表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

〇第4話『冒険者』


 翌日。


 日の出と共に出発し、目指す方角を歩き続けること数時間。

 やっと見えてきた。

 周りは高い壁に囲われる異種族達で賑わう街。


「もしかしてあれが――」

 

 あれが冒険者の街『エルトワール』か。


 にしても、街と呼ぶには結構なデカさだ。

 街というより"市"に近い広さだな。

 思った以上にこの世界の文明はかなり盛んそうだ。

 入口前では長蛇の列が並び門番による入門審査が行われていた。

 俺とリーシャはすぐさま列に並び、ドキドキしながら審査を受ける。

 その審査の際、門番の兵らしき人から色々と説明を受ける。

 街に入るには身分を確認できる物を提示し、入門料を払わなければならないらしい。

 しかも身分掲示ができなければ二倍もの入門料を徴収される。

 でも、今お金の懐具合は問題ない。

 さっき奴隷商人の荷物から拝借した金貨があるからな。

 リーシャは自分の奴隷ということで門番に説明。

 二人分の入門料を払って俺無事に街に入ることはできた。


「お、おぉおおおお……!」


 そこはまさにオタクにとって夢のような光景が広がっていた。

 石造りの建物が多く建ち並び、まさに中世を印象(イメージ)させる都会の街。

 路上は石畳で綺麗に舗装され、溢れかえる人込みで満たされている。

 数多くの売店や屋台、露店などが数多く大規模な市場が作られガヤガヤと賑やかな声が飛び交う。

 そんな賑やかな人込みにいる異種族たち。

 もちろん普通の人間もいるが、その中でも圧倒的存在感の異種族たちに俺はに目移りしてしまう。


「すっげぇ……リーシャ以外の獣人があちこちにいる! あの獣人は顔が完全に猫じゃん! あれはケンタウロスか? おぉ! あの耳が長い金髪はエルフ!? しかもちっちゃい羽の生えた小人を連れてる、ピクシーってやつか? え、あの人なんか単眼じゃんスゲー! うわっ、あの人頭から角が生えとる!!」


 しかも目に映る街の住民みんなが剣や長物などの武器を携帯し、鎧を着てる者もいる。

 さすがは冒険者の街!

 異種族ってだけでも興奮ものなのにさらに冒険者仕様の衣装とか武装とか、異世界幻想物語(ファンタジー)好きからしたらもうテンション爆上がりものだ!

 本当にここって異世界だったんだな……。

 改めてここが異世界である事実をしっかりと噛み締める。

 その感動に浸りつつ、とりあえず深呼吸をして冷静さを取り戻す。

 

「ユウヤどうしたの?」

「な、なんでもないよ。この光景を見てここが異世界だって事実を噛み締めてただけだ」


 さてさて、オタク性癖を丸出しにするのはここまでにしてっと。

 ようやく目的である人のいる場所についたわけだけど。

 ここからどうしようか……。

 この世界の情報を集めるってことだけどどう集めるべきか。

 さすがに通りすがりの人に聞くわけにもいかんし……。


「ユウヤ、とりあえず冒険者ギルドの方に行ってみたら?」

「冒険者ギルド?」

「ほら、街の中央にあるあの大きな建物だよ。冒険者が仕事の依頼を受注したり報酬を受けたりする場所で貴重な素材を買い取ったりしてくれる冒険者の拠点でもあるんだよ」


 見ると少し歩く距離に横幅の広い大きな建物が見える。まるで城だな。

 この街(エルトワール)の冒険者ギルドはこの大陸の中心となる大きな冒険者ギルドらしい。

 確かに通行人とかに聞くよりもギルドに行った方が情報は聞きやすいかもしれないな。

 それにあれだけ大きい建物なら人も多いはずだ。


「ちなみにこの世界での冒険者ってどんな事するんだ?」

「基本は魔物の討伐と遺跡や秘境の調査、あとはお尋ね者の捕獲と討伐かな。冒険者のランクで受ける依頼内容も大きく変わるけど、主な仕事内容はこの二つが多いイメージかも。雑用とかボランティア活動とかもあるみたいだけどそれは確か駆け出しの仕事だし」


