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〇第26話『謎めく陰謀』


「そろそろ予定地に到着する筈ですけど誰にも出くわしませんね」

「油断はするなよ、慎重に行くことに越したことはないからな」


 地図に示された目的地を目指し、ベルガ大森林の薄暗い奥地へ進んで行く。

 すぐに敵に反応できるように俺は能力(スキル)"敵意察知"を常時発動させている。

 敵意察知の効果範囲は通常二メートル。

 でも俺がその気になれば最大で十メートル先の敵意をも察知できる。

 念のために俺は最大効果範囲を常時発動させていた。

 これならまず間違いなく相手がこっちに気付くより先にこっちから先手をとれる。

 ちなみにグリフォンは森の外でお留守番だ。


「相変わらず不気味な森だな。確か魔物の群生地なんだっけ……」

「素人がうっかり入ってしまえばまず間違いなく生きては帰れません。強力な魔物も生息していますし各地域の魔物群生地と比べてもベルガ大森林(この森)は上位に入る危険地帯です。それにこの森には"(ぬし)"らしき魔物もいるそうですし……」


「主? そんな魔物がいるのか」

「ワタシは見たことはありませんけどその魔物(森の主)は”特殊個体”と推測されていて、まだ解明できていない所も多いそうです。討伐に挑んだ冒険者も全員返り討ちに会って生きて帰ってこなかった者もいたそうです。恐らく危険度は”警戒態勢位”にはなるでしょう」


「そういえばリズに教わったな。確か魔物の強さのレベル……みたいなもんだっけ?」


 魔物には”特殊個体”というものが存在する。


 この世界では魔物はこの世界の住民達の私生活を脅かす害悪な存在だ。

 しかしそんな魔物の血肉や臓器や骨などは食糧や薬、雑貨や武器の材料にもなる。

 そんな魔物は有益な魔物として重宝され、文明発展の糧になっている。

 冒険者は魔物がいることで生活が成り立ち、魔物の材料で商売をする種族(もの)も多い。

 中には生息になんの害もない処か、存在が重要な魔物もいるため全体的に見ると、この世界で魔物はそこまで危険視される存在ではないらしい。


 しかし"特殊個体"となれば話は別。


 まさに「魔物は危険な生き物」の象徴ともされ、特殊個体となればまず人々の日常生活に支障を来し無差別に人間や異種族を襲う凶悪な存在。

 放っておけば村や町を壊滅させる被害を及ぼす。

 または巨大な大陸全土に厄災を招く危険性すらあるんだそうだ。


 その特殊個体にも冒険者のように危険度(強さ)を格付ける”(くらい)”がある。


 現れてまだ日が浅く、まだ生態も判明していない個体。

 ”警戒態勢位(エネミークラス)


 日常生活に支障をきたし、故意的に人身被害を巻き起こす個体。

 ”要意討伐位(ウォンテッドクラス)


 国益や国防にも影響し、国そのものに危険を及ぼす個体。

 ”厳戒態勢位(ワーニングクラス)


 まさに災害、異種族たちや人間の脅威にもなる個体。

 ”魔天災害位(ディザスタークラス)


 全種族の脅威・敵・害悪の象徴になり、天地にも影響を及ぼす個体。

 ”天変地異位(カタストロフクラス)


 まさに”死”そのもの。関わたっが最後、自殺行為にも匹敵する個体。

 ”絶対死滅位(デッドエンドクラス)


 特殊な環境下や何億分という低確率で生まれる突然変異の魔物。

 異種族では取得不可能な能力をも所持してる事もあり、並みの戦士や冒険者ではまず倒せない。国が抱えてる専属の騎士団、または高ランクの冒険者でようやく討伐に一手届くというレベルだ。

 それぐらいに特殊個体の討伐は難しく、命運を懸ける程の大仕事らしい。


「まさかとは思うけど、その"森の主"に出くわすなんてことないよな?」

「…………」

「ちょ――ッ!? 目を逸らさないでくれない!? その反応は不安になるわ」

「ないとは言い切れませんよ。討伐に向かった冒険者は生きて帰ってこなかった者もいましたし、強力な個体であるのは間違いありません。五十年以上経って未だ生態も不明ですし、この調査中に出会わないと言う確証は……」


