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〇第21話『異世界の猛者たち』


「んー、これでもないか……」


 ダンタリオス家の城内にある書物庫にてリズは悩まされていた。


 ダンタリオス家の書庫には数十万冊の書籍が保管されている。

 各国の歴史が書かれた歴史書、

 魔物の生態系を記した図鑑、

 薬物の種類とその効力が記録されている医学書、

 各地域に伝わる伝説や伝承を綴った文献など。

 中にはダンタリオス家の歴代頭首が残した魔法技術の研究書や希少種族や能力に関する事が記録された重要書物なども保管されている。

 国家機密の文献などもあるため書物庫にはフィーリアが許可した者、もしくはダンタリオス家の関係者、中でも上級幹部しか立ち入ることは許されない。

 しかし国の宮廷魔術師であるリズはこの書庫を自由に利用することができる。

 リズは宮廷魔術師の他にダンタリオス家の魔法研究者の役職も兼ねている。魔法や化学の研究、その謎の解明も一任されているため、書庫に用事がある際は自由に出入りができるのだ。


「これだけ調べても何も掴めずか。やはり儂の勘違いじゃったか……?」


 ここ最近リズは勇也と魔法の鍛錬が終わると夜遅くまで書庫で調べものをしていた。


 調べているのは勇也の手の甲にあった謎の紋様だ。


 あの紋様をリズは書庫の何処かで見たことがあった。

 その記憶を頼りに片っ端から書物を読み漁っていた。

 しかし書庫を読み漁って数日、未だに記憶の答えに辿り着けてない。

 どの書物も不発に終わっているという有様だ。

 そして読み終えること数百冊目。

 結局、紋様のことは何も解らずリズは深いため息をつき椅子の背もたれに深く寄り掛かる。


 そしてリズはふと、お昼の勇也との鍛錬を思い出す。


「それにしても、相変わらず今日のユウヤの上達振りは凄かったのぉ……」


 リズからしたら勇也の魔法の上達速度は異常だった。

 本来、魔法というのは魔力というものを理解して自在に使えるまで数十年の月日が掛かる。

 そこから中級、一流の実力をつけるとなるとそこから何十年という年月が必要になり上級魔術師になれる種族は一握りと言われている。

 今の勇也は間違いなく天性の才能を”持つ”種族(もの)だ。

 未だ成長段階とは言え、勇也その成長速度は凄まじい。

 魔法への理解力、膨大な魔力の容量、純粋な肉体の強さ、能力の応用力。

 どれをとっても全種族の能力値を遥かに凌ぐ。

 このまま実力を付け続ければ間違いなく魔族を統括できる存在となりえるだろう。

 しかし、ここでリズはふと思う。



 今の時代、この世界での "最強" は誰なのだろうか。



 魔魂喰が最強だった昔、たくさんの他種族達がその強さを競い合っていた。

 その高みを求め、戦いは悲惨な殺し合いや醜い戦争にまで発展した。

 そんな種族達を喰らい、魔魂喰は『全種族最強』の称号を手にした。


 しかし、それは昔の話だ。


 魔魂喰が消えて数億年後の現代、強さを極めた他種族たちは星の数ほど存在する。

 今の魔魂喰が敵うのかはまったくの未知数だ。

 

 様々な界隈で名を馳せ、最強と認められた選ばれし種族(もの)達。

 

 国を守る王国騎士、

 Xランクの冒険者、

 各地の紛争地域で戦いを生き甲斐とする傭兵、

 裏社会に蔓延る罪人や殺人鬼、

 そしてまだその頭角を現していない未知の種族達。


 リズが知る限りでもその強者たちの名前は挙げきれない。例えば、


 聖明国(せいめいこく)を収める魔術の王「アレキサンドロス・ソロモン」


 西を統べる覇王「童子(おに)の酒天」


 闇痰(あんたん)の魔女「アルドレッサ」


 賞金稼ぎにして獣人国の王、猛者喰(もさぐらい)「レオニダス」


 いずれも表舞台では知名度も人気も高い猛者達。

 その実力も各地からは認められ、強い権力なども持ち合わせている。


 逆に裏舞台にも油断できない罪人が多く存在する。

 勝つためなら手段を選ばない。残虐非道を歩む罪人たち。

 高い賞金を賭けられるほどその強さは本物とされている。

 非公式ではあるが確実に強者の一団に連なれる。例えば、


 殺戮者「ブラッディ・パイソン」


 深淵に沈む呪術師「華楼(かろう)魔乃守(まのもり)


