第10章 それぞれの在り方
世界が燃えている。
黄昏色に、昏く深く、燃えていた。
鉄錆の空気に混じって鈍く光るその街は、冷たくて寂しくて切なかった。
「僕、は……」
知っている、その街のことを。
識っていた、その世界のことを。
それは遠い遙か昔の記憶。鉄錆と黄昏に彩られた憎しみの心象具現。
それが、僕の記憶している〝禁域〟の姿だった。
「帰りたく、ないな……」
それは、ずっと心の底に埋もれている思い。
帰れば叱られる。両親に、使用人に、世界のすべてから拒絶をされる。
そんな場所になんて、いたくない。
そんな場所になんて、帰りたくない。
そんな場所なんて――――無くなってしまえばいい。
暗鬱とした感情が心を黒く染め上げる。
「そうだ。そうだよ……無くしてしまえばいい。喰らってしまえばいい」
僕を拒絶する世界なんて、僕のほうから見限ればいい。
拒絶される前に、拒絶するべきだ。
そんな感情がふつふつと湧き起こる。嗚呼――だから……。
『僕は、隠し神に成れたんだ』
生まれたばかりの幼い隠し神。その写し身はとある子供の姿をしていた。
禁域で、泣いてばかりいた一人の子供。
いつもいつもいつもいつも〝ある人〟が助けに来てくれるのを待っていた。
泣きじゃくるその姿は、心は、水墨のようにグチャグチャ。
怨み辛み嫉み妬みのすべてが心を侵していた。
『僕は一人だ……』
子供は言う。誰にも愛されていないのだと。
子供は言う。ずっと〝此処〟にいたいと。
けれどそれを〝ある人〟はいつも迎えに来ては、諭し、一緒に帰って行った。
――羨ましい……。
そんな二人の姿を見て、羨み妬ましいと思う気持ちが芽生えるのに、そう遅くはなかった。
〝ある人〟は力が強かった。それは一目見て分かった。きっと今の〝僕〟ではすぐに消されてしまう。それは、嫌だった。
『あの人を最初に喰べてしまおう』
だから、時間を費やすことにした。
用意は周到に、子供も利用しようと思った。
だって、強くて優しい〝あの人〟は、きっとあの子供のことを護ると思ったから――。
そうして、結果は思惑どおり。夢は現実に。現実は夢に。
強い身体を手に入れた〝僕〟は、心赴くままに行動した。
『たくさん、たくさん消してしまおう』
ニタリと昏い影が一人嗤う。
『喰べて無くしてしまえば、僕がいちばん強いよね?』
劣等感に苛まれることもない。
悔しさに打ちひしがれることもない。
力が世界のすべてなら、そのすべてを奪って自分のモノにしてしまえばいい。
血肉のすべてを。神力のすべてを。呪力のすべてを。在るべきものを亡きものに――。
『……さあ、行こう。……兄様』
それは遠い遙か昔の記憶。
〝隠し神〟と〝僕〟とを繋ぐ呪われた記憶。




