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〇第23話『悪意には悪意を』


「相変わらず賑わってるなぁ、ここは」

「そりゃあ冒険者の街ですからね。ここで商売や輸入業を生業にする種族も多いんですよ、外からの旅人や行商人も来ますから賑わない日はありませんよ」


「さすがはダンタリオス家が管理する街だな。今度ヒマな時に観光でもしたいな」

「その時はワタシがご案内しますよ」

  

 ダンタリオス家で滞在すること一か月後。

 

 冒険者ギルドからようやく試験再開のお呼び出しがかかった。

 そして今日、俺はその試験を受けに 試験会場(エルトワール) に来ていた。

 ちなみにリーシャは今回、フィーリアの城でお留守番だ。

 お留守番を言い渡された時、リーシャはかなりごねた。

 でも、今リーシャを外に連れ出すには 負担(リスク) がありすぎる。

 リーシャを捕まえた奴隷商の正体がまだ不明だし、不確定な事も多い。

 それにリーシャを連れていた連中をあそこまでぶちのめしちゃったんだ。

 もし他に仲間がいるならきっと血眼になって 奴隷(リーシャ) を探しているに違いない。

 だからリーシャを奴隷にした連中の正体を突き止めるまではダンタリオス家(フィーリア)の元で匿ってもらう事にしたわけだ。

 もちろん城にいる間、リーシャにはメイドの修行を頑張ってもらっている。

 そんな理由を話してもリーシャは納得していなかったようだけど、俺の困った表情を見て困らせたくないと思ったのか、城でのお留守番を受け入れてくれた。


 しかしさすがに一人で街に行かせるのは不安に思ったのか、フィーリアは一人のメイドを俺の従者につけてくれた。

 メイドの名前は「レミリア」。

 レミリアは俺の能力(スキル)実験に付き合ってくれたメイドの一人だ。

 可愛い猫耳がトレードマークの三毛猫の獣人。オレンジ髪のシュートヘアーがトレードマークで笑顔が眩しくて引っ込み思案なリーシャよりも明るい性格の女の子だ。

 レミリアは元々身体に難病を抱えていて、魔魂喰の能力(スキル)検証でレミリアの(欠陥)を取り除くことに成功。

 レミリアは元気な体を取り戻すことが出来て、それ以降その事に恩を感じてなのか俺に妙に懐かれてしまい、今回の俺の付人兼街の案内役を買って出たというわけだ。


 そんなわけで俺とレミリアはグリフォンに跨り、数時間の空の旅を堪能しエルトワールに到着。

 街の門前に離陸し、俺とレミリアはグリフォンの背から降りる。

 街の警備兵らしき獣人が歩み寄り、身分を証明するものの提示を要求される。

 俺はその対応に冒険者ギルドのギルド長直々の紹介状を見せた。


「し、失礼しました! ギルド長のお知り合いだったとは。どうぞお通り下さい」


 持っていたギルド長からの紹介状を見せ、俺とレミリアは街の中に通された。

 そして他種族たちが行き来する大通りを通り、俺とレミリアは街の冒険者ギルドを目指した。


「そういえば冒険者ギルドの責任者って一体どんな種族(ひと)なんだ?」

「フィーリア様とは長い友人関係で冒険者としてはかなりの実力を持つ種族(ひと)ですよ。元々はSランクの冒険者で将来Xランクも期待されていた冒険者だったらしいです」

「Sランクって、確か上から二番目のランクだよな。そんな実力者ってことはどんな屈強な種族(ひと)が出てくんだろ。もしくは熟練の老師みたいな人かな……」


「ふふっ……」

「ん? なんだよ?」

「いえ、そんな想像をしてるならユウヤさん、きっと驚かれるだろうなぁ、と思って」

「……?」

「それよりもユウヤさん、約束の再試験までにはまだ時間がありますよね?」

「まぁ、試験まであと二時間ぐらいはあるけど……」

「なら観光がてら、街の出店を少し回りませんか? ワタシが案内しますので」

「案内って、いいのか?」

「当たり前じゃないですか。今日私ワタシはユウヤさんの従者として同行してるんですよ。仮にも従者にそんな返答は失礼に値します」


「そりゃあ暇が出来たらこの街を観光してみたいとは思ったけど……」

「この街の出店は色々な食べ物や変わった物がたくさん売ってます。ユウヤさんはまだこの世界の文化をあまり理解されていないでしょうからその勉強も兼ねてワタシがしっかりご案内をさせてもらいますよ」


