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〇序幕『無能な魂』


「はぁ…………」


 12月25日、聖夜(クリスマス)当日。


 俺、奈良藤勇也ならふじゆうやは高層ビルの屋上で一人ポツンと街の景色を眺めていた。

 街はイルミネーションとお店の明りで彩られ、聖夜(クリスマス)の雰囲気で人込みがガヤガヤと賑わっている。微かにだけど聖夜楽曲(クリスマスソング)も聞こえてくる。


「もうどうでもよくなってきたなぁ、色々と……」


 もう何度目だろ? 働く職場をクビになったのは……

 クビになる理由はいつも決まって同じ。

 俺が何も出来ない役立たずの "無能" だからだ。

 小さい頃から何をやってもダメダメで「役立たず」「無能」と罵られてきた。

 それは社会に出ても変わらない。

 どの職場でも役立たずや無能と罵倒されて半年も持たないまま解雇(クビ)にされる。

 いわゆる「社会不適合者」というやつだ。

 おまけに父親はギャンブル狂で母親はインチキ宗教にハマり。

 そのせいで家庭は多大な借金を抱え10日に1回は借金取りが自宅に押し寄せてくる。

 必死に稼いだ金はすぐに父親のギャンブルと母親の宗教グッズに消え、職もすぐ失うから明日のご飯を考えるのも一苦労。


「はぁぁぁ~………………」


 街の景色をボーッと眺めたあと、パーカーのポケットを漁り一枚の手紙を取り出す。

 それは俺の今までの気持ちを書いた手紙。

 そして俺がいかに今のこの世界に絶望していたかを綴った負のこもった手紙。



 いわゆる『遺書(いしょ)』と呼ばれる手紙だ。



「やっぱこれはいらないかなぁ。こんなの残したとこで痛い奴だって思われるだけだし……」


 遺書をビリビリと細かく破り、夜風に乗せて遺書を捨てた。

 この手紙を読んで両親が改心するとは思えない。

 それに第三者が読んだ所でただ単に痛い奴だと思われるのがオチだ。

 俺の気持ちを理解してくれる奴なんてこの世にはいないわけだし。


「さってと、いつまでもボーッとしてても仕方ないし、そろそろ行きますかねっと」


 手摺(てすり)を跨ぎ、落ちないように外側から手摺を掴みながら下を覗いて見る。

 その光景はまさに絶壁。下の景色が小型模型(ミニチュア)に見える。

 確かこのビルの高さは30mだったか。正直ビビるわこんなん。


「うわ、(たっか)……」


 落ちたら即死レベルの高さに足が震え息を深く飲む。

 でもこの高さなら確実に死ねる。

 目の前にある確実な "死" に俺は深く深呼吸して胸の鼓動を落ち着かせる。


「すぅー……はぁー…………」



 今日、俺はここで自殺する。


 正直もう色々とどうでもよくなった。

 努力することも、頑張ることも、生きることも。

 もう何もかもがどうでもいい。

 今の世界において無能な俺の居場所なんてどこにもない。

 恋人どころか友達も知人もいない、いるのは人間として最低のクズ両親だけ。

 そしてついには無一文にもなってしまった。

 今日のお昼ごろ、自宅に借金取りが押し寄せ、


『金がない親父の代わりに息子のお前が金払え!』


 と、言われ現金が入っていた俺の財布と貯金箱を持ってかれてしまったのだ。

 現状1円も金がない。つまりご飯が食べれない。

 さらにバカみたいに値上がりする国の税金や年金も払えない。

 ただでさえ物価の値上がりもひどいのに、全財産どころか所持金も(ゼロ)だ。

 もう詰んだ。人生そのものが。

 全財産も失い、生きていく道も閉ざされた。

 これはもう実質神様に『野垂れ死ね』と宣告されたようなもの。

 そう思うと悲しみと虚無感がこみ上げ、目から涙がこぼれる。


「グスッ……。冗談じゃねぇよホントによぉ……」


 だけど、何もできない自分の役立たずな無能さにも悔しさがあった。


 罵られる原因自体は俺の無能さにあるし、他人のせいとか、俺を生んだ両親のせいとか、神様のせいとか、そんな責任転換するつもりもない。


 悪いのは全部自分自身というのは俺が一番良く分かってる。


 頭も悪い、運動もできない、コミュ障でオタク。


 こんな人間がそもそも社会に適合するってのが無理な話なんだ。

 だからこそこんな役立たずで無能な自分にも嫌気がさしてくる。

 そして気づいてしまった。


 自分はこの世界で生きていく価値も居場所もないということに。


「ズズッ……。よし……」


 鼻をすすり、再びビルの下を見下ろす。

 もう思い残すこともないし未練もない。


 その虚無感と強烈な悲愴に身を委ね、俺は落ちないように捕まっていた手摺を離した。


「――――ッ」


 身体はゆっくりと斜めに傾き、俺の足は完全にビルから離れた。

 落ちる速度は加速していく。もう手すりは掴めない。

 みるみると迫ってくる地面、でももうどんなに怖がっても後戻りはできない。

 みるみる近づく地面に恐怖を感じ身体が強張り、目を強く瞑る。

 地面に激突したら、どれくらいの痛みなんだろうか?

 死後の世界ってものは存在するのか?

 死んだら天国と地獄、俺はどっちに連れていかれ――


 ゴシャッッッッ!!


 痛々しい音と同時に身体中に激痛が走る。

 視界が横たわり、景色が赤い鮮血に染まっていく。

 悲鳴にならない激痛が身体中を駆け、すぐに身体中の感覚が無くなっていく。

 

「がっ――ぐ――…………」


 激痛のあまり悲鳴すらも上げられなかった。

 意識は無くなっていき、俺は考えることをやめた。


 これで全てが終わった。


 もうこれ以上、俺は苦しい思いをする必要はない。


 無能と罵られることもなくなるんだ……。


 もう苦しむことも無くなるこれからに俺は心の底から安堵した。

 そして、意識を死に委ねて視界を閉じた。


ご観覧ありがとうございました。


今回、小説自体が初めての作品になりますので文章の違和感や誤字脱字等、ありましたら指摘のほどよろしくお願いします。

また、高評価や文章改善のアドバイス等いただけたら喜びます。

更新頻度は今のところ未定ですが、早め早めに更新していければと思ってますので今後もお楽しみに!

それではここまで愛読、ありがとうございます!!

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