〇第18話『"冥狼族"リーシャ』
魔魂喰の検証を終え、俺達四人は岩場を後にした。
その後、俺はリズによる魔法の実技特訓をみっちりと受ける事になった。
丸一日、リズの魔法学と魔法修行を受けた結果。
俺の魔法技術の精度はかなりの実力になった。
リズが言うには魔法とは”想像”がかなり重要とのこと。
自身の魔力をどのような形に具現化するか、
身体の何所から放出するか、
魔力にどんな性質を持たせるか、
その想像が鮮明かつ正確であればあるほど魔法は使いやすく発動方法も違ってくる。
そして発動方法についてもこれがまた奥が深い。
詠唱を唱え発動するもの、
魔法具に魔力を通し発動するもの、
想像だけで即発動するもの、
自然界にいる精霊の力を使い魔法を行使するもの、
大気や自然環境に含まれる魔力を使うもの、などなど。
魔法との相性や使う属性により発動方法も変わってきて、俺の探求心を刺激してくる。
すんなりと魔法を覚えたその後の俺は試したいことを片っ端から試していく。
異世界魔法作品を読みに読み漁った俺はその記憶を頼りに魔法で出来ることを徹底的に試し、魔法の仕組みと魔力の使い方を覚えていく。
そして気付いた頃には自分独自の魔法を生み出すまでに成長。
これにはリズもビックリ。本来何年も経験を積んで魔術師は一流になるのにそれを半日で会得してしまう俺にリズはただ打ちひしがれるだけだった。
「これが世界の全魔術師に知れたら……絶望するかもしれんの……」
そんな言葉をぼやかれながらも俺は独自に自分流の魔法を開発していく。
ここまで上達したのは言うまでもなくこの魔魂喰の肉体のおかけだ。
魔法を使えば使うほど身体が自然と経験してきたことを思い出していく。
まるで魔法を昔から使っていたかのような感覚だ。
魔魂喰って実は魔術師としてはかなり高位な存在だったのでは……?
あと魔法の練習をしていく中で自分の各能力の使い方も一通り会得した。
最初能力と言われても使い方や発動の仕方が全く分からず困ってたけどリズに色々と教わり自身の能力を理解し自在に使いこなせるようになった。
能力はある程度自分の中にどんな能力があるのか発覚していると発動の想像がしやすく使い方もすんなりと理解できる。
ならどうやってあるかも分からない自分の中の能力を理解するんだよ、
と言う話だが、リズやフィーリアが言うにはそのための『鑑定ギルド』だと言う。
能力は知らない間に覚醒しているなんていうのはざらで能力持ちの戦士や魔術師は定期的に鑑定ギルドに依頼するんだとか。もちろん能力覚醒が直に分かることもありその使い方も勘や感覚で掴んでしまう者も少なくはない。
とにかく能力というのは自身の中にどんな能力があるのかが分かれば扱い易いと言うことだ。
特に『次元収納』の能力の異常な便利さには驚かされた。
収納できる容量に際限がなく、どんな大きさの物も一瞬にして収納ができてしまう上に、収納時は入れた物の時間経過が停止するためどんなに長い年月収納していても腐敗も劣化しない。
これもある意味反則級能力だよなぁ……。
ただの物運びに便利な能力って考えるのは少し不安な気がする。
一歩考え方を間違えたらとんでもない使い道を発見しちゃうそうだ。
後にフィーリアに俺の能力を全部鑑定して貰った結果。
以下の能力が俺の身体が持つ全て能力だということが判明した。
『魂神』を初めてとし、
『不老不死』『万能武具』『無限魔力』
『状態異常無効』『身体極化』
『全属性適正』『神羅創造』『負担無効』
『次元収納』『気配探知』
『鑑定阻害』『完全模倣』『真実看破』
『言語理解』『念動力』『瞬間記憶』
以上が今、俺が保有する全ての能力だ。
使い方はおいおい覚えていくとして、まぁ何とも壮観というかなんと言うか……。
本気で魂神を抜きにしても世界を制圧できるんじゃないか?
