けた腹いせに夜道で襲われた人だっているんですから、自業自得なんですよ」


 マジかよ、まぁでも確かに悪そうな人相だったもんなぁ。

 スキンヘッドに相撲体系。

 世紀末アニメに出てくる敵側のモブキャラみたいな見た目だったもんなあれ。

 あの見た目で腕が良いってのは(にわ)かに信じ難いけど。


「にしてもローダさんに勝つなんて凄いですね。あの人、怪力だけならこのギルドじゃかなり上位に入る冒険者ですのに」

「え、あれでですか? 全然楽勝だったというか……」


 まぁ、勝てたのはこの身体のおかげだろうな。

 普通の正拳突きで人間の肉体を貫通するぐらいの腕力だ。

 人間の腕を折るぐらいなんてわけないわな。

 ただ、腕相撲で改めて分かったけどこの身体、力加減の制御が難しい。リーシャを守った時はがむしゃらに力を振るったけど、腕相撲はほとんど力を込めていないのに腕を折る威力だ。

 今後注意していかなくちゃな……。


「楽勝ですか。でも今から会う試験官に会っても同じ台詞が言えますかね」

「試験官? そういえば俺達、何所に向かってるんですか?」

「もう着きますよ。ここです」


 着いたのは薄暗い通路に構えられた大きな扉。

 その扉が開くと中は広い円状の空間が広がっていた。

 部屋の中央には石畳が敷かれ広々とした円状の闘技場(ステージ)

 壁には様々な種類の武具や武器が並べられ、闘技場(ステージ)を観戦できるように周りにたくさんの観覧席も設けられている。


(ひっろ)……。ここは?」


「ギルドの地下訓練場です。新米の冒険者さんに稽古をつけたり、今回のように冒険者の試験をする場所としても使われるんですよ。あとは街の一時緊急避難場所としても使われますね」


 確かにこんだけ広いならたくさんの人を匿えそうだ。

 にしてもホント広いなぁ。武道館ぐらいはあるんじゃないか?

 天井もメチャクチャ高いし。

 観客席もあるから何か他の用途にも使えそうだけど……。


「フンッ! フン! フンッ!」


 ふとステージの上を見ると大斧を振り回す大柄の男がいた。

 姿は焦げ茶に近い褐色の肌で俺の身長の倍はある体格。

 さっきのローダとは違い、見事な筋肉体(マッチョボディ)だ。

 年齢(見た目)は……三十から四十くらいか。

 顔はイカついけど何処か優しそうな雰囲気を感じる人だ。


「ドルクさん、今回の冒険者希望の方をお連れしました」

「おぉ、来たか」


 正面から対面するとかなり大きい。

 尖った耳の形を見るに人間じゃないことは確かだけど……何の種族だ?


「お前が今回の冒険者希望か?」

「は、はい。よろしくお願いします」

「このギルドで試験官をやってるドワーフのドルクだ、よろしくな」

「ド、ドワーフ!?」


 この褐色筋肉の大男がドワーフなんて。

 ドワーフと言えば低身長、髭面のお年寄りで酒好きの鍛冶職人の印象(イメージ)だ。

 色んな異世界作品でもそれはどこも共通だろうし、一般人類(オタク)の認識もそれのはず。

 まったくその印象(イメージ)と全然ちげぇな……。

 今、俺の目の前にいるドワーフは褐色肌の身長二メートルの筋肉体(マッチョボディ)の大男。胸当ての鎧を装備して大斧を地面に突き立てるその姿はまさに歴戦の戦士感を漂わせている。

 髭も無精髭程度、頭は角刈り、俺のドワーフのイメージを覆す姿。戦士のトワーフが出てくる作品もあるにはあるが大体みんなが2、3等身の小柄なおじさんだ。

 こんな褐色ボディービルダーは想定外だ。


「えーっと、これから何をするんですか?」

「今からお前には簡単な冒険者登録の試験をやってもらう」

「それは知ってるんですけど、どんな試験をするんですか?」

「内容は至って簡単だ。俺と簡単な対人を想定した模擬戦を行う。それに合格したらギルドマスターからの面接、それが問題なければお前は晴れて冒険者になれる、という流れだ」