 確かに早く冒険者ギルドに着き過ぎても多分待たされるだけだろうし、ただ待ちぼうけをくらうのも時間が勿体ない気がする。

 リーシャと来たときは冒険者ギルドに真っ直ぐ向かっただけで他の場所をほとんど見ていない。あの時は生の異種族達を見れたことに感激してたから観光の余裕なんて無かったんだよなぁ……。いきなり異世界にいて混乱してたってのもあったし。


「わかった、それならレミリアお願いできるか?」

「――ッ! お任せください、では行きましょう!」


 レミリアは満面の笑みを浮かべながら俺の腕をひっぱりエスコートしてくれた。

 にしてもリーシャといい、ケモ耳っ娘にこうも好かれる日がくるなんてなぁ……。

 え、何でそんなに喜びに浸っているかって?

 だってケモ耳ですよ? ケモ耳の女の子ですよ?

 何回も言うがそんな存在はアニメや漫画の中だけの話なんだぞ。実物なんてものは存在しないのよ。

 張りぼての耳を付けてコスプレする奴はいたけどそれは所詮偽物。

 でもリーシャはレミリアは偽物なんかじゃない。れっきとした本物だ。

 ピコピコと上下に動き、触ると温かくて、頭としっかりと一体化してる。紛れもない本物。

 そんな可愛いケモ耳娘に好かれるなんてこんな全人類の夢が実現されるなんて……。

 そこに歓喜しない男なんているわけないだろ!!

 まぁそれに、経緯はどうあれ可愛い女の子にこうやって好意を持たれるのは悪くない。

 むしろ嬉しいまである。しかもそれが本物のケモ耳娘なら嬉しさも倍増だ。

 これで嬉しさを感じない奴は男じゃねぇーよ。

 ホント自分が自殺希望者だったてのが嘘みたいだ。

 今となっては死ぬ気力なんてとっくの前になくなってる。

 とにかく、これからはリーシャやフィーリアのためにも頑張んないとな……。


 それから俺とレミリアは大通りで開いている各出店を回った。

 食べ物屋はもちろん、雑貨屋、骨董品屋、魔法器具屋(アイテムショップ)。占い屋なんてのもあり、ホントに色々な出店があって時間を忘れそうなぐらい楽しい時間を過ごした。


「各地方の商人とかも御用達にしてるので変わった食べ物や物資が流れてくる事もあるんですよ」

「へぇ~、だからこんなに商品の種類が豊富なのか……」


 そんな出店巡りをしていると装飾品(アクセサリー)が並ぶ出店を見かけ、商品を少し物色した。


「うっわぁ~、造形が細かっ。これって全部手作りなんですか?」

「あぁそうだよ。オレさまが丹精込めて作ってるからな。宝石付きのものは魔法付与してあるやつもあるからオススメだ」


 長い髭を生やした小柄の店主らしき男がそう答えた。


「ユウヤさん、何か気になる物でもあるんですか?」

「んーそうだなぁ……。確かに魔法道具(マジックアイテム)ってのにも憧れはあったけど俺ににはこの身体があるし、魔法の道具なんてあった所で意味がなぁ……」


 並べられた装飾を見ていると一つの装飾に目を奪われた。


「あの、これって……」

「おっ! 兄ちゃんお目が高いね。それはこの商品の中でも一級品で貴重な魔石を使ったオレさま渾身の自信作よ!」


 確かに自信作って言うだけはある。

 目についたのは赤い石が嵌められた一組のイヤリングだ。

 元いた世界でも見ることのなかった装飾のデザイン。

 彫られた三匹の狼が楕円を描き、その中央に深紅の赤い石が嵌められてる。

 なんかこう……野性的だけど神々しいデザインだ。

 彫られた三匹の狼を見て、俺はある一人の獣人(女の子)を連想してしまう。


「おじさん、この耳装飾(イヤリング)っていくら?」

「金貨三枚の銀貨五枚ってとこだな。値は張るが魔石の効果は保証するぜ」

「なら、これを下さい」

「兄ちゃん、お目が高いね! 毎度あり!」


 ちなみに軍資金はフィーリアからいくらか渡されている。


「ユウヤさん、自分で使うんですか?」

「んなわけないだろ、ちょっとおみやげに――――」


 ――――っ!?