そう思うほどのレベルの能力ばかりだ。
あと、戦い以外でも日常生活に役立ちそうな能力も結構ある。
これもどんな応用が利くか今後試していこう。
と、まぁ……魔法で色々試していくうちに表はあっと言う間に外は真っ暗に。
食後の散歩がてら城内の吹き抜けの通路を俺はふらふらと歩いていた。
「ふぅ~、今日も有意義な一日だったなぁ。特訓後のご飯も美味しかったしホントこっちの世界に来てから毎日が楽しすぎる」
夕食も豪華で美味しかった。
あのメインで出てきた肉料理、何の肉かは分かんなかったけどトロトロで美味しかったな。
「ん? ここは、中庭か……?」
吹き抜けの出入り口から新緑が広がる自然豊かな中庭が目に入った。
テラスも設置されたオシャレな中庭で植物園みたいな規模の広さだ。
気になって中庭に入ってみると。
「うっわぁーー。これはまたスッゲェなぁ……」
そこには満点の星空が広がる夜空が広がっていた。
まるで宇宙にでもいるかのような星の数。
大きな天の川が夜空に軌跡を描き、大小様々な星が夜の暗闇を神々しく照らしている。
前の居た世界じゃこんな神々しい夜空は拝めなかった。
「よし、ちょっと食後の運動と予習も兼ねてリズに教わった事の予習でもしますか」
外だし丁度いい。
中庭の芝生の上に立ち、今日リズに習った魔法のおさらいをしておく。
まずは魔法の発動から。
手の平から小さい火球を生み出す理想を頭に思い描く。
より鮮明に、より正確に脳内で思い描く。
そして手の平の上に火球を造り出す。
魔力の放出の仕方はもう完璧だな。
次に火球の大きさを自由に変えていく。
大から小へ、小から大へ、これを数回繰り返す。
次に丸い火球の形を自在に変えていく。
四角、三角、菱形、渦巻、三角錐、楕円、円柱、特殊な形もなんのその。
さらにはその火球で文字を形作ることもできる。
「よし、次は……」
次に炎を全身に纏い、その纏った炎を身体の外側へ徐々に徐々に広げていく。
広げた炎は俺を中心にドームのように取り囲み、炎の結界が完成。
結界を縮小・拡大を繰り返し、範囲指定も自在に変えれることを再確認。
その気になれば結界でこの城全体を覆うこともできそうだ。
「辺りの植物を燃やさないように出力は抑えてっと……」
中庭の植物に被害が出ないように出力を制御するのも忘れずに。
いくら魔力の炎とは言え植物は燃えちゃうからな。
炎属性を使うときは注意しないと。
「よしよし、次は発動数っと――」
結界を解いて、次は宙に一個の火球を造る。
大きさはバスケットボール程度。
その大きさの火球の数を増やしていく。
10、50、70、90、100、500……。
本来、魔法の同時発動というのはかなり数が多い程に難しい。
魔法を使える素人で大体5。ベテランの魔術師だと10~20が平均的な数字。
そして、使う方が高位であればあるほどその数字は低く変動する。
その平均を俺は遥かに超え、1000の火球を生み出し空中で自在に操る。
1000の火球を縦横無尽に操り、周囲をグルグルと周回させる。
その光景はまるで炎の竜巻の中にいるような光景だ。
「ほっ!」
次にその火球たちを一か所に集め、一個の大きな火球を造り出す。
大きな火球は周囲を煌々と照らし、まるで昼頃のような明るさだ。
そのまま火球を凝縮させていき、その場で静かに消滅させる。
再び、夜の暗さ戻った。
「この調子ならもうあと1000ぐらいは余裕でいけそうだな」
まぁ、魔法の種類はともかく俺には『無限魔力』の能力があるんだ。
魔力が無限ならいくらでも数は増やせるわな。
「よし、次に属性のおさらいだな」
炎属性はとりあえずここまで。
次に別属性のおさらいだ。
リズとの特訓で教えてもらった別の属性を再び試していく。
まずは水属性。手の平に水を想像し、水を造り出す。
よし、問題なく水属性も使えてる。
フヨフヨと手の平で浮かぶ水の塊。その塊を意識を通じてグニョグニョと形を変える。
操作性も良好、水属性も問題なく扱えてる。
形がないものとは言え、炎よりは操りやすいかも。
次に雷属性だ。
同じく手の平から雷の帯を造り、手の周りをグルグルと周回させる。
雷は元々動き自体が早いから動かす操作が難しい。
でも応用とかはいろいろ効きそうだな。使いこなせばかなりの武器になる。
次に風属性。