 混沌へ誘う暗殺者「アラクラ」


 血塗られた吸血の暴君(ブラッディ・ロード)「鮮血のツェペシ」

 などが代表的だ。


 また、団体や組織、群れで有名な猛者たちも存在する。

 一人一人が相当な実力持ち、複数でその強さを何十倍にもして名を上げた強者の集団。

 王国を守護する騎士団、冒険者パーティ、傭兵団、犯罪者集団など。

 その集団を統括するリーダーは絶大な支持と実力を持つ。


 聖明国直属聖王騎士団『七聖剣(セブンズセイバー)


 死霊術師団『死怨骸王冠(デットリークラウンズ)


 鉄血の傭兵団『メタルギアウルフ』


 西の裏社会を支配する百鬼夜行組(ひゃっきやこうぐみ)朧月(おぼろづき)


 犯罪武装組織『ナイトメア・イクリプス』


 人類宗教組織『ヒューマラルド』


 そして、異種族の中でもっとも最強と名高い竜鱗族。

 その竜鱗族の中でもっとも能力が強い個体もまた全種族最強の有力候補だ。

 その強さはまさに災害。出会ったが最後を死を意味するほど。


 恐怖で恐れられる『厄災(やくさい)竜王(りゅうおう)』達。


 破壊のために生まれた破壊神『竜人デルドラ』


 精霊の魔力に愛された竜『精霊竜エレメンタルフェアラー』


 天地を覆うほどの巨体を誇る古竜『グラウンドレクス』


 天空の雲海を支配し空を支配する『雲龍(うんろん)


 こうやって上げるだけでもキリがない。

 しかもそれは種族間の中だけの話じゃない。

 未だに討伐が困難とされている特殊個体や突然変異の魔物。

 その魔物たちも最強の候補に挙がってくる。

 冥狼族のように未だその生態が解明されていない未知の種族達も例外じゃない。

 そして人間の中にも相当な実力者がいるのも確か。

 中でも物怪族と鎧妖族は不気味な事この上ない。通常の魔力とは違い、種族独自の魔力や異能を操り一個体で国家転覆も可能だと言われているほどだがその実力はまだまだ謎に包まれている。


 そんな化け物染みた猛者たちがいる今の時代。

 今の魔魂喰はそんな強者達と比べ、どれほどの強さを誇るのだろうか。

 子供とは言え、魔物化した竜を圧倒した実力を持つ魔魂喰。

 間違いなく上位の強さには食い込むだろう。

 でも戦いというのは戦況や精神状態に応じて勝率が大きく変化するもの。

 戦う相手の数、場所や状況によって戦いというのはどう転ぶか分からない。


「ふっ、じゃが今のユウヤならどんな種族でも相手にはならんだろうな」


 リズの中で勇也が負ける姿がまったく浮かばなかった。

 死なない肉体、どんな魔法も簡単に発動できる魔法センスに無限の魔力、能力の応用力、どんな状態異常も無効にし、どんな厳しい環境にも適応できる適応力。

 そんな無敵な魔魂喰に一体誰が勝てると言うのだろうか。


「それでこれこそ魔魂喰に匹敵する未知の種族でもない限り魔魂喰の勝利は揺るがな――」


 とある単語を口にしたとき、リズの脳内にとある文献の記憶が思い浮かんだ。

 


