〇第二十話『魂の改造』
リーシャと従者契約してから一週間が過ぎた
本格的に従者関係となった俺とリーシャはその後お互いの能力修行に明け暮れた。
ちなみにリーシャと従者関係を勝手に結んだ件。
これに関してはフィーリアやリズにこっぴどく叱られてしまった。
魂黎の契約に関しては魂神の能力の一部ということで誤魔化したが、許可なく契約したことが不満だったらしく今後は契約を使う際はフィーリアの許可を取ることを条件に許しを得た。
その後、リーシャはフィーリアの元でメイドして働くためメイドに必要な礼儀作法や身を守る護身を学び始めた。今ではメリスが付きっきりで講師をしてリーシャの面倒を見ている。
最初はあの嫌味メイドが講師で厳しくされるんじゃないかと心配だったけどそんな心配は途方に終わりリーシャはメリスの元で手取足取り優しく教わっているそうだ。
さらにリーシャはメリスから本格的な武術を学んでいる。
リーシャ自身に既に「格闘術」の能力がある。
それでもリーシャは自身の能力を使ったことがない。
だから戦闘経験の豊富なメリスから直々に教わっているんだとか。
もちろん、俺の方も負けてられない。
リーシャを外敵から守れるように、この異世界で暮らしていくためにも各種鍛錬を怠らない。
魂神の制御、
魔法とその他能力の自主開発訓練、
シャムさんとの模擬戦、武術の修行、
そして、リズの魔法授業。
おかげでこの一週間、かなりの制度まで仕上げることが出来た。
そしてとある日、俺は試したいことがありフィーリアとシャムを城の一室に呼び出した。
一室で何をするのかはフィーリアに事前に話してある。
今回のメインはシャムさん、シャムさんの片翼について試したいことがあったのだ。
「悪いな、二人とも来てもらって」
「気にするな。お前の試したいことが上手くいくなら私は大賛成だからな」
「自分は聞いてないんですが……ここで一体なにを?」
「失礼で申し訳ないんですけどシャムさん、もう一度その義翼を見せて貰えませんか?」
「義翼をですか? えぇ、別に構いませんけど……」
シャムさんは唐突な呼び出しに戸惑ってる。
呼び出したのは主に重症化患者を治療する医療室。
棚には幾つもの薬品が無数に並び、医療台や医療器具など治療に必要な道具が揃ってる。
ちなみに城に属する医者にはまだ出会えていない。
とある別の土地に任務中だとかでここ数年領地に帰ってきていないらしい。
現在は優秀な副主任の獣人が基本医療の全体を任せられていて、国内で起きる治療に関しては今のところ問題はないとのこと。
「ふむふむ、なるほどね……」
「ユウヤ、イケそうか?」
「この間のリーシャの魂に魂神を使ってコツは掴んだし、ここ数日の間でメイドさんたちのおかけで大分経験は詰めたから……うん、イケると思う」
「あの……これから一体何をするんですか?」
「シャムさんのその片翼なんですけど、俺なら元に戻せるかもしれないんです」
「え? いやいやいや。そんなの出来るわけないじゃないですか」
「やっぱりそう思います?」
「私の翼は事故で灰になりました。元の翼があるなら繋げる事は出来るかもしれませんがもう私の翼は灰になって無いんですよ? 無いものをどうやって戻すんですか。蜥蜴人の尻尾みたいに切れたら生えてくるわけでもないし元に戻すなんて不可能ですよ」
「それがもし可能だと言ったら?」
「いや、ですからどうやって……」
「シャム、ここはユウヤに任せてみないか? 翼が戻るならお前も嬉しいだろう」
「しかしもう翼はないんですよ? ないものをどうやって戻すっていうんですか?」
「俺の能力なら可能なんですよ。俺の『魂神』の能力なら、ね」
ここ数日の自主的な魂神の能力開発で分かったことがある。
もし肉体に再生不可能の欠損がある場合、その魂にも欠損が生まれる。
