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〇第27話『森の主の憂鬱』


 ベルガ大森林にある大洞窟にて。

 その大洞窟の奥深くには広く開けた場所が存在していた。


 その場所でとある魔物が捕らえられていた。

 捕らえられた魔物は世間では『森の主』と呼ばれる特殊個体の魔物。

 魔物の身体は巨大で旅客機並みの大きさを誇る。

 しかし巨体とは裏腹に大した戦闘力を持っていない。場合にもよるが直接な戦闘となれば討伐は容易で上手くいけば捕獲すらも可能な魔物なのだ。

 そんな魔物が何故特殊個体と恐れられているのか。魔物が持つ希少かつ強力な"能力(スキル)"が危険な特殊個体と位置付ける理由である。


 森の主と呼ばれる魔物の個体名は「アートル・キャタピラー」。


 体内で虫型の眷属(魔物)を無に限生成することができる芋虫型の魔物だ。


 特殊個体(アートルキャタピラー)は空間の壁際に横たわり身体には幾つもの黒い杭のような魔道具が突き刺さる。黒い杭は刺さった対象の動きを封じる効力があり、森の主はその杭のせいで身動き一つとれずにいた。

 森の主周りには異変をすぐに察知できるように見張りのヒューマラルドが何十人と配置されている。

 すると責任者らしきヒューマラルドの一人が見張りに対し、現状を聞いてきた。


「現状はどうだ?」

「未だに異変は見られませんね」

「んー、何故だぁ? あんなに”呪毒(じゅどく)”を注入して異常が無いはずはないんだが……」

「現に魔物はピクリとも動きません。死んでしまってるのでは?」

「だとしても体内の魔物は形成されているはずだ。それでも生まれないのは何故だ?」

「我々にはなんとも……」

「引き続き見張りを怠るな。また呪毒の準備が出来たら体内に注入するからな」


 特殊個体(アートルキャタピラー)は必死に毒に抵抗していた。

 "呪毒(じゅどく)"と呼ばれる毒は特殊個体(アートルキャタピラー)の体内を確実に蝕み、命を着実に削られていた。

 ヒューマラルドに捕獲されてから一か月。特殊個体(アートルキャタピラー)はどうにか自分の意思で毒の浸蝕を抑えてきたがその抵抗ももう長くは持たない。

 意識は着実に薄れていき、毒の浸蝕を抑えるのも限界に近づいていた。


 (我もここまでか……)


 特殊個体(アートルキャタピラー)は心の奥底で諦めの感情が生まれていた。

 しかしこのまま浸蝕を許してしまえば間違いなく取り返しのつかない事になる。

 魔物(自身)の命うんぬんの話ではない。

 毒に侵されればベルガ大森林だけじゃなく全生物の命に関わってくる。

 しかし、現状アートルに出来ることは体内の呪薬の浸蝕を留めておくことだけ。

 それ以外は何もできない。


 (まだ生きて百年以上、早い人生だったな……)


 心は悲愴に包まれていた。

 争いや戦いなんて自分取ってはどうでもいい。

 ただのんびりと惰眠を貪りながら生きていきたい。


 特殊個体(アートルキャタピラー)の望みはただそれだけだった。

 無益な殺しも無差別な破壊もするつもりはない。

 ただ自分はのんびりと生きたいだけ。

 だからこうして人目のつかない洞窟(場所)で暮らしているのにどうしてこうなるのか……。

 どうしてこうも現実というは上手くいかないものなのか。

 もう自身の命を諦めかけ、深い眠りにつこうとした。

 意識が途絶えれば、毒の浸蝕が一気に進み、命はそこで尽きる。

 一か月間何とか意識を保ってきたが諦めも相まってついに限界がこようとしていた。


 その時だった。


「うぉっと! あ、あっぶなぁ……」


 (なんだ……?)


 特殊個体(アートルキャタピラー)は横たわる自身の背中に何か違和感を感じた。

 背中に意識を向けると何者かが魔物の背中にしがみ付いていた。


 (ヒューマラルド(この場の人間)じゃないな、誰だ……)


 背中の気配を辿るとその気配は一人の魔族だった。


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