手の平で風を造り、風の球体を造り出す。
んー、雷ほど操作は難しくないかな。
自身に纏って空とかも飛べそうだし、これも応用が色々聞きそうだ。
次は土属性。
手の平に土の塊を生み出し、その塊を掌の上でクルクルと動かす。
形がしっかりしている分、操作性はかなり良好。
ただ、重量があるから動かすスピードはかなり遅い。
物理攻撃と物理的防御専門だな、これは。
そしてリズに教えてもらった他の属性を順番に試していく。
にしても『無限魔力』と『全属性適正』、思った以上に有能で反則級な能力だ。
だって魔力が尽きないってことは同時発動する魔法の数も無制限。
つまりどんな高等魔法も同時に複数発動することが可能ってことだ。
さらにはこの世に存在する全ての属性が使える。
少なくともリズが教えてくれた属性は全部使えた。
属性は他にも光、闇、爆、樹、氷、影、鉄、磁、泥、毒、などなど。
属性の数は他種族や能力同様、その全ての種類を知る者はいない。
そして今日試した属性だけでもなんと100種類以上の属性を使えることが分かった。
さらには別属性同士で同時発動できることも実証済み。
まだ俺が知らない属性も使えるとなると組み合わせと応用は無限大……。
「これは、色々とおもしろくなりそうだな……」
よし、あと少し使い方のおさらいでも――。
「ユウヤ……?」
不意に背後から名前を呼ばれた。
そこにはさっきで一緒に夕飯を食べていたメイド姿のリーシャがいた。
「リーシャ? どうしたんだこんな所で」
「こっちの台詞だよ、ユウヤは何をしてたの?」
「食後の運動みたいなもんだよ。今日教わった魔法の特訓をおさらいしてたんだ」
「確か今日は一日リズさんと一緒に魔法の勉強してたんだっけ」
「おかけで大分色々覚えたぞ。まだ試したいことは山積みだけど、これならすぐに実戦に出ても問題なさそうだなぁ。んん~ッ――ふぅ……」
俺は食後の運動を終え、ググーッと背伸びをして芝生の上に寝転がる。
「隣り良い?」
「あ、あぁ。構わないぞ」
そう言ってリーシャは寝転がる俺の隣に膝を折り畳むように座る。
「リーシャは今日はどうだった? 確かメリスさんにメイドの仕事を教わってたんだっけ」
「最初は上手く出来るかどうか不安だったけどメリスさんや他のメイドさんたちも優しく教えてくれるしメリスさんには筋が良いって言われたよ。今後の上達次第ではユウヤの専属のメイドになってもいいかもって」
「俺の専属か……。俺にメイドって必要か? 自分の身の回りのことぐらいは自分で――」
「僕がユウヤの専属になっちゃダメ……?」
「…………まぁ、決まったらその時は頼むよ」
「――ッ! うん!」
はぁ、このリーシャの寂しそうな顔に弱いなぁ俺……。
ケモ耳も合わせてそんな可愛いションボリ顔されたら陥落しない人間はまずおらんぞ。
子供ってのも相まってか、どうにも悲しい顔をさせるのに罪悪感を感じてしまう。
まぁ、リーシャが隣で笑顔でいてくれたら俺も癒されるから良いんだけどな。
「そういえばリーシャ、お前のことフィーリアから聞いたよ」
「聞いたって?」
「お前 ”冥狼族” っていう特殊な霊獣族らしいな」
「――ッ」
リーシャは少し驚いた表情を見せた後、顔が俯いてしまう。
悲しそうな表情をしているわけではないけど、かなり動揺しているようだ。
「安心しろ、別に何者であっても俺がリーシャを嫌いになるわけじゃない」
「ほ、本当?」
「ただ少し不公平だって思ってな。リーシャには俺が元は人間で、俺の過去もある程度は話したんだしリーシャのことを俺にも少し話してくれてもいいかなぁって、思ってさ」
「…………僕のことはどこまで聞いたの?」
「霊獣族の中でも希少な種族だって事と体内に二つの魂を宿す戦闘民族だって事ぐらいかな。あとは何かどっかの大陸にある魔境を縄張りにしてる種族だってのも聞いたけど……。その魔境ってのはなんなの?」
「静かで、暗くて、他種族は一切近づけない魔物の巣窟って言われてた……。僕たち冥狼族はその魔境が他種族に侵されないように守護するのが役目で、代々魔境を護っていたの」
「護るって、その魔境には何があるんだよ?」
「知っているのは種族の長とその長の関係者だけなの。ただ、言い伝えだと魔境の更なる奥には現界と魔界を繋ぐ冥府の門があるとかって聞いた事はあったけど……」
