第9章 神降ろし5
「フフッ、疑念は残る……か」
その時、兄の笑い声が聞こえた。
兄のほうへ視線を向けると、身体に纏わり付いている墨のような靄はユラリユラリと漂い反応している。それはまるで、僕の感情を正直に伝えているようだった。
幾ら言葉を重ねても、嘘の上塗りにしかならないよ、と兄の瞳が物語っていた。
シャラン……。
その時、互いの思考を切り離すかのように一つの音が鳴った。
気づけば、此処に四肢の千切れた雑面の四人が兄を取り囲んでいた。
『堕ちよ、降れ、朽ちよ、繰たれ、常夜の辻のもとに』
それは、先ほどとは異なる呪い語。
けれどずっと強力なモノだと直感的に理解する。
〝隠し神〟をどうしたいのか。目的について問いかけるよりも迅く、兄の手に握られていた退禍刀が円を描くように振り抜かれた。
「その程度の呪いじゃ、私を縛ることは叶わないよ」
言い終わるよりも早くゴロリと落ちた四つの首――そして鮮血が噴水のように吹き出し残された胴体が崩れ落ちた。
誰のモノかさえ解らない血に濡れた刀身を今度は僕に向けて兄――〝隠し神〟は囁く。
「こんな奴等なんかより――」
兄は平然と言葉を続ける。
「――私はお前と死合いたいよ」
「……!」
「どれだけ強くなったのか。何を学んだのか。何を決め、断ってきたか」
「決めて、断ってきたか……?」
「そうだ。断つことを決めてきた筈だ。お前は何を決めて此処まで来た」
「僕は……」
「私を見つけることだけが、お前の人生の全てか?」
「……。違う」
今、ようやく気づいた。
兄を見つけたいと思う気持ちは本心だ。
でも、それよりも今こうして逢えた瞬間、抱いてしまった感情は止まらない。
「僕は……認めて貰いたいだけだ……」
僕という存在を。
僕という怨み辛みの在り方を。
歪んでいて、欺瞞でいても構わない。
それが僕自身なのだから。
「僕の本心を、人生を、生き方を――」
他人を羨み、憎しみ、諦めるだけじゃない。
逃げ出すだけの人生じゃない。
家族や血筋に縛られるだけの生き方じゃない。
そんな束縛という名の鎖全てをかなぐり捨てて歩み続けたいと思った。
憧れと劣等感に縛られたかつての僕ではなく、きちんと自分自身と向き合った僕と――。
「だから僕は、誰かに決められた人生を断って生きていきたい……!」
宣誓の言葉。
それを胸の内から吐き出した刹那、パキリと硝子が割れるような音が響いた。