「……………」

「ユウヤさん?」


 今、嫌な視線を感じた。

 今の視線、明らかに俺に向けられたものだ。

 人数は二人、いや三人か……。

 しかもこの"悪意"に満ちた視線……。一体、誰だ?


 そこで俺は能力(スキル)『敵意察知』を使う。


 この能力(スキル)は周囲一帯に"悪意のある者"か"敵意のある者"の気配を探る能力だ。

 半径二メートル内で気配を探索すると"敵意"ある三人の気配を探知。

 場所は後方一メートルの人込みの中。視線の犯人は間違いなくこいつ等だな。

 今この場で襲ってこないということは人目に付くのは不味いんだろう。

 となれば……。


「レミリア、ちょっとこの場に居てくれるか?」

「え、急にどうしたんですか?」

「トイレだよトイレ。すぐ戻るからここで待ってて」

「? はい……」


 その場にレミリアを待たせ、気配をおびき寄せるために人気のない場所を探す。

 そして、うろうろと探していると人気のない路地裏が目についた。

 路地裏に入っていくと案の定、三人の気配は俺の後ろを付いてくるように移動してくる。

 奥へ進んでいくと行き止まりに辿り着き、立ち止まると気配も見えない物陰でピタリと止まる。


「そろそろ出てきたらどうだ」


 すると曲がり角の物陰から見覚えのある三人の男が現れた。


「ようやく見つけたぞ。あの時ぶりだな、クソガキ」

「アンタ等は確か腕相撲の時の、えっと……ロウバだっけ?」

「ローダだ!! あの時に俺に勝ったからって舐めてんのかテメェ!」

「あー、そう言えばそんな名前だったなぁ」


 気配の正体は俺が最初に街に来た時に腕相撲で勝負した冒険者のローダだった。

 ローダはコメカミに血管を浮かび上がらせるほどに怒りを露わにしている。

 ローダの背後には腕相撲の時に居た連れの二人がいて通路を塞がれる。


「なんの用だよ。腕相撲で負けた復讐でもしようってのか?」

「それもあるがなぁ。お前、今まで何所で何をしてた? ずっと探してたんだぞ」

「別に何所でもいいだろ。今日は冒険者の試験を受けに来たんだ。魔物騒動で一時中止になっててようやく試験の続きができるようになったって通達がきたんだよ」


「…………連れのあの奴隷はどこだ」

「連れの奴隷? リーシャのことか。ちょっと特殊な立場だからな、誰にも狙われないよう安全な場所で保護されてるよ」


「保護されてるって……今日は連れていないのか?」

「だからそう言ってんじゃん」

「ロ、ローダさんどうします?」

「あの奴隷がいないんじゃあ例の報酬は減額ですぜ」

「わーってるよ。クソッ、これは想定外だな……」


 三人はコソコソと話しているようだが俺の耳からは丸聞こえだ。

 報酬って……なんの話だ?


「あのさ、用がないなら帰っていいか? 連れを出店で待たせてるからさ」

「あの奴隷がいねぇならしょうがない。悪いがお前はここで拘束させてもらうぜ」

「はぁ? いやいや、何で俺がお前達に捕まんなきゃいけないんだよ」

「悪いがお前を捕まえれば懸賞金が手に入るんだ。逃がすわけにはいかねぇんだよ」

「懸賞金? 一体何の話だ?」

「数日前ぐらいからこの街でお前達二人を探してる連中がいたんだよ。その連中がお前達二人を引き渡してくれたら懸賞金を出すと言ってるんだ。あの奴隷がいないのは予想外だったが、お前だけでも懸賞金をくれるかもしれねぇ。悪いが大人しく捕まってくれ」


 俺とリーシャを探している連中……?

