第3章 黄昏刻に潜むモノ
僕が初めて〝ソレ〟と出くわしたのは、六歳の時だったと思う。
ようやく〝見鬼の才〟が芽吹き、薄ぼんやりとだが異形のモノどもを認識できるようになった時期。
そして同時に、一日が――二十四時間でないと初めて気づいた瞬間だった。
空が燃えるような黄昏色に覆われた空間。
人の気配が消えた街。
なのに、空気に混じるのは濃い鉄錆の臭い。
怪我はない。なのに胸が酷く痛んだ。
「ここ、どこ……? 父さまや母さまは?」
助けを呼ぶように、両親を呼ぶ。
けれど、応える声はない。
ただ静寂だけが耳に届く。
ただ無音だけが不安を煽る。
――いたい……。
不意に、静寂を切り裂いて、響いた音があった。
痛い、いたい、イタイ、イタい……!
憎い、にくい、ニクイ、ニクい……!
それは、望んでいない言葉。
それは、聴いたことのない怨嗟の音。
思わず耳を塞ぎたくなるような、ノイズ混じりの音。
その〝音〟ならざる〝音〟に、応えてはいけないと直感的に感じた。
「ひ……っ!」
なのに、引き攣った喉から漏れ出たのは悲鳴。
抑えようのない恐怖心から、思わず声が零れ落ちた。
刹那、朧気だった気配がゾロリと色濃くなるのを感じた。
(逃げないと……!)
本能的にそう感じた。
得体の知れない〝アレら〟に掴まったら最期、家族には二度と会えなくなるのだと理解した。
走る、はしる、ハシル――。
黄昏色の街の中を、ジグザグに、無我夢中で走る。
「……っ!」
為す術なく逃げ惑うことしかできなかった。
助けを求めても、誰一人いない。
暗い道を、微かな灯火を頼りに進む。
けれどその後を追うように、逃げ道を塞ぐようにして影は後ろを追ってきた。
「だ、れか……」
か細い声が、喉の奥から零れ落ちる。
「誰か、助けて……!」
そこで――目が醒めた。