「模擬戦と面接……。ちなみに筆記試験みたいなものはあるんですか?」

「いやんなもんあるわけないだろ。王族の職なんかに就くならまだしも戦闘や野宿(サバイバル)が主な冒険者にんなものは必要ない。冒険者の知識は全て実力と経験で学んでいくものだしな」


 ほっ……良かった。

 この世界の字なんて書くどころか読めもしないのに筆記試験なんて出されたら完全に積む。

 そこの心配は取り越し苦労だったみたいだな。


「わかりました。模擬戦のルールは?」

「五分間、俺の攻撃に耐えるか、俺に2回攻撃を当てれば合格だ。武器はどうする? 木製の訓練用の武具なら幾つかあるが……」

「いえ、武器は使い慣れていないので。素手で大丈夫です」

「そうか。ちなみにその獣人は何だ? その子も冒険者希望か?」

「あ、いいえ。この娘は俺の連れなんです。ただの付き添いなんでお気になさらず」


 ドルグさんは木製の大きな斧に持ち替え、俺は石畳の広がる闘技場(ステージ)に上がる。


「ユウヤ、気を付けてね……」

「あぁ、行ってくる」


 心配するリーシャに見送られ、闘技場(ステージ)の上でドルクさんと数十秒対峙。

 そして受付嬢さんが試験開始の合図をする。


「それでは始めてください!」


 開始の瞬間、ドルクさんは斧を振りかぶり一瞬で俺との間合いを詰めてきた。


 巨体には似合わないスピード。

 まさに大岩の落石が突進してくるかのような迫力だ。

 そんな迫力にも関わらず俺の思考は冷静で落ち着いていた。

 視界に入る全ての動きがゆっくりに動く。

 そのおかげで相手が次に何を繰り出してくるか分かる。

 この研ぎ澄まされた感覚、武装した男たちに囲まれた時と同じだ。ゆっくりと振り降ろされる斧の軌道を視線で追い、横に逸れるように斧の一撃を躱した。


「この初撃を避けるか、ならッ!!」


 次にドルクさんは斧を振り回すような乱舞攻撃を繰り出してきた。

 休む間もなく繰り出される怒涛の連撃。

 多方角から繰り出される猛撃の嵐は風圧を巻き起こす。

 ド素人なら成す術もなく簡単にやられるだろうな。

 でも、今の俺なら躱すことなんて余裕だ。

 どうやらこの身体は少し意識を集中するだけでこの研ぎ澄まされた状態になるようだ。

 猛速度(もうスピード)で繰り出される斧の乱舞の軌道が手に取るようにわかる。

 動きもゆっくりとしている視界なら避けることは造作もないこと。


「このっ――! この攻撃を躱し続けるなどッッ!!」


 一発も当たらないことに少し苛立ってきたのか。

 ドルクさんの表情が少しずつ険しくなり、乱舞の攻撃のスピードも徐々に上がっていく。

 だとしても、全然避けられるけどな。


「うぉおおおおおおお!!」


 俺はその攻撃の隙を見極めドルクさんの懐に一気に近づく。

 俺はドルクさんの腹筋部分に一撃を入れようと拳に力を込める。

 あれ? でもこのまま攻撃を入れて大丈夫なのか……?

 脳裏に初めてこの身体の力を振るったあの時の光景が過る。

 あの時はまだ力の加減も分からず、思うがままに力を振るってリーシャを襲った奴隷商を皆殺しにしてしまったけど冒険者の試験官にあの馬鹿力を容赦なく振るったらどうなる?