 もしかしてリーシャを奴隷にした奴らのことか。

 ということは、その連中はこの街にいて現在進行形で俺とリーシャを探してて、俺がリーシャを連れ出したことがバレてるってことだよな……。


 それって、かなりヤバくないか?


 青い肌の魔族はかなりの上位種でそうそうお見掛けできる種族じゃないらしい。

 フィーリアの話だと今の俺みたいな薄い青色の肌の魔族は存在しないらしく、青肌の特徴を見られたら間違いなく俺だと特定されてしまう。

 くっそ、まさかもう既にこの街までに連中の包囲網が伸びてたなんて……。


「まずったなぁー……。せめて素顔とか隠して街に入るべきだったか」

「さてさて、後悔する時間は終わったか?」

「何で俺が後悔すんだよ。つーかそこどいてくれ、レミリアの(とこ)に戻るんだから」

「バカか、帰らすわけねーだろ。まぁ、お前を捕まえた後にあの獣人メイドも捕縛しておくかなぁ、あの容姿だ。奴隷として高く売れるに違いな――」



「おい、今……何て言った?」



「あ? 」

「奴隷としてレミリアを売る? そう言ったか」

「言ったから何だってんだ。お(めぇ)が凄んだところでちっとも怖くねぇーんだよぉぉおお!!」


 そう言ってローダは大きな拳を振り上げ、俺の顔面を殴ろうとした。

 でも俺はその拳を楽々と躱す。


「こんの、ふんっ! フラフラッ、してんじゃ、ねぇよ!!」

「いやいや、殴られるって分かって殴られる奴はいないだろ。当然躱すわ」

「くっそ! おい、お前達!!」


 ローダの仲間である二人の (モブ) がナイフを取り出しローダの攻撃躱す俺に襲い掛かる。

 三対一の構図。ま、人数がいても俺には関係ないけどな。

 ローダの攻撃と (モブ) 二人のナイフ攻撃。

 身体極化の能力を持つ俺からしたら躱すことなんて造作もないこと。

 いい加減鬱陶しくなってきたので俺は (モブ①) の一人に足払いし男の体勢を崩す。


「んなっ――」


 体勢を崩した隙に俺は男のナイフを奪う。

 そのナイフを勢い良く 男《モブ①》 の肩目掛けてぶっ刺した。


「ぐっ!? ぎゃあああああああああ!!?」


 思いっきり深くぶっ刺してやった。

 男の肩からは血がドクドクと溢れ出し、男は肩を押さえながら地面を悶え転がる。


「この、てんめぇえええ――」


 するともう一人の (モブ②) がナイフで俺の脇腹を刺そうと突っ込んでくる。


「だから遅いって」


 (モブ②) を横に躱し、俺は男の腕を掴んでそのまま握力でギリギリと締め上げる。


「いっ、痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛(いたたたたたたたた)ッ!!」


 その締めつける痛みに男はナイフを落とし、俺はそのナイフを掴み、そのナイフで (モブ②) の両太腿を深めに刺す。そしておまけに両足の踵上の腱を斬り付けた。


「うぐぁあああ! あ、足がぁぁああああ!!?」


 あっという間に 男二人(モブ①・②) を撃破。


「こ、こんの 糞魔族(クソガキ) がぁああああああ! 大人しく捕まれぇぇぇえ!!」


 仲間がやられたことにぶち切れたローダが再び真正面から襲い掛かる。

 しかも今度は肩に背負った大剣を鞘から抜き振り被る。

 俺の腕の三倍の幅はある大剣。

 ローダの怪力で振り降ろされたら一たまりもないだろう。

 俺はタイミングを見計らい大剣の刀身を両手の掌でバチンッと挟み受け止める。


「何ッ!? ぐぬぬぬぬぬ――」


 白刃取りで受け止められた事にローダは驚愕。

 そのまま刃を振り降ろそうと押し込んでくる。

 しかし俺にローダの怪力は通用しない。

 身体極化は肉体のありとあらゆる能力と五感を極限にまで強化する能力(スキル)