 冒険者は基本、登録した街のギルドを拠点に国内の様々な依頼をこなす。

 他国を渡り各地のギルドで様々な依頼をこなすフリーな冒険者もいるが基本登録したギルドに身を置き、その冒険者ギルドの専属になる。


 そして、冒険者にはランクがある。

 冒険者になるとそのランクが彫られた金属タグが発行され"冒険者の証"兼"身分証明書"になる。

 ランクによって受ける内容は変わり、E~Xまでのランクが色別で存在する。


・【Eランク】(緑) 一番下の新人ランク。雑用や下働きなどもこなす。

・【Dランク】(青) 仕事に慣れ始めたランク。魔物討伐も視野に入れるランク。

・【Cランク】(黄) ベテランランク。中型の魔族の討伐が主な仕事。

・【Bランク】(銀) 一流ランク。ギルドからの指名依頼もを受け持つ。

・【Aランク】(金) 超一流ランク。大型の魔物の討伐依頼が主な仕事。

・【Sランク】(白) 国家レベルに関わる依頼もこなすランク。

・【Xランク】(黒) まさに伝説級。個での戦闘力はまさに一軍に匹敵。


 Xランクは通称『クロスランク』と呼ばれ、なれる冒険者は一握り。

 各地域のギルドに一人いればそのギルドは優遇されるレベルで凄いランクらしい。


「冒険者って誰でもなれる? 俺でもなれるかな」


「ギルドで出される試験に合格しないとなれないはずだけど……ボクも内容自体は分からないかな。地方のギルドによって内容は違うって言うのは知ってるけど」


「つまりその試験に合格すれば冒険者になれるってことか」


 恐らく今後、身分を証明できる物が必要になってくるだろう。

 正直、街の門番にも少し怪しまれてたし別の国に入国する場合も必要なはず。

 倍以上の入門料を払うのも金銭面での負担(リスク)が高すぎるしな。


「よし、ならなってみるか」

「ユウヤ冒険者になるの?」

「冒険者の証を持ってれば今後役に立ちそうだし、身元の証明にもなるだろ?」

「でも試験はどうするの? 何が行われるかわからないのに」

「無理そうな内容だったら諦めるよ、筆記の試験がこられたらお手上げだからな」


 筆記の試験がこられたらアウトだ。

 そもそもこの世界の文字なんか読めないし。

 でも逆に実技の試験なら望みはある。

 奴隷商の男たちを軽々屠ったこの身体なら。

 ギルドへ向かう道中リーシャに引き続き冒険者について色々と説明を受ける。

 冒険者になれる年齢は15歳以上、どんな種族でも関係なくなれる。

 ランクが上がるほど高額な依頼を受けられ、国からも支援を受けギルドからの信頼も高くなり、活躍次第ではどんな夢も叶えられる。

 まさに全世界憧れの職業、それが『冒険者』と呼ばれる職業。

 しかし依頼の質が上がればその分危険度や難易度も跳ね上がり、達成率も低くなる。

 下手をすれば命を落としかねないリスクある職業でもあるのだ。


「ついたぞ。ここがそうか……」


 そんな話をしていると気が付けばギルドのの入り口に到着していた。

 歩いて大体一時間ぐらいか。

 それにしても改めて目の前にするとやっぱりデカい。

 東京ドームみたいに広く、とても1日で中を回り切れない広さだ。

 いろんな種族に対応してか、入り口は大きめに作られていて付近の広場はとても賑やかだ。

 広場の中心には噴水が設置され、待ち合わせている種族もちらほら。

 出店を開いてる種族もいて、武装した冒険者らしき種族たちもあちこちにいる。

 この街、もといこの世界からしたら当たり前の光景なんだろうけど……。

 そんな当たり前の光景に俺はいちいち感動してしまう。


「マジでデッカいなぁ。どんな建築したらこんなデカさになるんだ?」


 中に入ると天井からシャンデリアのような照明が幾つも垂れ下がってる。

 レンガの壁に支柱となる木柱、木製の床、まさに中世の建築物をイメージした感じだ。

 にしても、入ってからちょいちょい視線が痛い……。

 何故か周りからの視線が俺ばかりに向けられている。

 やっぱり魔族とは言え、この身体は珍しいんだろうか……。

 