「でも何で五十年以上もずっと討伐が放置されてるんだ? 冒険者が何人か死んでるんだろ、そんな危険な魔物なら多少の犠牲は覚悟して討伐するべきなんじゃないのか?」


「人手不足もありますが、森に入らない限り人為的被害はないから討伐が見送られてるらしいです。実際”森の主”が森から出てきたことはありませんし、森に近づかない限り危険もないので」


「なるほどな。まぁ、出くわさない事を祈るしかないか……」


 今回の目的は悪魔でヒューマラルドって組織でその魔物の討伐じゃない。

 無駄な戦闘は避けたいところだ。

 魔物と遭遇しないことを祈りつつ、大森林の奥地奥地へと進んでいく。

 そして、森の奥地へ進むこと一時間後。


「ユウヤさん? どうかしまし――」


 俺は左腕でレミリアの前方を遮り停止を促す。


「どうしたんですか……?」

「近いぞ。数は1、2……ザッと数えるだけで20人以上はいるな。この敵意察知からするに気配は人間だな。ちょうど俺達が向かう前方にいるみたいだ」


「どうしますか。迂回して遠回りしますか?」

「ちょっと待て、何か気配が一か所に密集してるみたいだけど……何してるんだろ?」

洞窟(拠点)周囲の見回りとかですかね。例の洞窟は近いんでしょ?」

「とりあえず近づいて何をしてるのか様子を見たい。ヤバそうだったら遠回りしよう」


 敵意察知に引っ掛かった気配の動きが妙だ。

 一か所をウロウロしてるだけで動く気配がまるでない。

 まるで何かを取り囲んでるような……。

 しかもその敵意はその取り囲む中心に向けられている。

 一体、何を取り囲んでいるんだ……?

 気配を頼りに俺とレミリアは十メートル先の探知に引っ掛かった場所へと走って向かう。

 森を駆け抜け、その俺の背後を付いてくるレミリア。

 かなり全力で走ってるのに俺の走りに息一つ乱さず余裕でついてくるレミリア。

 さすがは獣人、運動能力はかなりのもののようだ。


 そして気配が密集する場所付近に到着。

 茂みの陰から姿が見えないようにその気配の密集する場所を覗き見た。

 推測通り、黒い装束を身に纏った人間らしき集団が密集していた。


「どうですか?」

「いたぞ、黒装束の集団。どうやら今回の魔物接近はヒューマラルドで確定みたいだな」

「あの人数を相手にするのは厄介ですね。やっぱり迂回して洞窟に進みますか」

「いや待て、あれは何してんだ……?」


 魔魂喰(この身体)は視力も凄い。

 視線を集中することでその場所を望遠鏡みたいに拡大して視界に映すことができる。

 目に力を入れ、その黒装束の集団を拡大して視界に映す。

 宗教組織は剣や長物などの武器で武装している。

 そんな武装した黒装束が囲む中心には――。


「マズいな……。あれって多分、冒険者だよな」

「冒険者? 何所にいるんですか?」

「服装的に多分冒険者だと思うんだけど、四人組の冒険者がヒューマラルドに取り囲まれてる」

「その四人の冒険者は異種族ですか?」

「見た限り三人異種族で一人は人間だな……。大柄の蜥蜴人(リザードマン)、小柄なネズミ耳の獣人、背の高い頭が鳥の鳥人、あとは青年の短髪剣士、しかもみんな縄で縛られてる。すっごい嫌な予感がするんだけど……まさかあの四人組殺されかけてるとかないよな?」