魂と肉体はそれぞれは写し鏡みたいになっていて "肉体" に欠損した部分が出た場合 "魂" にも欠損する箇所が生まれる。手や足、臓器などの有機欠損の場合は霊被に欠損が生まれ、記憶や感情と言った脳に欠損が出た場合は心核に欠損が生まれる。
肉体と魂は文字通り一心同体。肉体に何かしらの不具合が起きればそれが反映されるように魂にもその影響が出てしまうわけだ。
しかし魂神はそれらの欠損や不具合を魂に触れることで修復や再生が可能なのだ。
やり方は『霊埠の腕』で魂の欠けた箇所に俺の魔力を直接埋め立てるだけ。
そうすると俺の魔力が欠損部分の代用になり、魂の欠損を修復することができる。
そして魂が修復できれば肉体は魂の修復に反応し肉体の欠損も治るという仕組みだ。
「そ、そんなことが本当に出来るんですか……?」
「ここ能力の検証をしたんだけど、結果 "出来る" と判断した。どうだろ? 俺にシャムさんの翼を治させてもらえないか?」
「確かにこの翼を治せるなら嬉しいです。ですが、この義翼は自分の誇りと言いますか……フィーリア様への忠誠の証と言いますか……」
「シャム、治してもらえ」
「ですが……」
「その義翼に愛着があるのは私も有難い。しかし私はお前がいつまでも事故に囚われている姿を見ているのはとても辛いんだ。戦いにに誇りを持っていても義翼のせいで全力を出し切れないお前を私は救ってやりたい」
「フィーリア様……」
「シャムの忠誠心は素直に受け取ろう。しかしこれからも私に忠誠を誓ってくれるならユウヤの能力による施術を受けててはくれないだろうか。私は……素直に元気になったシャムの姿を見たい。そして、これからも私を支えてもらいたい。それだけだよ」
シャムさんの片翼はとある事故により燃えてしまい、片翼は機能不全となってしまった。
科学的治療や魔法による治療、幾度の治療を試してきたが治ることは適わず、周囲からは空を飛べない鳥族として烙印を押されてしまい、シャムさんの未来は奪われてしまった。
そんな絶望の淵に居た時にシャムはフィーリアに出会ったんだとか。
フィーリアはシャムさんの戦闘技術を買って国の軍隊長として迎え入れ、義翼を与えた。ちなみにシャムさんの義翼はダンタリアン家の魔法技術を結集した高性能な義翼で様々な機能が搭載された一級品。身を覆えば強固な盾になり、羽ばたきで鎌鼬を引き起こし、時速800キロの速度で飛べる一級品の義翼だ。それでもやはり作り物の翼では全力が出せず、シャムさんはずっと歯がゆい思いをしてきたらしい。
その話を聞いて俺は今回、フィーリアに魂神によるシャムさんの治療を提案した。
「……分かりました。ユウヤさんお願いできますか?」
「いいのか?」
「今の義翼で満足している、と言ったら嘘になりますから。それにユウヤさんはフィーリア様が信頼したお方、自分はユウヤさんを信じます、だからどうか……お願いします」
シャムさんは俺に深々と頭を下げた。
「分かった。ただし、少しでも嫌な気持ちになったら言ってくれ。すぐにやめるから」
「やめる必要はありません、お願いします」
シャムさんは義翼を外し、義翼の手術時に切り落とした翼の断面が露わになる。
もう手術跡が塞がってるとは言え、何とも痛々しい跡だ。
「ふぅ~……。では参りますか」
俺は心を落ち着かせて魂神を発動。
シャムさんの魂の位置を目視で捉え、霊埠の腕を発動させる。
シャムさんの魂はちょうど胸元の中心。そこ目掛けて俺は腕を伸ばす。
思った通りだ。シャムさんの魂の霊被に欠損部分がある。
その欠損部分に俺自身の魔力を埋め立て、魂の輪郭を整えていく。
例えるならプラモを作る時に肉抜き穴をパテで埋めるのと同じだ。
その応用で俺はシャムさんの霊被の欠落を戻していく。
んー。だけどただ翼を治すだけで本当にいいのか?