 とりあえず、視線は放っておいてギルドの奥へと進んでいく。

 奥へ進むと依頼書が貼りだされている広間や魔物を解体すると思われる解体場。職員が対応する受付口に食堂兼酒場みたいな場所まである。

 ひとまず、受付で聞けばいいのかな。

 受付口には処理業務(デスクワーク)するギルド職員の受付嬢が座っていた。

 緑色の制服を着こみ、眼鏡が知的な若い女性だ。

 見た目で判断するならこの人は人間だろう。


「あのぉ、すいません」

「はい、なんの御用でしょうか、依頼の受注ですか?」

「あ、いえ冒険者になりたいんですけど、それに必要な受付ってここですか?」

「新規冒険者の登録ですね。少しお待ちください」


 そう言って女性は机の下から一枚の紙を取り出しハンコや羽ペンなどの道具を机に並べていく。


「ようこそ、エルトワール冒険者ギルドへ。このギルドへの訪問は初めてですか?」

「はい。そもそもこの街自体が初めてでして」

「では冒険者になるための手順と冒険者の活動内容を説明させていただきますね」


 そう言って受付嬢はニッコリと微笑み、丁寧な説明を述べてくれた。

 まずはランクの説明。ここはリーシャが教えてくれた説明と同じだ。

 それ以外の説明は、


 ・冒険者には信頼度(ポイント)と呼ばれるものがあり、依頼成功を重ねていくことで信頼度(ポイント)は加算されていく。大きい依頼であればあるほど信頼度(ポイント)は大きくなる。

 規定値の信頼度(ポイント)が溜まるとランクアップの試験を受ける権利が与えられ、それに合格するとランクが上がり昇格することができる。

 また依頼の失敗が続くと信頼度が減点されていき最悪ランク降格もある場合がある。


 ・冒険者は最低でも半年に一度は依頼を受けなければならない。

 半年以内に依頼を受けない場合は冒険者証明書が失効し一番下のランクからやり直しになる。

 また同業者同士の争いや問題行動、依頼の不正が発覚した場合、ギルドからの追放または冒険者の権利を剥奪され、二度と冒険者は出来なくなる。


・依頼にもランクがあり自分と同ランクの依頼しか受けることはできない。

 また複数のパーティーの場合パーティー内にAランクがいれば低ランクでも高ランクの依頼を受けることができる。


 以上が受付嬢から受けた説明だ。

 まぁ、ゲームやアニメの知識はあったしこの辺は概ね予想通りだな。


「ちなみにそちらの方はパーティーメンバーの方ですか?」


 受付嬢はリーシャを見て訊ねる。


「あ、いえこの子はただの連れなんで」

「では登録はあなた様だけということでよろしいですか?」

「はい、お願いします」

「畏まりました、ではこの用紙のここの欄にお名前と現在の職業をお書きください」

「あ、えーっと……ちなみに文字ってこの書類に記載されてる文字は分からないんですが……。自分の故郷の文字でも大丈夫ですか?」

「あ、他国の方だったんですね。大丈夫ですよ、故郷の文字でも記入してくだされば書類が自動的に翻訳してくださるので」


 書類が自動的に翻訳!? マジかよ、さすが異世界ファンタジー……スゲーな。

 言われた通り名前をカタカナで『ユウヤ』と入れた。

 にしても職業かぁ……。ここってどう書けばいいんだぁ……?

 無職って書くのもなんか格好悪いし……。とりあえず『戦士』と記入しておこう。

 リーシャを襲った奴隷商人を肉弾戦で撲殺したことだしな。


「お名前は『ユウヤ』さんですね。では試験の準備をしますのでこのフロアにてお待ちください。準備ができましたらお呼びしますので」


 そう言って受付嬢は席を外し、奥へと下がっていった。

 にしても冒険者ギルドってこう、もう少しこじんまりしたイメージだったけどここはその想像を遥かに上回るデカさだ。

 受付の窓口も十箇所以上あるし買取所もいろいろな素材に対応するためかかなり広く作られている。食堂もいろんな種族が利用できるように豊富な規格のイスとテーブルが置いてあるし、天井も高い。


「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」


 何だ? 今の歓声は。

 食堂をうろついてると奥の人だかりから歓声が聞こえてきた。

 気になって見に行くと、そこではむっさい男同士の腕相撲が行われていた。


「ぐんぬぉおおおおおおお!!」

「どうしたどうした! もっと押しが足んねぇぞ!!」


 ギリギリと互いの腕力が均衡しているが対峙してる片方の大男の方には余裕が感じられる。

 一方で大男の相手の男は顔を真っ赤にし必死に大男の手を押しているがまったく動く気配がない。

 あんだけ体格差があるなら無理だろうなぁ……。

 中年の大男に対して相手は若くかなり小柄だ。

 筋肉も多少あるけど大男に比べたらかなり劣っているし見た目だけならもう勝負は目に見えている。

 そして数秒後、小柄な男の腕はテーブルに叩きつけられ勝負は大男の勝利。


「くっそ、こんの馬鹿力め……」

 

