佐々木さんはバナナが食べられない
「う……」
噛めば噛むほど歯に絡みつくようにバナナの果肉がぐちゃぐちゃな固体と液体の中間の状態になって実に不愉快だ。
それに加えて、甘ったるい味と独特の風味が気持ち悪さを加速させる。口の中に残った嘔吐物のような不快な感触が口の中いっぱいに伝わってくる。
「う……ダメだ……」
佐々木はキッチンの流しまで走って口の中のぐちゃぐちゃな流体を吐き出し、口の中をゆすぐ。もうだめだ、耐えられない。
佐々木は40代になり本格的にダイエットしないとまずいとなって、妻から自分も成果が出たという朝食をバナナに置き換えるダイエットを始めようとしていたのだが、彼はどうしてもバナナが受け入れられなかった。
「じゃあこれならどう? バナナスムージーって言うんだけど」
「バナナスムージー?」
バナナスムージー。ヨーグルトと牛乳、それにバナナをミキサーにかけたドリンクだ。佐々木は飲んでみるが……
「うう……食感はまだマシな方だけど風味がなぁ……」
あのぐちゃぐちゃした食感が無いだけだいぶマシではある。とはいえ独特の甘みと風味はしっかりと残るため、好き好んで飲もうとは思えなかった。
栄養素の事しか考えてない健康食品のように飲むのが苦痛な飲み物だ。
「これを毎日朝から飲むのか……気が滅入るなぁ」
「毎日飲んでればそのうち好きになるかもしれないから頑張ってちょうだい。それにしてもバナナが苦手だなんてねぇ……今になるまで教えてくれなかったなんてねぇ?」
「しょうがないだろ。小さい頃からグチャグチャしたあの感触がどうしてもダメだったんだ。子供の頃は風邪ひいたときにバナナを無理やり食わされて最悪だったんだぜ?」
佐々木はバナナがとても苦手だったが、米やパンのように毎日食べる物は無かったので避け続けることは出来た。このままバナナと関わりの無い人生を歩めると思った時にこれだ。
佐々木のダイエットは前途多難だ。