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〇第10話『銀髪の魔族』


 どういう状況だよこれ……。


 ようやく魔物の問題が解決したかと思えば今度は何事だ?


 俺の前に現れたのは二人の銀髪美少女。


 一人は黒い軍服を着た幼い美少女。

 コメカミに捩れた太い角を生やし、お尻から細長い尻尾を生やしている。

 肩までの長さがある艶のある銀髪、見た目は完全に小学生。

 だけど何所か凛々しさを感じ整った顔立ちをした美少女だ。


 もう一人は長身の銀髪美少女。

 恰好はメイド、ポニーテールで身長は俺と同じくらいで180センチぐらい。

 軍服の美少女と同じで頭には捩れた太い角とお知りに細長い尻尾。

 綺麗なツリ目でカッコよさを感じる美少女だ。


 しかしあのメイド、なんでリーシャの首にナイフを突きつけてるんだ?

 しかもリーシャの両手を後ろから鷲掴み、リーシャの動きを封じてるし……。


 銀髪美少女二人組。

 この二人の容姿ってまさか……魔族って種族か?


「驚いたな、まさか魔物化した竜鱗族を元に戻してしまうなんて……」

「フィーリア様、油断だけされないよう。まだ相手がどのような人格者か分かりません」

「分かってる、でもこちらから対話しない事には何も分からないだろ」


 一体何の話をしてるんだ……?

 軍服の美少女に美少女のメイド。

 見た感じ主従関係にありそうだけど。

 少し尖った耳に捩れた太い角、捩れた二本角に尻尾。

 彼女たちが魔族なのは間違いない。

 でもそんな美少女魔族二人が俺に何の用だ……?


「そう構えるな、青肌の魔族。我々に敵意はない」


 青肌の魔族というのはこの場だと俺の事だろう。

 ここにいるって事はさっきの(ウェルデ)とのやりとりを見ていたのか。


「敵意はないって……現れて俺の連れにナイフ突き付けてる時点で矛盾してない?」


「やはりこの獣人はお前の連れだったか。すまない、お前という魔族がどういう人格者か分からなくてね、保険を取らせてもらったまでだ」


「保険?」

「我々はお前と話し合いをしたいだけだ、戦うつもりはない。だがお前がもし血も涙もない外道だったらこうでもしないと冷静に話し合いなんてできないだろう」


 つまりは人質を取って言うこと聞かすってことだろ。

 まったく、どっちが外道なんだか……。


「いや、そもそもアンタ等は誰何だよ。いきなり現れて、人質使って脅す知り合いはいない筈だけどな。大体名前も名乗らず素性も明かさない奴をどう信じろっていうんだよ」


「「………………」」


 俺の言葉に二人の魔族は少し驚くような表情を見せる。


「な、なんだよ」

「いや、意外と話が通じると思ってビックリしてな……」

「はぁ? バカにしてるのか」


「そうじゃない、驚いているんだ。あの竜鱗族がまだ子供だったとは言え、魔物化した竜鱗族を単騎で捻じ伏せ、しかもその魔物化を魔道具も魔法も使わず正常な元の状態に戻した。そんな異常な力を持ってる魔族にちゃんと冷静に話が通じることに驚いているだけだ」


 いや、どっからどう聞いてもバカにされてる気がしてならないんだが。


「でもまぁ、確かに名も名乗らないというのは失礼だな。私はフィーリア、『フィーリア・エラ・ダンタリオス』だ。こっちは(わたし)の専属メイドの『メリス』、私の従者だ」