「ユウヤさん忘れました……? ヒューマラルドは異種族の絶滅を望んでるんですよ」


 やっぱそうなるか……。

 だよなぁ……。あれ、どう見ても無事では済まないよなぁ……。

 そう思った矢先。

 案の定、黒装束の一人が縛る冒険者目掛けて剣を振りかぶる。

 大惨事な景色が脳裏を過ぎり、俺は掌に瞬時に炎属性の魔力を集める。


「——ッ! まずいッッ!!」

「ちょッ―! ユウヤさん!?」


 俺は躊躇いなく、覚えたての攻撃魔法『火炎弾(フレイムブレッド)』を剣を振りかぶる黒装束の頭目掛けて飛ばす。

 弾丸の如く高速で飛んだ火炎弾は狙い通り、剣を振りかぶった男の頭に直撃。

 しかし威力を加減し忘れたせいか、男の頭は消し炭になり、首が無くなった胴体はフラフラとよろめきその場へと倒れた。

 頭を消し炭にされた首は焼き焦げ血も吹き出ない。


「な、なんだ!?」

「誰だ! 出てこい!!」


 他の黒装束は仲間の首を飛ばされ、火炎弾(フレイムブレッド)が飛んできた茂みに武器の矛先を向ける。

 これで完全に戦闘は避けられないか。しょうがない……。

 俺は諦めて、堂々と隠れていた草木の茂みから姿を露わにした。同じくレミリアも。


「何だ……? 魔族がこんな所になんの用だ?」

「そこの魔族、こんな場所で何をしている。答えろ」


 おうおう、敵意が剥き出しだな。

 ま、そのおかけでこっちも遠慮なくやらせてもらえるんだけどな。


「答える気はない。でも、もし答えて欲しいならそこの冒険者四人を解放しろ」

「ハッハッハッ! 解放しろだと? ふざけた口を抜かすな」

「異種族は我等ヒューマラルドにとって穢れた存在、生きる価値もない異種族をこの世から滅することが我らの使命だ。ここで殺さない馬鹿が何所にいる。そして、そんな穢れた異種族と戯れる人間もまた異端なる存在。そんな人間は我等ヒューマラルドが築く世界には必要ない!」


「そうだ! 我等人間は神が生み出しこの世界で唯一の穢れない純粋な種族! そんな人間達の穢れないこの世界に異種族という穢れた種族がいること自体罪深い! そんな罪深い種族と戯れる人間はこの世界にはいらないんだよ!」


「うーっわ、マジで人間(自分達)が純粋な種族とか言ってんのか。引くわぁ……」

「貴様、魔族の分際で我等人間を愚弄するか! やはり異種族はこの世界に存在することすら許されない、貴様もここで滅してくれ――」


「あー、うっさい」


 その瞬間、ヒューマラルドの一人の首が飛んだ。

 余りの戯言にうざったく思った俺が風属性の魔法で相手の首を飛ばしたのだ。

 初級風属性魔法「突風刃(ウィンドウブレード)」。真空の刃を飛ばす魔法だ。

 本来初級の突風刃(ウィンドウブレード)に人間を切断する威力はない。

 せいぜい皮膚の薄皮一枚を切り裂く程度の威力だ。

 でも俺の魔力で放つと人間を骨ごと切断できる処刑刃(ギロチン)並みの威力になるというわけだ。

 しかも俺の強大な魔力が放つ初級魔法は中級以上の威力を誇るため、どんなに制御をしても中級に抑えるのがやっとだ。


「ホンッット耳障り、戯言は死んでから言ってくれ」

「なっ――!?」

「きっ、貴っ様ぁあああああああ!!」


 二人目の仲間をやられて他のヒューマラルドは怒り心頭のご様子。

 こうなったらもうとことんやるしかないな。


「手伝います、ユウヤさん」


 空かさずレミリアもスカートの中に隠していた短剣を構える。


「レミリアは左側にいる6人をお願い。あと右側に偏ってる大人数は俺がやる」

「分かりました」


「愚かな魔族が……我々に異種族の力など通用しないことを思い知らせてやる!」


 ヒューマラルドは接近する俺とレミリアに向かって無数の魔法を放った。

 放った魔力の塊は無数の鎖となり、俺のレミリアの身体中を覆い尽くそうと襲い掛かる。


「気を付けろ! その鎖に捕まると肉体の自由が効かなくなるぞ!!」


 その瞬間、捕まっていた短髪の冒険者が注意するように叫びかける。


「もう遅い! 鎖は既に貴様らを捕らえた。もうこの鎖から逃れることは出来ぬ!」


 俺は一先ずレミリアが鎖に捕まらないように後ろに強く突き倒す。

 そのおかげで全ての鎖は俺の肉体に絡みつき、俺を拘束した。


「ぐむっ……この鎖は……」

「ユウヤさん!!」

「ハッハッハッ! 庇って自ら鎖に捕まるとは馬鹿な魔族だ! いかに貴様が魔族であろうとこの鎖からは逃げられまい!」

 