 負けた男はテーブルに金貨数枚を置いて、その場から退散していく。


「グァッハッハッ!! どいつもこいつもひ弱だな! もっと骨のある奴はいないのか?」


 机の上には金貨が五十枚以上積み重ねられている。

 負けて金貨を支払ってたけど、一体どういう仕組み(システム)なんだ?

 俺は隣で観戦している別の男にこの現状を聞いた。


「あのぉ、これは一体何をしてるんですか?」

「ここら辺では見ない魔族だな、新米さんかい?」

「はい。この街には今日初めて来たばかりで……」

「そうかい。あのテーブルに座ってるローダって冒険者はこの辺では上位に入るほどの怪力の持ち主でね、たまにこうやって腕相撲で賭け試合をやってるんだよ」


「賭け試合ってあのテーブルに置いてある金貨が賞金ですか?」

「ああ、対戦相手は勝負の前に金貨を1枚から5枚まで賭けることができ、負ければ賭けた金額を払い、勝てば机の上の金貨を全部総取りできるんだ」


 なるほど。つまり机の上の金貨は対戦相手に勝ってぶんどったお金ってわけか。

 勝ったら総取りって、あの机の上の金貨は日本円にしたらいくらぐらいなんだろう。

 異世界ファンタジーだと金貨は高額で日本円だと一万円ぐらいが相場だけど。


「おらおら、もっと骨のある力自慢はいないのか――っておいそこの魔族!」


 魔族と言われ、思わず反応してしまったがどうやら俺で間違いないみたいだ。

 大男は手招きして俺を呼び、俺はリーシャと前に出た。


「お、俺ですか?」

「そうだ。お前この辺では見ない奴だな、新人か?」

「はい、この街には今日初めて来たばかりですけど」

「ならちょうどいい。人間や獣人相手に退屈してたところなんだ。ちょっと相手していけ」

「でも俺、賭け試合はちょっと……。賭ける手持ちもないですし」

「ならお前が連れてるその奴隷でもいいぞ? そいつを賭けるなら金は免除してやる」

「は? 連れを賭けるわけないでしょうよ」

「その獣人は奴隷だろ? 獣人の奴隷はかなり役に立つからな。金以上の価値があるし、前衛から夜のお世話も任せられるし、用済みになれば使い捨ての囮としても使える。あとは貴族にでも売れば良い値で買い取ってもらえるから賭ける価値は十分にある」


 あまりにも人権を無視した発言。

 その発言に気分を悪くし立ち去ろうとした瞬間、ローダの仲間らしき男に逃げ場を塞がれ無理やり椅子に座らされた。


「まぁまぁ、そう嫌がらずやってけよ。勝てばこの金貨全部お前のものになんだぞ、損する話じゃねぇだろ? 安心しろ、多少の手加減はしてやるからよ」

 

 これは手加減する気なんてないな。

 にしてもローダ(こいつ)は何言ってんだ? 正気の沙汰とは思えない。

 人類にとって絶対的存在であるケモ耳娘に今なんて言った?


 夜のお供? 囮? 奴隷として貴族に売る……?

 まるでクソ人間のお手本みたいな奴だなローダ(こいつ)は。

 こういう人間(やつ)ってホンッット何所にでもいるのな。

 それは異世界でも変わらないか。

 こういう人間(やつ)はホントに苦手だし大嫌いだ。

 暴力的で理不尽で横暴で。他人の迷惑も痛みも分からないクソ野郎。

 虐められた同級生に腐るほどいたし、働いた職場にも吐いて捨てるほどいた。

 弱い奴を完全に見下し、蔑むローダの発言に俺は激しい怒りを感じた。

 普段の自分ならこういうケンカは買わない。

 何故なら自分にはそのケンカに対抗できる力がないからだ。

 だから仮にケンカを売られたところで自分にできる行動は決まってる。

 無視してやり過ごすか、弱虫と蔑まされるか、一方的に殴られて終わるか、のどれかだ。


 でも、今の俺は違う。

 今の俺には武装した武装した奴隷商を撲殺したこの肉体がある。

 その威力はリーシャを助けた時に立証済みだ。

 何より、俺が苦労して助けたケモ耳娘(リーシャ)を奪おうとしている事が何より許せん!