正直、能力で翼の欠損を再生させることは簡単だ。
でも、翼を治したところでまた何らかの事故で翼が無くなっちゃこの治療も意味がない。
それにまたシャムさんの心に負傷も負わせてしまうし、精神的負傷も大きい。
と、なれば俺がする行動はただ一つ。
シャムさんの翼を前よりもさらに強化してあげればいい。
能力『魂神』は魂に干渉することで治療や改造を施すことの出来る能力。
なら両翼をどんな攻撃でも傷一つ付かない頑丈な翼に改造してあげればいい。
よし、ならば即座に行動に起こすのみだ。
そう思い立つと俺はさっそくシャムさんの魂に改造を施していく。
ここ数日の能力の検証はあらかた把握したから改造もお手の物だ。
えーっと、まずは二度と燃えないように火の耐性を上げてっと。
さらには頑丈さも上げておこう。矢や銃弾程度では傷つかないようにして、羽一枚一枚に刃の特性を付与しておく。んで、羽が無くなってもまたすぐに生えてくるように再生力も極力高めておいて……。
こうすれば翼で覆えば盾代わりにもなるし、羽を飛ばして投げナイフ代わりにもなる攻防一体の翼って感じにしよう。羽が無くなっても瞬時に生えて補充はできるし。
……よし、これで攻撃面と防御面の改造は十分だろう。
次は翼の飛行性能の改造だ。
鳥族のメインはなんと言っても飛行能力。
霊被に風の魔力を織り交ぜて……。
さらには上級の魔法を使えるように魔力容量も増やしておこう。
翼に風の魔法を纏わせられれば何倍もの飛行速度が出せるし、使い方次第じゃあ高速の体当たり攻撃なんてのもできるかもな。
ふむ、俺の翼じゃないのになんか無駄に想像力が膨らんじまう。
あとはそうだな……。
肉体の筋力と動体視力もろもろも俺の魔力を注いで強化して。それから――――。
そんな魂神の魂改造手術を始めて十分後。
改造が終わるとシャムの背中には元の翼よりも大きく立派な翼が生え変わっていた。
バサバサと動かしている所をどうやら問題なく動させているようだ。
「「…………」」
フィーリアとシャムは唖然として翼を眺めていた。
まぁ、無理もないか。欠損してなかった方も含め、シャムさんの両翼は前よりも立派で綺麗な翼になって再生したんだからな。再生不可能だったんだもん。そりゃあ驚くのも無理ない。
「翼の方には義翼の時の性能をまんま使えるようにしておいたから違和感なく使いこなせるはずだ。あとは改造した翼を制御しやすいようにシャムさん自身の肉体にも改造を施しておいたから戦闘面でも色々と役に立つと思う」
「ユウヤ殿……」
シャムさんは再び深々と頭を下げ、喜びのあまり涙を流していた。
「本当にありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか……」
「いや、別に大したことじゃあ――」
「これで自分は、これからもフィーリア様に付いて行けます。そしてこれからもダンタリオン家の戦士として戦っていけます。本当にありがとう」
「お、おぉ……」
シャムさんからの誠心誠意の感謝になんか恥ずかしくなってくる。
蔑まされるのは慣れてるけど感謝されるは慣れてないからなぁ……。
でもまぁ、少なくとも不愉快ではないみたいだから良かったけど。
「しかし改めて見ると想像以上の力だな、魂神の性能は……」
「でも、ここまで出来るようになったのはフィーリアとメイドさん達のおかげだよ。そのおかげで改造で出来る種類がことが増えたわけだし」
ここ数日、魂神の性能、特に霊埠の腕に関しては調べておく必要があったためフィーリアにはその協力をしてもらった。正確にはフィーリア家の従者であるメイドさん達にだけど。
ダンタリオン家に付き従うメイドさん達にはワケありの種族たちが多い。
特殊な体質や肉体の大きな傷のせいで虐待を受けたり種族から追放されたりなどして自身の居場所を無くした種族や社会不適合の種族をフィーリアはダンタリオン家にメイドとして積極的に受け入れ、メイドとして雇用しているそうだ。
