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第36話『叡智の種族(クトゥア)』


 時は戻り、ダンタリオス城の応接室にて。


 ベルガ大森林の洞窟の奥深くにある魔層命朽。

 その魔層命朽の攻略報酬をテーブルの上に並べる。


 一冊の古びた分厚い魔導書。

 一本の柄が短い杖。

 そしてガラスのカプセルに入れられた一つの魂。


 フィーリアはその一つ一つを手に取り、隅々まで物色する。


「攻略報酬はこれで全部か?」

「あぁ、見落としがなければこれで全部のはずだけど」

「これらは研究室で預かろう。もしかしたら魔魂喰に関する新たな情報が解るかもしれない。少し時間は掛かるとは思うが、何か解ればまたこちらから報告する」

「分かった。お願いするよ」


 持ち帰った情報を報告し、俺とフィーリアはその情報を元に考察していく。


「ユウヤの手の甲の紋様と同じものが刻まれた魔層命朽(ダンジョン)、か……」

「フィーリアは知ってたのか。あの森に魔層命朽があったことを」


「まさか。だが迷い込んで未発見の魔層命朽を偶然見つけるなんて珍しい話じゃないぞ。そもそもあの森は魔物が多く生息する魔物の危険群生地だ。森の主の件もあって現在まで詳しい地形や生態系の調査がほとんど出来ていないんだ。だからあの森に魔層命朽があるは大発見ではあるが不思議な事じゃない。もっとも、ユウヤが見つけたあの魔層命朽は "特殊" なものではあるがな……」


「"特殊" な魔層命朽ねぇ……。この手の紋様と同じ模様があったんだから普通の魔層命朽ではないとは思ってたけど……今回俺が見つけたあの魔層命朽、相当ヤバかったりするのか?」


「今回ユウヤが見つけたあの魔層命朽は "謎" が多すぎるんだよ。あの魔層命朽は各地に点在していて知名度や認知度も高いんだが……それ以上に謎の部分が多く、内部の構造は愚か造られた時代背景などが一切謎のままなんだ。その謎を解明するべく多くの冒険者や国の有名な研究者が挑んでいるがその謎を解いた者は一人もいない。全てが謎、不明、不可解、未知数……得体の知れない事この上ない」


「謎か……。まったく、魔魂喰の事だけでも謎だらけだってのにこれ以上謎をぶち込まれても頭が混乱しするだけなんだよ。そもそもあの魔層命朽は一体何なんだ。普通の魔層命朽とどう違うんだ?」

「あの魔層命朽はかつて遥か昔に "叡智の種族(クトゥア)" という種族が造られたと言われている。その歴史の長さは魔魂喰には劣るが、それでも数万年前にに実在したと言われている種族だ」


「クトゥア……?」


「数万年前の昔、とある原始的な文明を持つ人間の国が存在していた。その国は独自の技術力もなく何の力も持たない脆弱な国。他所からの侵略と支配に怯え常に貧困な生活を送っていたそうだ。そんなある日、その人間の国に一人の放浪していた種族が現れた」


「まさかその種族が……クトゥア?」


 フィーリアは肯定するように静かに頷いた。


「クトゥアはその詳しい詳細がどの文献にも記されていない謎の種族。ただ、唯一解っている事は『膨大な知識』と『卓越した技術力』を有していたという事だけ。だが、その有する知識と技術力はありとあらゆる分野を網羅し、利用すれば文明発展に革命が起きる程と言われていた。その知識量の多さから『叡智の種族』とも呼ばれている」


「叡智の種族……フィーリアの家系みたいな頭の良い種族って事か」


「クトゥアはそんなひ弱な国に哀れみを感じたのか、助力として自らの"知識"と"技術力"を与えた。与えられた知識と技術力を元にその国は見る見るうちに発展していき、たった数年で各国に負けない大国へと育っていった。建築、農作、商業、軍事、ありとあらゆる分野の知識をクトゥアから与えられ、国は貧困から救われ領土は巨大な大陸中に広がっていった。だがまた別の問題が生じてしまった」


