人形
いい子、いい子。
大切に、大切に。
何かあってはいけない。何にも傷つけられないように。傷つかないように。大切に。大切に。
あれはしてはだめ。こうしなさい。これがいいの。
丁寧に導かなくてはならない。間違いが起こらないように丁寧に。丁寧に。大切に。
それを受けているほうの思うことは、色が違う。
何もしない父を忘れるために、子供を愛する。
愛するふりをしているのだろうか。
それは、人形を愛でる少女のようで、ただ理想のなかにとじ込もっている。子が言うことを聞かなければ、かんしゃくを起こし、間違っていると一方的に突き放す。子の話を聞こうとはしない。言い分があると思ってすらいない。事情があることを鑑みもしない。
自分の何を見ているのだろう。
好きな子ができたときなんか、からかうばかりで、傷ついた。
二度と言うまい。この人には、人間関係の相談を二度とすまい。
からかって、自分が楽しんで、自分の楽しみのために、人形劇をながめているつもりなのだろうか。
学校の課題が終わらないと、必ず手を出してきた。
終わらないと恥ずかしいから。
それは、あなたの話だろう。
僕は終わらせないでいったことがないから、恥ずかしいとも思わない。それに、自分なりに精一杯やったのだ。完成こそしなかったものの、できるかぎりのことをやった上で、未完成で持っていくことを決めたのに。
ぼくの決めたことは、無意味なのだろうか。
誰の目に触れる前に、家のなかで始末がつけられる。
ぼくのしたことが、人の目に触れない
こんな寂しいことがあるだろうか。
せっかく、多くの人と関わっているのに、自分を見せることができないなんて。
閉じ込めておきたいのだろうか。
そんなふうに思える。
思いどおりの家族なんてあるわけがない。
自分の理想のなかに家族はいない。
現実にいる人間の、実際の感情を大事にしなくて、何を大事にするのだろうか。
自分の理想ばかり重ねるのなら、それは人形遊びと同じだ。