フィーリア曰く、他種族と友好関係を築くための一種の奉仕活動らしく、ダンタリオン家の宣伝効果にも繋がるんだとか。
もっとも、フィーリアの可哀想な種族を見捨てられない性格が主な理由らしいけど。
その話を聞き、フィーリアにこうお願いされた。
『ユウヤの能力で彼女たちの体質や傷を治してはやれないか?』
もちろん、そのお願いに俺は悩んだ。
確かに能力の場数は踏んでおきたい。でも俺もまだまだ能力については未熟なとこもあるし失敗する可能性だってないわけじゃない。
あとリーシャは躊躇いなかったけど、他人に自身の魂を触れさすってのは相当不快な気持ちにさせるんじゃないか? リーシャみたいに魂神の改造を受け入れてくれる種族もいるんだろうけど、全員が全員それを受け入れてくれるかと思うと疑問が残る。
それにメイドさんたちを何か能力の実験台みたいに扱うわけだから少し気が引ける。
結果、城のメイドさんたち全員は俺の魂神の使用を承諾し治療と改造を望んだ。
いやいや、なんでだよ。
悩んだメイドさんもいたけど、フィーリアが軽く説得すると二つ返事で了承してくれた。
それほどみんな自身の体質や傷には大きな欠陥を感じていてそれを治してこれからもフィーリアのために働き恩を返していきたいんだとか。
慕われてんなぁ、フィーリアは。
そうして始まった魂神によるメンドさん達の治療と改造の検証。
かなりの人数だったため、能力の検証には十分すぎるほど場数は踏めたし、霊埠の腕で出来ることも色々と解明できた。そして魂神の制御操作も上達。それと同時に出来ないことも判明した。
もうある程度の治療や改造はこなせるし、生成できる霊薬もかなりの数になった。
中にはシャムさんみたいに身体の一部を欠損した種族もいて欠損の治し方に関してはそこで試行錯誤し、欠損部分の再生方法を独自に検証した。
色々と戸惑ったり試行錯誤することはあったけど、無事城内のメイドさんたちの治療と改造は失敗なく終わり全員手術は大成功した、というわけだ。
「なんでしょうか、まるで自分の翼とは思えないぐらい軽い……。それにこれは、自分の魔力も上がってる……?」
「そりゃあ肉体の方にも改造を施しといたからな。魔力量もかなり上がってると思うし、筋力とかも僅かながら強化しておいた。これなら前以上に力を発揮できるだろ」
「ユウヤ殿、自分はアナタに返せないほどの恩ができました……。この恩はフィーリア様同様、一生を賭けても返しきれない」
「そういうのはいいって。そんな恩とか俺はそんなことのためにやったんじゃないし能力の場数を踏みたくてやったことだ。悪く言うとシャムさんは俺の能力の実験台になったんだ、感謝される筋合いはないよ」
「それでも、助けてもらったことに変わりはありません。ユウヤ殿、このダンタリオン家に来て頂き本当にありがとう。アナタが居れば文字通り色々な種族が救われる。それにユウヤ殿の強さも加わればダンタリオス家は無敵だ」
「いやいや、褒めすぎだって」
「褒めすぎではないぞ、ユウヤはそれ相当のことをやったんだ。シャムの感謝、素直に受け取っておけ」
「あ、あぁ……どういたしまして」
なーんか調子狂う。いや、勝手に調子が狂ってるのは俺か……。
だって相手は助けてもらったことに対して素直にお礼を言ってるだけだもんな。
いちいち面倒くさい感情になってるのは俺で相手はなにも可笑しいことはしてない。
ホント、自分の捻くれた性格にため息がでる。
「にしてもユウヤの魂神は魂という仕組みに理解を深めれば深める程、さらなる性能を発揮できる可能性が高い。今後とも要検証だな」
「でも城のメイドさん達のおかげで魂の構造に関しては色んなことが分かったよ。魂のどの部分を強化したら肉体のどの部分が強化されるのか、あとは霊薬の使い分け方とか、霊埠の腕の制御方法とか。今なら単純な肉体強化の改造は簡単にこなせそうだ」
「なんなら、またこれから新しく雇用する種族達も魂神による改造を施してやればいい。練習台にはことかかないぞ」
「練習台って……。悪い言い方しないでくれよ」
「ふふ、スマンスマン」