 加減を間違えて拳でお腹に風穴でも空けてしまったら……。

 いやさすがにマズイよな……(汗)。

 怖くなり、一旦ドレクさんと距離を取り懐を離れた。

 相手は試験官だ。

 これがとんでもない悪人だったり、俺を殺そうとしてる相手なら遠慮しないんだけど……。

 さすがに悪人でもない正規の試験官を殺すのはまずい。

 ま、本来悪人でも殺しちゃダメなんだけどね。 


「……?」


 唐突に距離をとった俺のことを不審と思ったのか。

 ドルクさんは疑問の表情を浮かべる。


「なぜ距離を取った? 今のタイミングなら確実に俺の懐に一撃を入れられたぞ」

 

 そんな疑問を投げかけられるも、俺は再度自分の力加減を確認していく。

 何も考えずに振るったらダメだめだ。

 小突く程度に充てる感じに最小限に……。

 というか、普通に考えれば力の制御に自信がないならもう一つの合格条件『五分間攻撃を耐える』を達成できればいい。そうすれば試験には合格できる。


 でも、さすがにそれはつまらんよな……。


 避けてるだけってのも何か退屈だ。

 だったら早めに二回攻撃を当てて気持ち良く合格したい。

 一瞬の間を狙いドルクさんの両足の間を滑走(スライディング)で潜り抜け俺はその背後に回る。

 その移動時間は2秒にも満たない。


「なにッ!? しまっ――」


 背後の背骨を狙い、全力は出さず背骨を軽く小突く感じで殴った。

 するとドルクさんはまるでトラックに撥ねられた様に吹き飛び、石畳の床に激しく横転。

 うわ、これは加減間違えたか……。

 身体に風穴を空けることはなかったけどかなり吹き飛んだ。

 小突いてこの威力でこれかよ……。

 マジで加減間違ったら殺しちゃうなこれ。


「あのぉ……大丈夫(だいじょーぶ)ですか?」

「……………………」


 心配の言葉を投げかけると、数秒沈黙したあとにドルクさんはゆっくりと立ち上がる。


「驚いたぞ。腕力(パワー)速さ(スピード)でオレをここまで圧倒するとは。魔族とは何回か戦ったことがあるがお前が恐らくその中でも一番の強者だ」

「そうなんですか? あんまり実感がないんですけど……」

「久しぶりの強者だ。ならこちらも本気で相手をする必要がありそうだな」


 ドルクさんは斧を床に捨て、手を掲げると宙に幾つもの魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣からは様々な形の岩の塊が現れ、ドルクさんの身の周りを覆い囲っていく。


「これってまさか……魔法!?」

「魔族の少年、ここからは全力でお相手するとしよう。能力(スキル)岩装(がんそう)』!!」


 岩が飛んでくるのかと思い身構えると、岩はドルクさんの身体に貼り付いていく。

 足の爪先から頭の天辺までドルクさんの表面を鎧のように覆い隠していく。

 身体に隙間なく覆った姿は岩の巨兵とも呼べるに相応しい姿だ。


「ここからは全力だ少年。Bランクの実力、存分に味わうがいい!!」


 瞬きをしたその瞬間、目前までドルクさんの突進が迫る。

 両肩には無数の痛々しい棘が並び、直撃すればまず大怪我は避けられない。


「うぉっと、(あっぶ)な!?」


 一秒にも満たない刹那の一瞬を突かれた。

 けど俺はその突進を難なく躱す。


「この岩装状態の突進も躱すか、だがッ!」


 避けるとドルクさんはその場で急停止し、俺の頭目掛けて変則的な右裏拳を放つ。


「うぉっとッ!? 何だよその変則的な動き!?」


 その変則的な裏拳を避けるとドルクさんが視界から一瞬のうちに消え、再び背後からの突進。それを避けても再びその場に急停止され、正拳や蹴りなどの攻撃を繰り出される。休む暇もない接近戦による変則的攻撃の嵐、避けても避けても切がない。