 うっわ、きったねー笑い。耳が腐るわ。

 にしてもなるほどな、この鎖はそういう仕組みか……。

 捕まって初めてこの鎖がどういう代物なのか感覚ですぐに理解できた。


「拘束した相手の魔力を吸収する鎖か……。こんな魔法があるのか」


「鎖の性質に気付いたか。だがその魔力はただ魔力を吸収する鎖ではない。相手の体力と精神力、そして囚われている間は能力をも封じる"呪封鎖(カースチェイン)"。実質貴様はもう指一本動かせまい?」


「ふーん、確かに魔力を吸い取られてる感覚はあるな。けど――」


 バキィィン!!


「な…… なにッッッ!?」


 俺の動作にヒューマラルドの連中は驚愕。

 俺は右手で左手に絡みついた鎖を力尽くで引き千切った。

 絡まった鎖を次々と力尽くで引き千切り、あっという間に鎖による拘束を解く。


「バカな! 我等の呪封鎖をいとも簡単に!?」

「残念、俺にはこういう状態異常の代物は通用しないんだ」


 この鎖にどんな性能があろうが関係ない。

 俺には"状態異常無効"という能力があるからな。

 この鎖の性能が肉体に直接異常を引き起こすなら、それは状態異常の一種。

 それならこの状態異常無効の能力の前には無意味だ。


「クッ――! 何をしてるあの魔族を早く拘束しろ!!」


 連中は再び鎖を放つ。何度やっても同じだっていうのにな。

 そして俺は向かってくる鎖に対し、捕まらないよう鎖を避けてその内の一本を掴む。


「だからさぁ、何度やっても同じだってぇーーの!!」


 掴んだ鎖を勢いよく引っ張り、繋がっていたヒューマラルドの一人を引き寄せる。

 力任せに引っ張ったため、まるで飛んで来るように俺の元へと引き寄せられる。


「ふんっっっぬ!!!」


 俺はその引き寄せられたヒューマラルドの頭を掴み、頭ごと地面へ圧し潰した。

 圧し潰したヒューマラルドの一人はそのまま地響きを鳴らしながら地面にめり込み、頭が粉微塵に粉砕して周囲に肉片と血潮が飛び散る。


「な、な……なななな――」

「馬鹿な、我々の開発した呪封鎖が――」


 ヒューマラルドの連中は完全に鎖が通じなかったことに動揺を見せる。


「さて、これで終わりか?」

「…………」


 開いた口が塞がらないヒューマラルドを見るとどうやらこれ以上の攻撃はなさそうだ。


「んじゃ、今度はこっちの番だな」


 そのまま俺はヒューマラルドの集団に突っ込み、得意の肉弾戦を魔法を発揮。

 火炎弾で消し炭に、風刃で切り刻み、力任せで肉体を貫き引き千切り。

 ヒューマラルドの血潮をまき散らしながら、俺は無双を繰り返す。俺の力に怯え一部戦闘を諦め降伏した奴もいたけど、今後も害ある奴を見逃すほど俺も甘くない。

 そんな奴らには『暴食の棺桶』をプレゼント。

 そして十数秒後、醜い断末魔が響き渡るも戦闘はあっという間に終了。周囲にはヒューマラルドだったものが残骸として散らばり、まさに地獄絵図のような光景が広がっていた


「ふぅ、これがヒューマラルドの実力か。大したことなかったな」

「ユウヤさん、冒険者さん達は無事に解放したました」


 レミリアは冒険者たちの拘束していた縄を解き冒険者たちの無事を確認。

 ひどい怪我をしているようだけど命に別状はないようだ。

 そして、短髪の青年が深々と頭を下げ、残りの冒険者メンバーもお礼を言いながら頭を下げる。


「ありがとうございまた。この度はなんてお礼をいったらいいか……」

「ホントに助かりましたぁ~。ありかどうございます~」

「助けて頂き、感謝する」

「…………(ペコッ)」


 好青年で礼儀正しい人間の青年。

 ほわほわした雰囲気を感じさせ、大きな杖を握る背の低いネズミ獣人の少女。

 腰に長剣を差し、スラっとした背丈にちょっと口調が固い男の鳥人。

 ガタイはいいが無口でほとんど言葉を発さない蜥蜴人(リザードマン)