 それに元々の肉体の強靭さも合わさり、ローダの怪力なんて指先一つで簡単に受けられるぐらい、俺の筋力や腕力は強化されている。


「……こんなもんかよ」


 ローダの怪力に微動だにしないまま、白刃取りで受けた大剣の刀身を右膝でパキンッと折り砕く。


「バ、バカな!!? 俺様の破壊剣(バスターソード)が――ぶふぉ!?」


 俺は空かさずローダの腹部にめいいっぱい正拳をめり込ませる。

 そのまま建物の壁に激突し、俺は折った剣の刀身でローダの右腕を切断した。

 いきなりの出来事にローダは一瞬、思考が停止するがすぐに痛みを感じてきたのか腕の付け根を押さえ地面に血だまりを作り、その上で悶え苦しむ。


「えっ……な、あぁ……あ……ぁぁあぁあああ!! うで! 俺の腕がぁああああ!?」

「うっし。さてと、これからどうすっかねぇ」

「ひっひぃいいい! 腕、腕がぁああああ!」

「うっさいな、自業自得だろ。こっちは拉致されそうになったんだ、正当防衛は当然だろ」


 俺は悶え苦しむローダの前に屈み、その痛みに歪むローダの表情を覗き込む。


「ローダって言ったっけ? アンタこれでもまだ俺たちを狙う気はある?」

「狙うって何を――」

「さっきアンタ言ってたじゃん。俺とリーシャを捕まえれば懸賞金が出るって。今俺はアンタたちをメッタメタに痛めつけたわけだけど……どうする? まだ俺たちを付け狙う気はあるの?」


「ぐっ……。テメェ、よくも俺の腕をぉおお――ッ! 許さねぇ、()っっっっ(てぇ)夜さねぇからな!! この仮は必ず、必ず返してやる! 連れのあの褐色の獣人にもこの借りは倍増にして返してやるからなぁあ!」


「あーあ。今の発言、もうアンタら終わったね」

「終わった?」

「これに懲りて俺とリーシャを諦めてくれればこれ以上のことはしなかったのに。ホント……これだから短気で暴力的な人間(やつ)は嫌いなんだよ。でもまぁ、そっちがその気ならこっちも遠慮なくやれるけどね」


「言ってろ。この傷を治したら必ず復讐してやるからな! その時はどんなに泣いてもどんなに土下座してもぜってぇ許さねぇ、あの獣人をお前の目の前で犯してその光景を見せながらお前の右腕――いや、両腕を切り落としてやるからなぁあ!!」


「……あのさあ、お前たちに今後があると思う?」


「え……?」

「心優しい奴ならここで命は取らないで見逃すんだろうけどさ、俺はそうはならねぇよ。(あらかじ)め復讐宣言されて俺の身内にまで手を出そうとしてるんだ。そんな発言されてこのまま見逃すなんて危ない真似(マネ)、俺にはできないって」


「な、何をするつもりだ……」

「今後また目の前に現れても予想外のトラブルになりそうだし……簡単な話ここで死んでくれ」

「は? 死んで……?」

「言っとくけどな、俺の今後の生活と俺の連れを脅かそうっていうんなら俺は容赦しない。こちとらもうやっと理不尽な暴力と現実に蔑まされる無能から卒業したんでね」


「な、何を言ってやがる! 殺しなんて、そんな事してみろ! オレ達は冒険者ギルドに登録した正式な冒険者さまだ。犯罪者でもない奴を殺すなんて、ギルドや国が黙ってねぇぞ!」


「だからここで秘密裏に殺すことにするんだよ。殺した死体も痕跡も残さない。幸い、ここには俺たち四人だけしかいないみたいだからな。目撃者は何所にもいないしこれは悪魔で正当防衛……ま、ケンカ売る相手を間違ったと思って諦めるんだな」