 しかもそれだけじゃない。

 さっきからにドルクさんの動き、動きを変える時の初動が全くない。だから避けるタイミングを見極めるのが難しく一気に戦闘レベルの難易度が上がった感じだ。


「どうしたどうした! オレ以上の早い速さ(スピード)と怪力がないとこの連続突進は止められないぞ!!」


 確かにさっきの斧の攻撃よりかは遥かに早いし絶え間ない連続攻撃は気が抜けない。

 でも、まだ避けれる範囲内だ。

 視界に入る動きがゆっくり動いているのに変わりはない。

 しっかりと相手の動きに注意してれば攻撃が俺に当たることはない。

 あと、この怪力(からだ)を上手く使えばあの硬そうな岩の鎧も簡単に粉砕できるだろう。

 ただ問題は力加減。相手が岩を纏ってたとしても油断は一切できない。

 纏った岩だけをピンポイントで砕く、また難しい難題がきたもんだ。


「どうした! 避けるだけが精一杯か!!」

 

 (ちげ)ーよ、どう力加減するか悩んでんだよ。

 と、心で突っ込みを入れつつもどう反撃しようか考える。

 思いっきり殴れば岩は破壊できるだろうけど中の生身はただでは済まないだろう。

 んー、どうしたもんか……。


「この岩をどう破壊しようと考えてるようだが無駄だぞ。オレを覆うこの岩はある鉱物の原石でさらに俺の魔力でさらにその硬さを高めてある! さっきの威力じゃあ破壊することは不可能だ!」


 ということはつまり相当力を入れても壊れないってことか。

 ならば好都合、少しだけ全力を出させてもらう。


「五分間逃げ切るつもりか! だが、その前に勝負は付けさせてもらうぞ!!」

「そんなつもりありませんよ。ここは堂々と真正面から打ち砕くッ!」


 それはこっちのセリフだ。ダラダラと時間を潰すつもりはない。

 正面から突進が来た瞬間、俺は拳をグッと握りしめ少し力を込める。

 感覚的に全力の百パーセント中、四十%ぐらい。その感覚を意識して拳を打つ。


「せーっ……のッ!!!」

「なっ――!!?」


 正面から放った拳は見事にドルクさんの腹部の岩鎧部分を粉砕。

 同時にドルクさんと鎧の破片は吹き飛ぶように宙を舞う。

 そのまま再び場外まで飛ばされ、石壁に叩きつけられた。


「グッ……まさかこの鎧がここまで砕かれるとはッ――」


 拳を受けた腹部を押さえながらドルクさんはゆっくりと立ち上がる。

 よし、多少の傷はあるようだけどドルクさん本体は無事。

 どうやら上手く岩の鎧だけを壊せたようだ。


「完敗だ。まさかオレの岩装まで砕かれるとは……」


 すると審判をしていた受付嬢さんがドルクさんの元へと駆け寄る。


「ドルクさん、大丈夫ですか!?」

「あぁ、内臓には問題ない。回復薬(ポーション)を飲めばすぐに治る」


「だとしても、冒険者試験にあの技はやりすぎです! あの技は凶悪な魔物にのみ使うドルクさんの奥の手じゃないですか」

「あんな強力な一撃を貰ってしまったからな。つい火がついてしまったよ」

「俺もびっくりしましたよ。あんな本気を出されるとは思ってなかったですから」

「合格だ魔族の少年。これだけの実力なら冒険者として申し分ない、いやそれ以上と言っていいだろう。すぐにギルマスとの面談の準備を――――」


「緊急です! ドルクさんはおられますか!?」


 大扉を開けて別の受付嬢が血相を変えて訓練場に駆けつけてきた。

 かなり慌てているようで、息を切らしてドルクさんの元に駆け寄っていく。


「どうしたアルミド嬢? こっちは今立て込んでるんだが」

「試験の方は一旦保留にしてください。ギルドに属するCランク以上の冒険者はすぐにギルド前の広場に集まってください! ギルド専属の冒険者従業員も含めです」

「まてまて、何をそんなに慌てている? まず要件を言え要件を」


「この街に大型の魔物が近づいてきているんです!!」


 その言葉に審判をしていた受付嬢さんとドルクさんの表情が変わった。

 ただごとではない状況に俺とリーシャは顔を見合わせる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