 『未知の種族』



 既に風化したおとぎ話とはいえ、リズはとある種族の文献を思い出し、再び無我夢中に本をめくる。


「これじゃない。これでもない。これも違う。確かにこの辺りの文献で……」


 一部各地方でこんな言い伝えが残されている。


 その何万年前の遥か昔。

 各地を放浪とする頭脳に長けた一人の種族がいた。

 どんな種族だったのかも、どんな実力者だったのかも一切の詳細が不明。

 しかしその種族が持つ並外れた頭脳はありとあらゆる知識と様々な分野で応用できる技術力が記憶されており、一つの文明を大きく発展へと促す強大な知識力(ちから)を秘めていた。

 しかしその種族はその頭脳で一つの文明を破滅に導いてしまい、種族は自らの力に恐怖を覚えその知識(ちから)が二度と世に出ないようにと各地域に迷宮を造り、二度と世に出ないよう知識(ちから)を永久に封印した。


 ここまでが各地に残るとある種族の言い伝えだ。

 言い伝えの種族が実在したのはどの歴史を遡ってもその記録は確認されていない。

 その種族がどんな種族だったのかも記録がなく、滅んだ文明のことも詳細は何所にもない。

 あるのは誰が後世に残したのか分からないこの言い伝えだけ。


 しかし、種族が知識を封印した迷宮は各地域に実在し、その奥深くに封印された”知識(ちから)”がどんなものなのかは誰も知らない。

 知識(ちしき)となぞられているものが武器なのか、魔導書なのか、はたまた財宝なのか。

 その正体を知るために名だたる冒険者や考古学者が迷宮の攻略に挑んだ。

 財宝に目がくらんだ王国の王族や裏社会の罪人たちまでも。

 しかし、迷宮に一度入った種族はそのまま生きて帰ってくることはなく、現代にいたるまで知識が封印された迷宮を攻略し知識を手に入れた種族は誰一人存在しない。

 まさに攻略不可能。

 生きては出られないその迷宮は今でも各国の冒険者や考古学者から恐れられている。

 そしてその知識(ちから)が封印された迷宮には決まってある”紋様”が象徴した場所に彫られている。

 その紋様が勇也の手の甲に描かれていた紋様に一致していたことをリズは思い出し、リズは何かに憑り付かれたように再び、いくつもの本をめくり出す。

 一冊、また一冊と心当たりのある分厚い本を何冊も何重にも積み重ね、ついに――。


「これじゃ……。間違いない、この霊魂を象った髑髏の紋様……」


 勇也の紋様とまったく同じ紋様がリズの見つけたページに大きく描かれていた。

 その種族は強かったのか弱かったのか、どんな種族だったのか、全てが謎に包まれていた不気味な種族と言い伝えられていた。


「しかしどういうことじゃ? 何故この種族の紋様がユウヤに……」


 一切関係ないと思っていた謎の種族と魔魂喰。

 リズはしばらく考えるもその関係性が分からないまま、その答えは出ない。

 仕方なく、考えるのをやめ僅かな収穫があったことにリズは満足した。


「これは、ダンタリオス家の歴史上の大発見かもしれんぞ……」


 それは今まで解き明かされることのなかった大きな謎。


 リズは魔魂喰と出会うことでその謎の結びを僅かに解き、この先の解明に大きな期待と興奮に高鳴っていた。

 リズもかつて、この謎の種族については調べたことがあった。

 しかし情報が余り少なく、情報があると思われる迷宮も危険すぎて立ち入ることができない。そのためリズは数十年前からその種族の調査を完全に打ち切ってしまったのだ。

 余りに大きすぎて危険すぎる謎。

 リズは賢い。故に自分の命を最優先する。

 そのため命を懸けるには負担が大きすぎると判断したのだ。

 しかし、再び再熱したリズの好奇心はまた謎の種族に注がれる。

 その種族の断片を握り締めたリズは再び、謎の種族を調査していくことを心に決めた。


 かつて禁断の知識を詰め込み文明を発展にも破滅にも追い込んだ種族。

 そんな種族を一部の種族たちの間ではこう呼ばれている。


 叡知の種族「クトゥア」と。


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