「ま、待て――」


 ここで俺は一つの魔法を発動させた。

 俺は地面に魔力を張り巡らせ、魔法陣を展開、

 その周囲は暗い光を放ち、ここ最近覚えた魔法をローダとその 部下(モブ①・②) に披露する。



「魔改造影魔法『暴食の棺桶(ベルゼットコフィン)』」



 魔力を張り巡らせた影から現れたのは直立する漆黒の棺桶。

 棺桶は倒れたローダ達の背後に現れ、異様な雰囲気を漂わせた。


「なん、だ……これは? 棺……?」

「今からアンタ等を処分する処刑用の棺桶だよ」

「しょ、処刑……?」

「な、なんすかそれ……?」


 ローダだけじゃない、男二人(モブ①・②)も俺のことを怯えたように見つめる。


 魔改造影魔法『暴食の棺桶(ベルゼットコフィン)』。


 ここ数日、リズの元で研究開発を重ねた俺流の魔改造魔法だ。

 ちなみに魔改造魔法というのは俺が独自に命名した。

 元は影魔法『黒の棺(ブラックボックス)』という既存の影属性の上位魔法。

 その既存上位魔法を俺独自に改造した魔法だ。

 本来『黒の棺(ブラックボックス)』は対象を影で形成した黒い棺の中に閉じ込め対象を亜空間に閉じ込めるという魔法なんだけど……。


「その棺の中は閉じ込めた対象を噛み砕いて飲み込む食欲旺盛の”生きた”棺なんだよ」

「「「なっ――!?」」」

「んで、この棺の奥は亜空間と繋がっててな、噛み砕いて殺した対象を呑み込み、亜空間に放り出されて二度と日の光を浴びることはない。便利だろ、相手に止めを刺すだけじゃなくてその死体も肉片も残さず処分してくれる。まさに死体処理や証拠隠滅にはもってこいの魔法ってわけだ」


「な、なんだよそれ……そんな魔法聞いた事ねぇぞ!?」

「当たり前だよ、これは俺が造った魔法だもん」

「は、作っ……た……?」

「そ、造ったの。俺もこんな物騒な魔法造るつもりなかったんだけどねぇ……」


 正直、この『暴食の棺桶(ベルゼットコフィン)』は俺が魔法を学ぶ際、偶然できた魔法だ。

 こんな物騒な魔法を造るつもりはさらさらなかった。

 最初は影属性の魔法を練習していた際、影魔法で出来ることを検証していた。

 検証の最中で影魔法って色々応用が利くを知り、元々の魔法に独自の魔改造を施した結果、こんな死体処理に役立ちそうな物騒な魔法が生まれてしまったわけだ。

 正直、偶然できてしまったとは言えこんな物騒な魔法、使う機会なんてないだろうと思ってたけど……まさかこんな所で使う羽目になるとは。

 とは言ってもこうなってしまった以上、使うことに躊躇いはない。

 もう自分の無能に悔やんで傷つくのは嫌だし、このままローダを見逃すのは負担(リスク)しかない。

 それにこのままローダ達を放置すれば間違いなく身内に被害が出る。

 それだけは絶対に避けなくちゃならない。


「ってなわけで、アンタ達の命は詰んだ。潔く諦めてくれ」

「待て待て! さっきも言ったが俺たちは正規の冒険者だぞ! ここで俺等を殺したら冒険者ギルドが不審に思って調査や捜索が入る。バレたらお前は殺人犯だぞ!」


「うん、だからそのための証拠隠滅用のこの魔法だって言ってんだろ。悪いけどどんな理由を並べても俺がアンタ達を見逃す理由は何処にもない。むしろ、今ここで見逃せばアンタは間違いなく今後の俺にとって害悪になる。それが身内に及ぶなら尚更見逃すわけにはいかないんだよ」