「いや、俺はたまたま通りがかっただけなので。それでアンタ達は……?」

「僕達はとある魔物の討伐にこの森に来た冒険者です。そしたら討伐途中ヒューマラルドに捕まってしまって……。ヒューマラルドはホントに悪い噂しか聞きませんからね、捕まった時は死を覚悟しました……」


「魔物の討伐?」

「えぇ、このベルガ大森林に生息する緑毛羊(グリーンゴート)と呼ばれる羊の魔物でその魔物を狩る依頼でこの森に来たんですよ。アナタたちはどうしてこの森に?」


「俺達もこの森には調査依頼で来たんですよ。依頼主は明かせないんですがこの森にヒューマラルドらしき集団が潜伏してるって情報がありまして、その調査に来たんです」


「それじゃあさっき僕達を殺そうとしたヒューマラルドはまさか……」

「多分、潜伏してるヒューマラルドの一味だと思います。ただ、何でこの森に潜伏して何を企んでいるのかがまだ分からなくて」


「ひょっとして……さっき言ってたのって何か関係あるのかな?」


 するとネズミ獣人の少女が意味深な事をポソリと呟く。


「ネズミさん、何か知ってるんですか?」

「さっき捕まっている時、連中が話しているのを聞いてしまったんですよ。確か……




『森の主ももうすぐ我らの手に堕ちる。これであの異種族の街も終わりだ』




 とか、何とかって……」


 その情報に俺とレミリアは首を傾げ、お互いの顔を見合わせる。


「『森の主が我らの手に堕ちる』ってどういう意味ですかね?」

「森の主ってまさか……さっき話した”特殊個体”のことか。しかも『手に墜ちた』って……まさか森の主を捕まえたってことか……?」

「まさか。特殊個体は特別な魔物ですよ、ベテランの冒険者でも歯が立ちません。特殊個体の討伐はそれこそ国や軍を巻き込むほどの危険な仕事、それこそ生け捕りなんて仕事の難易度が跳ね上がります。それをヒューマラルドができるとは到底思えません」


「でも何か企んでるのは確かだろ。例えば今度はその”森の主”に街を襲わせる気とか……」

「まさかそんな――」

「ありえない話じゃないだろ。実際奴らは(ヴェルデ)を意図的に魔物に変えちまったんだ。何らかの方法で特殊個体の魔物を操れたとしても不思議じゃないと思う。さっき奴らが使ってた鎖みたいな魔法も気になるし、可能性は十分あると思うぞ」


 俺の反論に押し黙るレミリア。

 森の主が特殊個体の魔物でその魔物が冒険者の街を襲ったら間違いなくデカイ被害がでる。偶然とはいえ、ヴェルデが街を襲うことを止めたっていうのにこのままじゃあそれも無駄に終わっちまうな。