「その場所ってどこにあるんだ?」
「遥か北にあるってことぐらしか……。ごめんなさい、僕も詳しい場所の位置とかは分からないの。僕、魔境の外の世界はまったく知らなかったから……」
「だったら何でリーシャは奴隷商何かに捕まってたんだ? そんな危険な魔境に奴隷商が入っていくとは思えないけど」
「僕、一族の中でも出来損ないだったんだ……」
「出来損ない?」
「霊獣族は二つの魂を覚醒出来て初めて一人前と認められるの。そし、魔境の外へ出るのは各段実力ある一人前の冥狼族だけ。まだ実力に足りてない半人前は出ちゃいけない決まりなの。僕はどんなに頑張っても二つ目の魂をずっと覚醒できない出来損ないの半人前。そんな僕は一族の中でも半人前とバカにされて一族内ではずっと独りぼっちだった……。それでも僕は外の世界に憧れて好奇心に魔境の外付近まで出ちゃったの。そこで、僕はあの奴隷商たちに出会った……」
「何で捕まったんだんだ? 冥狼族って強いんだろ」
「口車に乗せられたの。『俺たちと一緒に来れば外の世界をたくさん見せてやるぞ』って言われて……。その時の僕は奴隷なんて制度も知らなかったから外の世界の誘惑に負けて奴隷商に付いてっちゃったの」
「んで不幸にも奴隷になっちゃったのか。リーシャも大変だったんだな」
「それから二年間、僕はずっと奴隷商の ”躾け” と言う名の理不尽な暴力を受けてきた。逆らったり嫌な顔を見せたりすると鞭で叩かれて、ひどい時はストレス発散の砂袋扱いされることもあったよ……。泣かない日なんて無かった、来る日も来る日も泣いて、泣いて、泣いて……。魔境の外に出たことを何度も後悔した。そんなある日、オークションに僕が出される事を知ってその移動するタイミングを見計らって脱走を試みたの。でも結局は見つかっちゃって……」
「んで、逃げてる途中で俺と出会ったってわけか……」
リーシャは目じりに僅かに涙を浮かべていた。
よっぽど苦しかったんだんだろうな。
一族の中でも嫌われてて、いざ憧れの人の世界に出たら奴隷にされて。
ある意味、憧れて夢抱いていた外の世界に裏切られたようなもんだもんな。
「でもさ、リーシャは心が強いよな」
「どういうこと?」
「だってさ、そんな辛い目にあっても自害はしようとしなかったんだろ。俺だったら辛すぎて真っ先に自害を選ぶね。そんな我慢強い心を持ってるんだ、リーシャは半人前なんかじゃないって」
「だけどユウヤにはホント感謝し切れない。あの時ユウヤに出会わなかったら僕はきっとずっと奴隷のままだった。そしてこうやって僕を傍に置いてくれた……」
「そりゃあ約束だからな。交わした約束を破るほど俺は腐ってはないんでね、そこは他の人間と一緒にされたら困る」
「本当にありがとう、ユウヤ……」
「…………どういたしまして」
俺は赤くなった顔を隠すようにそっぽを向く。
そんな嬉しそうな顔でお礼なんて言わないでくれ。
あんま面と向かってお礼なんて言われ慣れてないから恥ずかしいわ。
「でも、リーシャはもう一つの魂をまだ引き出せてないのか?」
「う、うん……。色々努力はしたんだけど……」
冥狼族は二つの魂を宿す、か……。
冥狼族が二つの魂を入れ替えて戦う希少な霊獣族とは聞いた。
そして、今聞いた情報だと二つの魂を覚醒させることで一人前と認められる。
でも、リーシャがその努力を怠っているとは考えられない。
実際、メイドの修行も一生懸命やっているとフィーリアから晩飯の時に聞いた。
物覚えも良くて、与えられた家事なども綺麗にこなす。
これなら正式に城のメイドとして雇えると太鼓判を押してもらえるほど。
少なくとも無能だった俺よりも遥かに有能なリーシャが半人前……?
魂を覚醒させるのは努力や修行以外の何かが必要とか?
もしくは別の何かが原因なのか。
んー、なんか引っかかる。
せめてその覚醒させる魂が今どうなってるのかが分かればいいんだけど。
相手の魂を見るなんてそんなオカルト的なことできるわけ……。
「――――って出来んじゃん!!」
そうだよ、今の俺には『魂神』の能力があるんだった。
もしリーシャの魂に何か問題があれば『魂神』で何とかしてあげられるかも!
「ユ、ユウヤ……? どうしたの?
「リーシャ、一つ提案なんだけど……」
俺はリーシャに一つの提案を持ちかけた。