 パチンッ

 と、俺が指を鳴らすとロータ達の背後に現れた棺の蓋がゆっくりと開く。

 開いたその中から黒い触手のような無数の帯がウネウネと動き、ローダ達の身柄を拘束していく。


「じゃあな、もうお前みたいな奴に来世が無いことを祈ってるよ」

「や、やめろ――。わかった、俺達が悪かった! もうお前とは関わらない、あの奴隷にも手を出さない! だから命だけ――ムグッ!?」


「や、やめろ来るな――モグッ!」

「許して下さぁあい! お願いしま――アブッ!!」

「そんな保身のための謝罪なんて聞きたくないわ。俺は知ってるんだよ、お前達(にんげん)がどれだけ嘘つきで意地汚いのをな。俺にケンカを売った事を後悔して……死ね」


 黒い帯はローダ達を引っ張り、棺の中に引き込もうとする。

 ローダ達は重症を負いながらもその場に踏ん張り、黒い帯の力に逆らおうとするもほぼ瀕死の人間三人が暴食の棺桶(ベルゼットコフィン)の力に勝てるわけない。

 そして三人は棺の中に引きずり込まれ、棺はローダ達の肉体を粉微塵に砕かれる。

 身体を粉砕される痛みに棺から三人の悲鳴が数秒木霊するも、悲鳴はすぐに止み、棺からは血肉をミンチにする音が響き渡る。

 しばらくして棺は地面を魔法陣の中に戻り、静けさが漂う路地裏の風景に戻った。


「やっぱどの世界にもいるんだなぁ、ああいう腐った人間ってのは……」


 にしても、ホント俺って人間辞めちゃったんだなぁ……。

 身体だけじゃない。どうやら精神すらも人間を辞めてしまったようだ。

 証拠に人間を殺しても一切の罪悪感を感じない。

 今回もリーシャの時と同じ正当防衛という名目で相手を殺したけど、罪悪感どころか殺してしまったという実感があまりないのだ。

 人間のままなら間違いなく罪悪感に(さいな)まれ、卒倒していただろう。

 でも今の身体になってからはそんな悩みなんて一切浮上しない。

 浮上もしなければこの対処が当然とも思っている。

 魔法を使った時もそうだ。殺しが日常的だったかのようなこの違和感の無さ。

 ホントにこの身体……あのシドって魔魂喰はどんな人生を歩んでたんだよ……。

 殺しがこうも手慣れてしまうって……よっぽどだぞ?

 でもま、俺自身に守るものができた事も心情的に大きいだろうなぁ。

 さらにはレミリアにも手を出すなんて言ってきたからもう殺意を抑えられなかったんだよね。

 この行動に後悔もしてないしな。

 俺は身を守るため、大事なものを守るために殺っただけだし。


「にしてもリーシャを助けたのが俺って……何所でバレたんだ?」


 問題はそこだ。

 もしかしたらリーシャ攫った連中はもう既にこの街に潜伏してる……?

 だとしたらマズいかも。

 とりあえずまだ早いけど冒険者ギルドに向かわないと。

 連中もさすがにギルドに入れば手は出しずらいだろう。

 俺は急いでレミリアの待つ出店通りへと戻る。

 まさか、レミリアが連れ去られてる、なんて事はないよな……?

 そんな心配が脳裏を過るも、戻るとそこには待たされて不満顔のレミリアの姿があった。

 

 良かった、流石に考えすぎだったか。


「遅いですよ、何所までトイレに言ってたんですか?」

「悪い悪い、それよりもちょっと面倒なことになった。ちょっと早いけど早くギルドに向かおう」

「え? どうして――」

「理由は向かいながら話す。とりあえず行こう」


 俺とレミリアは速足でギルドに向かった。

 そして速足で向かいながらさっきローダに襲われたことをレミリアに話した。


「そんな事が……」

「レミリアはこの街にリーシャを攫った奴隷商の連中がいると思うか?」

「いる可能性は高いと思います。確かこの街から少し離れた街道でリーシャさんのことを助けたんですよね。あの付近で一番近い街はこの街の筈なんで、情報収集のために連中が来ててもおかしくありません。ユウヤさんはこの街で姿を晒してますから住民たちに聞き込みされたら間違いなくアウトかと」


 いや、それ以前に俺は腕相撲で注目を浴びちゃってる。

 俺の姿を見てる奴は確実にいるし、腕相撲の件を見られてたら間違いなく覚えられている。

 また襲われたり、尾行されるのも厄介だ。

 幸い、今は尾行してくる奴の気配はない。急いでギルドに向かわないと。

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