「別の問題?」


「その発展を面白く思わない他国に戦争を仕掛けられたんだ。侵略を掲げられた戦争は何度も繰り返され、軍事や戦争に不慣れな大国はただ防戦一方、戦況は困難を極めたそうだ。大国はそれに対抗するために軍事力強化と兵器開発に着手し始めた。もちろんクトゥアもそれに協力し、軍事に関する知識と兵器開発に関する技術力を提供した。大きな軍事力と強力な兵器を手に入れた大国は他国を圧倒し、仕掛けられた戦争は連戦連勝。その数多くの勝利に酔った大国は自ら戦争を仕掛け、多くの国を侵略していった」


「うっわぁ……」


 人間に強力な武器を持たすとロクな事にならないって事よな……。

 人間は強力な武器を持っただけで自分が強くなったと錯覚する。

 その錯覚で気が強くなって弱者を嘲笑いたんの躊躇いもなく傷付ける。

 ホンッット、人間て愚かだよなぁ…………。

 そんな人間を信仰するあの異常宗教(ヒューマラルド)の気が知れんわ。

 

 人間は異種族に比べたら脆弱な種族だ。

 だけど心の穢さならどの種族にも負けないって思ってる。

 平気で他人を傷付けられるし、自身の欲望のためなら犯罪だって侵す。

 全員が全員そうとは断言しないけど、世の中そんな人種の人間がほとんどだ。

 それが現実なんだよね……。


「んで、結果その国はどうしたんだ? 別の国に返り討ちにでもされたか」

「自ら自滅したよ。とある事故でな」

「事故?」


「兵器開発の実験中、兵器の核部分が大爆発を起こしたのだ。爆発は国全域を覆い、国内にいる人間の命を全て駆逐してしまった。しかも、爆発の余波で生まれた有害な毒ガスが大陸全土にまで広がり、大陸中命が一夜にして消え去った……」


「欲を掻いた罰だな、自業自得だ。クトゥアはどうなったんだ?」

「何とか生き残ったそうだ。その生き残った術は不明だがな。だが一夜にして滅びた大国を見てクトゥアは嘆き悲しんだ————。


『自分が知識を与えなければ、こんなことにはならなかった……』


 ——とな……。そしてクトゥアは大国を滅ぼしてしまう自らの持つ知識と技術力を恐れ、その知識と技術力を二度と表に出さないよう封印することを決意した。封印場所は常人が近づけないような過酷な自然環境に幾つも造られ、さらには封印場所を魔層命朽にすることでクトゥアの持つ知識と技術は奥深くに隠されたという……。故にクトゥアの造った魔層命朽の最奥には文明に革命を起こす"何か"が眠っていると学者たちの間では言われている。もっともその実物、攻略報酬を見たものはいないわけだが……今私たちがその歴史的大発見が目の前にあるわけだ」


 なるほど。事の重要性を理解した。

 つまり、この異世界で歴史的発見を俺が成し遂げてしまったわけか。

 でもまだ解せないことがある……。


「ちょっと待てよ、じゃあ俺のこの手の甲の模様は――――」


「私も調査を断念したのがもう十年以上前のことだから忘れていたよ。ユウヤのその手の紋様はクトゥアの魔層命朽にある象徴紋様とまったく同じなんだ。クトゥアの造った魔層命朽なら何処にでも彫られている紋様。その紋様がクトゥアの何を意味するのかは未だに解っていないがな」


「ヤバい……マジで混乱してきたぞ……。今回攻略したあの魔層命朽がそのクトゥアって種族が造った魔層命朽なら何でその象徴紋様が俺の手に刻まれてるんだ? それに攻略報酬にあったそのカプセルに入った魂、報酬が魂ってこれはどう考えたって――――」


