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東京Re-survive  作者: 櫻木 いづる
終章 彼方からの文
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第9章 神降ろし6

 互いに異変を感じた時、既にそれは始まっていた。

「愛宕……っ」

「禍津姫!」

 こうの弟を別室の寝台で休ませ、『神降ろし』について話をしていた束の間のことだ。

 そのわずかな時間で〝禁域〟内に異変が起きた。

 渦巻く血臭と、人成らざるモノの気配。

 それだけで何が起きたのか、嫌な予感に呟いた。

「まさかあの野郎か?」

「こうの弟は……? 儀式についてはまだ話していないのでしょう」

「ああ。けど……まさか!」

 それは、一番在ってはならないことだった。

 禍津姫の配下の者の中でも〝隠し神〟の力を我が物にせんと画策するモノがいる。

 力を欲し、得たいと望む気持ちは理解できなくはない。

 だが思想が、行動が、自分とは到底相容れない域にあった。

(強行派の奴等が、弟になんかしやがったか……っ)

 それで〝隠し神〟の――こうの怒りを買ったのだろうか。

「チッ、クソが……!」

 そこまで思考を巡らせながら、禍津姫を抱き上げると気配がよりいっそう濃い場所へと駆け出す。

 禍々しい気配の中心地。強い血臭と澱みの壁を退禍刀で斬り捨てて進んだ先に――その光景は広がっていた。

「これは……」

 禍津姫が絶句する。

 それもそうだろう。五つの首無し屍体を目の当たりにすれば当然の反応だ。

 だがそれよりも、俺は目の前に繰り広げられている剣舞の光景から目が離せなかった。

 一人は少年。幼くも両刀に握られた退禍刀からは深紅の煌めきと同時に技を繰り出している。

 一方で見知った男は涼しい表情でそれを受け止めては、漆黒の刃で二刀の剣戟を防いでは弾き返し、時には斬りかかっていた。

 それは〝隠し神〟の力ではなく、純粋に刀と刀、力と力のぶつかり合い。

 互いの生命を刈り取らんとする、容赦のない猛攻だった。

「……っ」

 思わず背筋に寒気が奔る。だが、それは武者震いに他ならない。

 一介の剣士として、その争いに混ざりたいとすら思う。

 だが同時にそんな不粋なことはしてはならないと本能が叱責した。

「あああああ……!」

 感情に任せ、力を振るう幼い退禍師。

「破ッ……!」

 一方で容易く攻撃を斬り返す手練れの退禍師。

〝隠し神〟――いや、れんの兄である日暮こうはその口許に笑みを浮かべ弟の一挙手一投足を見抜いては容易く斬り返していた。その力の差は歴然だ。

 だが、弟は諦めることなく四肢に切り傷を負いながらも兄に食らい付く。

 決着は瞬く間に終わるかと思っていた……だが、死合いは更に激しさを増した。

 それこそ俺や禍津姫すら眼中になく、割り込むであろう全てを拒絶するかのような攻撃だった。

 剣戟はまるで二人の会話のようだと思った。

 受けては返し、受け流しては斬り返す。舞士道と偽士道の技術が混ざったそれらを二人は巧みに駆使しては打ち消し合う。決して互角とは言えない状況――なのに、二人はまるで争い合うことが初めからの目的であったかのように愉しんでいた。


『破……ッ!』


 弟の上段からの攻撃。それに対して兄は下段から思い切り刀を振り抜いた。

 ガキンッ、という金属どうしがぶつかり合う重い音が共鳴した瞬間、周囲に発せられた衝撃波から咄嗟に禍津姫を隠し庇う。ビリビリとした振動が空気を、鼓膜を奮わせてくる。

「……な……ンて、馬鹿力だ」

 思わずそんな呟きをこぼした刹那、弟の手から退禍刀が弾き飛んだ。

 弧を描きながら飛んだ刀はそのまま離れた壁に突き刺さると同時に、衝撃波も鳴りを収めた。

「……っ、う……」

「……!」

 力も魂すらも消耗しきったのかその場に崩れ落ちる弟。

 それを優しく抱き留める者がいた。――兄のこうだった。

「……力は誰かを護るためだけじゃない。自分自身のために振るっていいものだ。お前が憎しみや怨みを糧に力とするなら、それも良い。それがお前の力だよ」

 それは否定ではなく、肯定の言葉。

 弟への労いの言葉だった。

〝隠し神〟となって以来、ずっと弟の負の感情を一心しその身に浴びていたであろう兄。

 だが、その言葉は優しかった。誰よりも、何よりも。

「誰かに決められた路は楽だろう。だが、それを拒むというのなら覚悟をして歩みなさい。私が誰かを護ろうと決め、自分自身の願いを、夢を断って生きていたように」

 それは兄から弟への助言だった。

「だから、れんが決めたように……私も自分に対して嘘をつくことをやめることにしよう」

 不意に兄――こうが俺達のほうへと視線を向けた。

 それは、もう近づいても大丈夫だと暗に告げているようだった。

「……。決着はついたのか? オニーチャンよォ」

「嗚呼」

 やんわりと頷く。

 ずっと捜し求めていた人物――日暮こうは穏やかな笑顔を浮かべていた。

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