「んで、アンタ達は? 見たところ魔族みたいだけど」

「おや、私は名乗ったというのにお前は名乗らないのか? 相手が名乗れば自分も名乗る、これこそ礼儀というもんじゃないのか」


「……奈良藤勇也」

「ふむ、名前からして東の大陸の出身か? そんな魔族など聞いた事がないが」


 東の大陸? また謎のワードが出てきたな。


「あのさ、意味不明なことばっかり言ってないで用件を言ってくれないか? あとうちのリーシャ(つれ)を放してもらえると有難いんだけど」


「なら単刀直入に言おう。ユウヤ、お前の力このフィーリア・エラダンタリオスに貸して欲しい」


「…………は? 唐突に何を言って――」


「我々はお前のことをずっと探していたんだ。かつて魔族の中でも異形とされ、その異形の力は全種族最強とも恐れられたお前をな」


「全種族最強……? この俺が?」


「色々と苦労したんだぞ。なんせお前の情報はどの歴史の文献も少ししか記載されておらず、私の祖先が残した古い研究書でさえ詳しい情報は書かれていなかったのだからな」


「ちょ、ちょっと待て! アンタもしかして俺が何者なのか知っているのか?」

「知っている? 何を言っているんだ、全てお前自身のことだろ」

「いや、なんと言うか……。俺、自分自身何者なのか分からないんだよ」

「何者か分からない、だと?」


「話すとややこしいんだけど、俺はここ一週間ぐらいの記憶しかなくて今はこの身体(おれ)を知ってる人はいないか探してる最中なんだ」


「つまり、お前自身が記憶喪失で自身が何所の誰なのかわからない、と」

「そういうことだ」

「…………」


 フィーリアは顎に手を当て考え込み始めた。

 冷静に現状を把握してるみたいで、慌てふためいた様子はない。

 俺が元人間というのはまだ伏せていた方がいいだろう。

 説明するにも色々ややこしいし、別の世界の人間なんて言って信じるかもわからないし。


「記憶喪失……。しかしなら研究書に書かれていたあの目撃情報を考えたら納得はいくか、今まで過去に成し遂げていた偉業に全部バラつきがあるのはそういうことだったのか……?」


 ブツブツと独り言を呟くフィーリア。

 どうやら向こうは予想以上に「この身体(おれ)」の情報を握っているらしい。


「ならこうしよう。ユウヤ、私と取り引きをしないか?」

「取り引き?」

「こちらは知っている限りお前の情報を教える。その代わりこちらの事情を聞いたうえで力を貸してくれるかを検討してほしい」


「検討? 強制じゃないのか」

「悪魔でも"検討"だ。力ずくというのはこちらも避けたいところだからな」


 検討か……。


 力を貸して欲しいって言われた時は困惑した。

 けど相手はこの身体の情報を持ってるみたいだ。

 事情を聞くだけならこっちにとって良い情報が聞けるかもしれない。

 なんせこっちはこの世界の情報をほとんど知らない。

 精々、たくさんの異種族がたくさんいるってことを知ってるぐらいだ。

 それ以上の情報が手に入るならこちらもありがたいところだ。

 なら、この取り引きは応じたほうが利口だろう。


「分かった、聞くだけなら――」


「お待ちください、フィーリア様」


 すると俺の言葉を遮るようにメイドが会話に割り込んできた。


「どうしたメリス?」

「私は納得いきません。こんな優柔不断そうな優男に今後のダンタリオス家(われら)の命運を握らせるなど不快に思います」


「なっ――」


「メリス、相手を見た目で判断するのはお前の悪い癖だ。確かに見た目は優男かもしれんが実力はさっきの戦闘を見る限り本物、お前もそれはさっき見ていただろう」


「だとしてもです。それに記憶がないのが本当だとしたら我々の力になれるとは考えにくい。記憶がないならさっきの力を制御できるのも怪しいです。制御できないものを傍に置いても負担(リスク)でしかありません」