「クトゥアは魔魂喰と何らかしらの関係性があった、そう考えるのが自然だろう。最奥の扉がユウヤの手の紋様に反応して開いたのも気になるし、現状クトゥアの魔層命朽には魔魂喰に関する情報が眠っている可能性が非常に高い」


「でもクトゥアは何万年前の種族なんだろ? 比べて魔魂喰は数億年前……時系列が全然合わねぇじゃねーか。第一、魔魂喰は異種族たち討伐されて死んだんだろ?」

「忘れたか? 今のお前の肉体は不老不死の能技を持っている。当時の魔魂喰にもその能力があったなら死を偽造して生き残ってた可能性も低くはない。まぁ、可能性の話だがな」


 確かにそうだ。

 不老不死の能技は絶対に老けないし絶対に死なない。

 死を偽って生き残るなんて難しいことじゃない。

 もしかしたら魔魂喰がまだ生きてる可能性だって捨てきれないし。


「とりあえず今後の方針の追加だな。今後は世界各地にあるクトゥアの魔層命朽を調べ上げていく。可能なら攻略していく。異論はないな」

「当然。チマチマ文献を調べるより、そっちの方が効率よさそうだ」


 魔魂喰の生存は置いとくにしても、今回色々な事が判明した。

 クトゥアと呼ばれる太古の昔に存在した謎の種族。

 そのクトゥアが造った魔層命朽。

 そしてクトゥアを象徴する印が俺の手の甲に刻まれた入れ墨と同じこと。

 得られた魔魂喰の情報は大きかったけど、またたくさんの謎が生まれた気がする。

 とりあえず、俺は今回めでたく冒険者になったわけだし、魔法や武術の修行も頑張んないとな。

 今回、レミリアには恐い思いさせちゃったし……。

 魔法の制御に直結する精神の鍛練も極めていかないと。


「それとな、お前が極秘依頼を受けている間、こちらで分かったことがあってな」

「わかったこと? それは魔魂喰についてか」

「以前、お前の能技の実験で城のメイドたちの欠損部分や難病を治しただろ」

「……言い方よ。あれは一応メイドたちを助けるためで――――」

「お前の魂神の治癒性能……一般人に使うのは避けたほうがいい」

「…………?」

「魔魂喰を調べるために魔力を採取したことを覚えてるか」

「あー、魔魂喰を科学的に分析するために標本(サンプル)として何本か採ったな」

「メイドたちへの実験と魔魂喰が持つ魔力の性質、これで解ったことがあるんだ」

「だから実験って言い方はやめろっての。んで、解ったことってのは?」


「確か『魂神』の治癒性能は多種多様の霊薬を生成して状態異常を回復したり、欠損部分を再生させたりできる、だったな。さらには対象の肉体強化や魔法制御の強化。なるほど……あの魔力の性質ならそれが確かに可能だ。まったく魔魂喰の魔力には恐れ入るよ」


「もしかして……ヤバい事が解った感じ?」

「調べた結果、魂神で治癒されたメイドたちの肉体が強化されていた事が判明したんだよ。例えば片腕を再生させたメイドを覚えているか?」

「あー、大人しかった黒ヒョウの獣人か……確か戦争で片腕を失ったんだよな」

「そんな彼女から報告があったんだ。治してもらってから片腕の調子が良い――、いや片腕を失う以前よりも遥かに肉体が強くなっていると」

「変だな……。俺はただ治しただけでシャムランさんみたいに改造まで施してはいないんだけど」


「彼女の戦闘形態は両手の爪。その爪は太い大木を輪切りにするほどに鋭い爪だ。再生した腕を試したところ、その威力は分厚い鉄の壁さえも切り裂ける程に威力が増していたそうだ。しかも再生した片腕じゃなく、元々あった腕も同様に威力が上がっていた。それどころか全体の身体能力も上がり、以前の魔力量も増えた気がすると相談されてな。違和感を感じてユウヤに治してもらったメイドたち全員の身体を調べた」