「わかった、受けて立つよ」

「ユウヤッ――!?」

「安心しろ、別にリーシャを渡すために挑むわけじゃないよ」

「でも、何で……」

「だからそう不安になるなって」


 リーシャの頭をワシャワシャと撫でて不安を取り除いてあげる。


「お前のことは絶対誰にも渡さない、責任持って守ってやるから」

「う、うん。分かった」

「だから不安がるよ。まぁ見てろ、お前を物扱いしたあのクソ野郎をコテンパンにのしてくるから」

「ほほー、言ってくれるじゃねぇかクソ餓鬼。その強がりがどこまで通るか見物だぜ」


 ローダはピキピキと額に青筋を浮かべテーブルに右肘を突く。


「じゃあ賭けの確認だ。お前が負けたらそこの奴隷を黙って寄こす。俺が負けたらこのテーブルの金貨は全部お前のもの、それでいいな?」

「あぁ、かまわない」


 うっわ……。間近で見るとコイツの腕っぷし凄いな。

 俺の二倍、いや三倍はある腕の太さ。

 太い血管が幾つも浮き出て鉄筋なんか簡単にへし折れそうな迫力だ。


「その軽口がいかに愚かだったかってのを後悔させてやるぜ」


 言われた通り俺は席に座りる。

 そして、テーブルに右肘を置きローダの手をグッと握る。

 ローダは俺の手を必要以上に握り締めてくるが不思議と締め付けの痛みはない。


「んじゃいくぞ、レディー……ゴ―――」


 ゴキンッ!!!


 開始の合図が出る少し前から腕に力を込めた。

 そして、開始の合図が言い切る前に握ったローダの腕を軽く押し込んだ。

 てっきり互いの力が拮抗して一時的にその場に留まると思っていた。

 けど、その予想とは全く違う結果を見せた。

 俺はそんなに力を込めていない。

 なのにローダの手の甲はあっけなくテーブルに付いた。

 そして付いたと同時にゴキンッと響き渡る何かが折れる鈍い音。

 変な感覚だった。まるでローダは力を込めていなかったのか?

 そう思うぐらいにあっさりと押し込むことが出来た。


「は? なん……」


 ローダは何が起こったのか分からない状態だった。

 テーブルから肘を離すとローダの腕はダランと垂れ下がり、肘が赤紫に腫れあがっている。


「な……うっ、うぎゃあああああーーーーー!!!?」


 男は右腕を庇うように痛がり、椅子から転げ落ちる。


「腕がぁああ! ヴデがぁあああ!!?」


 ローダは額から冷や汗を流し、床を左右にゴロゴロと転がり痛みに悶えている。


 まさか……腕が折れた!?


 嘘だろ、だって力なんてまったく入れてなかったぞ!?

 ローダが力を入れていた感じもしなかったし、あれで腕が折れるなんて想像がつかない。


「ローダ! おい暴れるな、腕見せろ!」


 ローダの仲間が駆け寄って骨折の具合を見ていると俺の対応をしてくれた受付嬢が現れた。


「ユウヤさん、お待たせしました。準備ができ……って、何かあったんですか?」

「いや、実は……」


 事情を受付嬢さんに説明すると介抱されるローダを見て深いため息をついた。


「……なら問題ないですね。さぁ、行きましょう」

「え? お咎めなしですか?」

「自業自得ですよ。それに冒険者なら回復薬(ポーション)ぐらい持ってるでしょうから、あの程度の怪我は大丈夫ですよ。さぁ、案内しますのでこちらへどうぞ」


 そう言われて俺とリーシャは受付嬢さんに案内されるようにその場を去った。

 建物の奥へ入ると食堂から


「クソッ、覚えてろよテメェー!!!」


 なんてテンプレの捨て台詞が聞こえた気がした。


ご観覧ありがとうございました。


今回、小説自体が初めての作品になりますので文章の違和感や誤字脱字等、ありましたら指摘のほどよろしくお願いします。

また、高評価や文章改善のアドバイス等いただけたら喜びます。

更新頻度は今のところ未定ですが、早め早めに更新していければと思ってますので今後もお楽しみに!

それではここまで愛読、ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