「…………ッ」


 美人な見た目とは裏腹にキッツイ言い方するなぁ、あのメイド。

 というか初対面の相手にここまでひどく言われる筋合いはないぞ。大体、向こうが力を貸して欲しいって言ってるのに人にもの頼む態度じゃないだろ。


「そっちの事情は知らないけどさ、初対面相手に失礼じゃないかアンタ」


「なら聞きます。アナタはさっきの力を制御できるって言うんですか? それが出来るならさっきの発言は撤回しましょう」


「それは……。言っただろ、記憶がないって」

「ほら見なさい、さっきの力もどうせ偶然ですよ。力というのは常に制御できないとなんの意味もない。できなければいつ暴走するかもわからない爆弾、役立たずですよ」


 役立たず……。


 過去俺が散々言われた言葉。

 何回も何回も何回も何回も何回も。

 言われ続けて俺は生きていく価値がないと決定付けた言葉だ。

 まさか異世界にまで来てその言葉を吐かれるとは思わなかった。

 人間の時はどんなに言われもただ絶望するだけでそれ以外の感情は湧かなかった。

 でも今はどうしてだろ、初対面の相手に言われ非常に頭に来ている。


「あのさぁ、俺はそっちのフィーリアって魔族と話してんの。アンタは関係ないだろ。それといい加減リーシャを――」


「口を慎みなさい。フィーリア様は高貴なお方、口の利き方も分からない一般魔族風情がフィーリア様を呼び捨てするな」


 ダメだ、これじゃあ話にならない。

 まったく性格悪い美人ってのはマジでタチが悪い。

 それは人間も魔族も変わらないってか。


「あっそ、分かった。なら別にいいよ、こっちも初対面相手に罵倒するメイドがいるやつと取り引きするつもりもないしな」


「メリス! すまないユウヤ、うちのメイドが。だが私は――」

「あとさぁ、いい加減……」


 俺は脚に力をこめ、素早い速さでメイドの目の前まで迫った。


 一秒にも満たずノーモーションの一瞬の移動にメイドは瞳孔が開き、すぐに後退する動きを見せるが動きが遅く見える俺の視界かしたら捉えるのは容易い。


「リーシャのこと放せよ、クソメイドッ!」

「なっ――!?」


 俺はメイドに接近した瞬間、リーシャの首に付きつけられてたナイフを手刀で叩き落とし、リーシャを奪うように抱きかかえる。

 人質を無くしたメリスの腹部に蹴りを繰り出すもメリスは後退して躱す。


「ユウヤごめんなさい、ボク……また迷惑かけて」

「気にすんな、悪いのは向こうだ。リーシャが気にすることは何もねーよ」


 にしても咄嗟に動いてしまったとは言え、やっぱ凄い身体能力だな、この身体。

 単純な腕力だけじゃない、脚のスピードや視力もろもろの各身体能力。

 あまりにも頭にきたもんだからもう強引にリーシャとあのメイドを引き離せないかやってみたけど、こうも上手くやれるとは思わなかった。


 にしても、俺の攻撃が躱された……。

 この世界に来て初めてじゃないか?

 今の蹴りは手を抜いたわけじゃない。もそも手を抜くなんて今はそんな芸当出来ないし、リーシャから引き剝がしたかったからが何の考えもなくガムシャラに放った蹴りだ。

 スピードはあったはず、そんな蹴りをこのメイド初見で躱すなんて……。


「クッ! このッ――舐めたマネをッ――」



「メリス。貴様なにをしている?」



 フィーリアが言葉を発した瞬間、殺気に満ちたどす黒い気配がその場を包み込んだ。

 まるで巨大な化物の口の中でいつ嚙み砕かれてもおかしくないような緊張感と恐怖感。

 しかも四肢に重い鉛でも吊るされているかのような重圧感(プレッシャー)

 これがあの銀髪幼女が出しているとは思えないほどの気配だ。


「フィ、フィーリア様……」


(わたし)は言ったはずだぞ。今回の計画についてはこのユウヤの力が絶対に不可欠だと。我々は助力を願う立場だ、無礼なことは控えるよう言ったはずだが?」


「分かっています。ですがあの者はフィーリア様に対して口の利き方が――」


「メ・リ・ス?」


 さらに気配を強めるフィーリア。ビリビリと感じるフィーリアの怒り。

 もうここまで強まると常人なら正気ではいられないだろう。

 人間の俺だったら間違いなくチビるだろうなぁ……。

 この身体だから平然と耐えられるけど実際はかなりヤバイ。

 その証拠に仕えてるメリスでさえ、尋常じゃない冷や汗を流してるし。


「し、失礼しました……」

「まったく、見た目で判断するその癖、いい加減治せと言ってるだろう」


 メリスが謝罪をするとフィーリアのどす黒い気配は消え、元の雰囲気に戻る。

 やれやれとため息をつき、苦笑いを浮かべるフィーリア。さっきの気配が嘘のようだ。


「すまなかったな、メリスがかなり失礼をしたみたいで」

「いや、まぁ……でもどうして俺なんかをそこまで……」


 するとフィーリアは無言で頭を下げてきた。


「力を貸してくれることに強制はしない、ダンタリオス家の名において約束する。だから(わたし)の話だけでも聞いて欲しいんだ、これは我々一族の今後にも関わってくることなんだ」