 一刻も早く、目的地の洞窟にいるヒューマラルドを潰さないと。


「とにかくもうのんびりはしてられない。先を急ごう」

「そうですね……急ぎましょう」

「あの、僕達はどうしたら……」

「皆さんはとりあえずこの森から離脱してください。多分これから激しい戦場になる可能性があります。それに巻き込まれないためにも早くこの森からの離脱を」


「だが我々も依頼で来ている。このまま依頼を達成できないまま帰るのは……」

「でもこの森にヒューマラルドがいるならまずいでしょ。そうなったらもう依頼どころじゃない、死んじゃったら元も子もないんだからここはこの魔族さんのいう事に従おうよ」

「…………(コクッ)」

「確かにこの魔族さんの言う通りだ。現に僕達の実力じゃあヒューマラルドの戦闘員にすら適わなかった。依頼失敗は残念だけどここは魔族さんの言う通り素直に退こう」


「仕方ない、か……」

「それじゃあこれを飲んですぐにこの森から離脱を」


 俺は次元収納から液体の入った小瓶を二本、人間の冒険者に渡す。


「これは?」

「俺の分で依頼主から支給された上級回復薬です。二本だけですけど一本を半分に分けて四人で分ければ十分に回復できると思うので」


「い、いいんですか? だってアナタの回復薬でしょ?」

「心配はいりませんよ。それに多分、俺には必要ないと思うんで」

「必要ない……?」

「あ、いや……。と、とにかくそれを飲んでこの森から急いで離脱を」


 焦って誤魔化すと、そんな俺を見て人間の冒険者はポカンと沈黙する。


「な、なんです……?」

「いえ……。あなたのような魔族、初めて見たもので」

「というと?」

「僕が見た魔族はみんな馴れ合いや助け合いなどは一切しない冷酷な者たちでした。アナタのような他の種族にもこうやって気にかける魔族がいるのが意外だったと言いますか……」


「まぁ、魔族は血筋を重んじる種族ですからね。戸惑う気持ちもわかりますよ」

「魔族さん、お名前を聞いてもいいですか?」

「名乗るほどの者じゃないですよ。それじゃあ、回復薬を飲んで早くこの森から離脱してください。くれぐれも付いてくるなんてことはしないでくださいね」


 俺はそう言い残し、レミリアと洞窟を目指し、その場を駆け離れた。

 そして冒険者と大分離れるとレミリアが俺に尋ねてきた。


「ユウヤさん良かったんですか? あの回復薬はギルド長から支給された大事な……」

「別にいいよ。そもそも今の俺に回復アイテムはいらないしな。無限魔力の能力があるから回復系の魔法も使いたい放題だし、体力カンストしてるこの魔魂喰(からだ)ならどんな激しい戦闘が連続で続いたところで疲労の心配もない。状態異常とかも効かないしな」


「油断は大敵ですよ。アイテムが必要になる場面があるかもしれないんですから」

「はいはい、分かったよ」


「でもそれでしたら全部渡しても良かったんですよ? 貰った回復薬は四本、二人で二本ずつ分けていたとは言え、あの場で人数分として四本全部渡してもワタシは怒りませんのに」


「俺の独断で助けたのにエミリアの分の回復薬をあげるのは違うだろ。それに冒険者たちの怪我は重症でもなさそうだったし上級を二人で一本でも十分に全快すると思っただけだ」


「変な所は律儀なんですから。そういえば何でさっき名前を名乗らなかったんですか?」

「うっ……」

「なんです?」

「あ、いや……。何というか……」

「…………? 何か言えない理由なんですか?」

「いや言えなくはないんだけど……言ったら言ったらでキザっぽいって言うか鼻に付くっていうか……」

「ハッキリ言ってくださいよ。理由はなんです?」

「…………恥ずかしかったんだよ」

「はい? 恥ずかしかった???」

「別に損とか徳とかじゃなくて、脊髄反射で助けちゃったというか……。見返りとかそういうの俺は全然求めてないし、考えてなかったわけよ。でも相手に助けて恩を感じられても……恥ずかしいというか……。あんまり感謝されて目立ちたくなかっただけなんだ」


「つまり、感謝されて恥ずかしかったから名前を教えなかったと言うことですか?」

「ダイレクトに訳すな!! まぁ、そういうことだけど……」

「フフッ、そんな恥ずかしがる事ないじゃないですか。せっかく感謝されてるんですから素直に受け取っておけばいいんですよ」


「今まで蔑まされたり見下される事はあっても感謝されるってのは1ミリもなかったからなぁ、どんな顔していいのか分かんないんだよ」


「リーシャさんもそうでしたけど、ユウヤさんもある意味純粋(ピュア)ですよねぇ」

「バカ言っちゃいけねぇよ。俺みたいなやつが純粋であってたまるか、こんな心の芯まで捩じくれた人間、陰湿とか腹黒のほうが相応しい」

「ホーント、こんな鈍感さんじゃあリーシャさんもこれから苦労しますね」

「どう意味だよ。なんでリーシャが出てくるんだ?」

「そのままの意味ですよ。それよりも急ぎましょ、時間もないんですから」

「お、おいちょっと待てって!」


 レミリアの意味深な言葉にモヤモヤしながらも駆けるように目的地を目指した。

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