「んで、結果は……?」


「想像以上に彼女たちの身体能力や魔力量が以前よりも遥かに強化されている事が判明した。特に肉体の一部を欠損していたメイドたちはその再生した部位が失う以前よりも強靭になっている事が分かった。腕を失っていた者は腕力が、脚を失っていたものは脚力が、目を失っていた者は視力が強化されていた。魔力枯渇病のメイドもいたが彼女は魔力が増え、その上で魔力制御が巧みになっていた。難病に侵されていたメイドたちもそれぞれ難病で患っていた部位が強化されていたわけだが……魔魂喰の魔力を調べた結果、魔魂喰の魔力は他者の身体能力や魔力を覚醒進化させる効果があると解ったんだ」


「つまり、俺の魔力で治した部位は俺の意思関係なく強化されるってこと……?」

「そうなるな。だから仮にユウヤが救助で他者を治す場合、相手は見極めたほうがいい。もし誤って敵を治してしまった場合、相手は前よりも強くなって立ちはだかることになる」


 まさか俺の魔力にそんな効果が……。

 でも、魂神の造り出す霊薬は俺の魔力が元に造られている。

 魂の欠損部位に代用で使うのも俺の魔力だ。

 そうなると魔魂喰の魔力にそんな効果があるのも頷ける。

 そんないきなり体が強くなって……メイドさんたち不便してないだろうか。

 

「ちなみにメイドさんたちはその後の調子はどうなの?」

「皆以前よりも体の調子が良くなってユウヤに感謝をしていたよ。まだ肉体制御が必要なメイドもいるが

それでもみんな心から感謝していたよ」

「そう、良かった……」


 メイドさん達、みんな色々不自由そうだったもんな。

 迫害されたり、奴隷扱いされたり、戦争の被害者だったりと、ダンタリオス家で働くメイドさんたちはみんな理由ありの種族たちばかりだ。

 レミリアも確か耳に重度の病を持ってて————…………。


 …………まさか、レミリアが魔物の声が聞こえたのって……

 俺が治したから!?


 あの時はレミリアの特殊な能力か何かと思ってたけど違ったんだ。耳の病を治したからレミリアの聴力は強化され、常人には聞き取れない魔物の声まで聞こえるようになった。

 そう考えたらレミリアが魔物の声を聞けたのも合点がいく。

 となるとレミリア以外にもそういう特殊な何かに目覚めたメイドがいそうだな……。

 後でその辺もフィーリアに調べておいてもらうか。


「にしても今回は色々な情報が手に入ったな。魔魂喰の事もそうだがあのヒューマラルドの詳細が分かったのもかなり大きい。やつらの使う魔法技術は得体の知れない部分が多かった、今回その詳細が少し解っただけでも収穫だよ。ユウヤに極秘依頼を押し付けてくれたギルド長には感謝だな」


「噂の割には呆気ない連中だったけど、あの魔法は確かに常人にはかなり脅威だぞ。俺の場合は無限魔力と状態異常無効の能力があったから関係なかったけど、常人の戦士や魔術師にはかなりヤバい魔法だと思う。身体の魔力や体力を奪う魔法なんて喰らったら終わりだからな」


「その指揮官の男が持っていた短剣も気になるな。もしかしたら呪いの剣の類か……? いや……今の段階ではまだ物的な確信が少なすぎるな。これに関してはまだ情報が必要だ。これからは嫌でもヒューマラルドと関わる機会は来るだろう。その時にまた情報を持ち帰ってきてくれ」


「りょーかい、とりあえず報告はこれで全部だな」


「今回は本当にご苦労だった。とりあえず持ち帰った攻略報酬、特にあの魔導書と魂は調べておきたい。調査が終わるまではまたゆっくり休んでくれ。あと今回の依頼でヒューマラルドの動向も見ておきたいし、もしかしたらまたひと騒動起きるかもしれんが、その時はまた頼む」


「魔魂喰の情報は俺も欲しいからな、その分の働きはするつもりだ。それにリーシャの面倒も見て貰ってるし、その礼はちゃんと返させてもらうよ」

 

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