 メイドのさっきの態度は頭に来たけど、フィーリアって魔族の印象は好印象だ。

 最初は馬鹿にされている節も感じたけど、頭を下げた謝罪に俺は深い誠意を感じた。

 一体、彼女が俺に何を期待してるのかわからない。

 それも期待を知るためにも、どうして俺の力を必要としているのか。

 その辺を知るためにもこの取り引きは応じたほうが利口だろう。


「わかった、取り引きは応じる。色々ややこしくしたのはそこのクソメイドだしな」

「――――ッ」


 ふん、睨んでも怖くないっつーの。

 いくら魔族で美少女だからってなんでも許されると思うなよクソが。

 心の中で舌を出し煽っておく。


「助かるよ。これで我々は今後の未来に希望が持てる」


「でもさ、少し大げさすぎないか? さっきも言ったけど俺は自分自身何者なのか分からない。そんな記憶喪失の奴が役に立てるとは到底思えないんだけど」


「そんなことはない。さっきも言ったが我々は数年前からずっとお前を探していたんだ。魔族の中でも異形な存在。その異形が我々の今後の未来にどうしても必要なんだ」


「異形な存在……?」

「とにかく此所で話すのもなんだ、場所を移動しよう。その獣人も一緒にな」

「移動って街までまた戻るのか?」


「こんな重要な話をあんな大衆のいる(ばしょ)でする筈ないだろう。ひとまずは私が治める()()まで移動しよう。そこでじっくりとお前の話も聞いてやる」

 

 ()()

 そのフィーリアが右手を前方に差し出し、手の平を翳すと地面に二つの魔法陣が現れた。

 魔法陣が光りを放ち始めると、その光の中から現れたのは幻想物語(ファンタジー)でお馴染みの幻獣鳥獣(グリフォン)が座り込んでいた。


「お、おぉおおおおお!!」


 (ドラゴン)に続いて二匹目の幻獣!

 大きな翼を生やした灰色のかっこいい鳥獣(グリフォン)だ。しかも二匹!


「獅子の前足に鳥の下半身、マジかよ本物だ……」


 獅子の上半身に鋭い鉤爪を備えた鳥の下半身、猛々しい鷲の頭。

 そして人間の数人は覆い隠せそうな大きな翼。


 着ぐるみ、なわけないよな……。背中を撫でると鼓動が伝わってくる。

 (ドラゴン)と同じ幻獣の代表格とも言える鳥獣(グリフォン)が目の前にいる。

 まさかドラゴンに続き鳥獣(グリフォン)まで拝めるなんて思わなかったな。

 あれ、にしてもこの鳥獣(グリフォン)背中に鞍がついてる。

 まさか……。


「なぁ、この鳥獣(グリフォン)って……まさか乗れるのか?」

「騎乗用だからな。そんな珍しいものでもないだろ、とっとと乗れ」

「……!(グッ)」


 俺は盛大にガッツポーズをして打ち震えた。

 鳥獣(グリフォン)乗れる? 幻獣に乗るなんてファンタジー作品に憧れる奴なら誰でも一度は夢見るシチュエーションをこんな俺が実現させちゃっていいのか?

 モフモフ動物の愛好家に妬まれそうなシチュエーションだな。


「ん? でもこの鳥獣(グリフォン)で何所に行くんだ?」

「だから言っただろ、今から私の領地に行く、と」


 ひとまず言われた通り鳥獣(グリフォン)に跨る。

 その後ろにリーシャを乗せて俺の腰にしがみ付かせる。

 残りの一匹にメリスとフィーリアが跨り、鳥獣(グリフォン)の嘴からぶら下がる手綱を握る。


「よし、では行くぞ!」


 俺たちを乗せた鳥獣(グリフォン)は空に羽ばたき、フィーリアの領地へと目指した。


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