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東京Re-survive  作者: 櫻木 いづる
終章 彼方からの文
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第9章 神降ろし3


「もしかして……こう兄様……?」

「久しいね。れん」


 抑揚のない声で紡がれる名前。

 そして眼差しが交差すると、そこには闇よりも昏い色が宿っていた。

「単純な呪い還しだ。だから――まだ足りない」

 兄の掌が、まだ息をしている数人の雑面のもとへと向けられる。

 その瞬間、ゾワリと肌を這いずり回すような悪寒が駆け巡った。

「こう兄様、駄目だ!」

「れん?」

 咄嗟に兄の腕を掴むと僕自身のほうへと向ける。

 すると周囲には漆黒の刃が幾つも生み出され僕のほうへと切っ先を向けていた。

「……どういうつもりだい?」

「あの人達に呪いが還ったのなら、報いは受けた筈です。これ以上傷つける必要は――」

「――あるよ」

 即答する兄の言葉に、頭から冷水を掛けられた時のようなおぞましさを感じる。

「私を喚び出す……ただそれだけのために、れんを儀式に巻き込んだ。これが、彼女と平夜の考えなのか此奴らの独断のものなのかは聞き出す必要はあるけれど」

「……そ、それは」

 一寸前までの出来事を思い出す。

 儀式の詳細については後ほど話すと言っていた平夜さん。

 そして禍津姫と呼ばれていた少女の姿は周囲にはいない。

 祭壇らしきものが用意されたその場所は、禁域の中でも明らかに異様な光景だった。

「だから、此奴らには相応の報いを受けさせないと、ね」

「こう、兄様……」

 今まで聞いたことのない冷たい言葉に身体の芯から震えが起きる。

 それが〝隠し神〟としての言葉なのか、兄の本心からの言葉なのか判断が掴みあぐねる。けれど、だからといって退くつもりは毛頭なかった。

「それでも、貴方の考え方は理解できません。こう兄様」

「……れん」

「たとえ、僕を儀式の供物にしようとしたのだとしても……簡単に人の生命を奪っていい理由にはならない筈です」

「……れんは、ずっと痛みを抱えてきた筈だ。両親や使用人からされてきたことを、他の人間から受けた屈辱を忘れたわけではないだろう?」

「それは……」

 兄から告げられる言葉に、胸が痛む。

 きっと兄は判っているのだろう。

 僕が両親や使用人達に対してどう思っていたのか。

 他人に対してどれだけの劣等感を抱いていたのか。

 優しい兄のようになりたいと、そう願い目標としていたからこそ、兄からの言葉は重かった。

「親に言われたから、れんは私のことを捜していたのか?」

「それは違います!」

 即答する。

「こう兄様が、貴方がいなくなってから僕はずっと捜してた」

「…………」

「でも――僕が思い出さないよう、『封印具』としてリツと契約させたのは他でもない貴方だった」

「…………」

「僕の力を抑えるために、僕が僕らしく生きていけるように……」

「…………」

 否定の言葉は、なかった。

 やはり、と確信した。

 兄は僕の代わりに、隠し神として成り代わった。

 それと同時に、僕の力を封じたのだ。

〝禁域〟に行き来し、この世成らざるモノ達の声に耳を傾けやすい僕の身を護るために。

「本来なら、僕が〝隠し神〟となるべきだった。だけど、こう兄様……貴方がそれを止めてくれた」

 自らを引き換えに、と事実を言葉にしていく度に、胸が痛んだ。

 自らを犠牲にしてまで、僕を護ってくれた優しい兄。

 そんな兄から聞きたくない言葉だった。

(せめて、残りの四人だけでも助けないと……)

「銘は幽冥、名は冥血――魄冥! 今、汝の力を此処に解放せん!」

「……!」

 虚ろだった兄の表情に、驚愕の色が滲む。

 けれどゆっくりとその表情は安堵にも似た微笑みへと変化していった。

「〝隠し神〟である私と戦うつもりかい? れん」

「……はい」

「その愚か者どもを助ける為だけに」

 愚か者、そう言い指さすのは呪い還しを受けまだ息のある四人の男達だ。

 クスリと兄は昔の時とは別種の笑みを浮かべると、片手に携えていた退禍刀――冥染の切っ先を此方へと向けた。

「なら……どうするべきか分かっているね」

「はい……」

(本当はこんな形で出逢いたくなかった。昔のような兄様の姿で在って欲しかった……)

 でも、〝隠し神〟となった今の状況をどうするべきかなんて、分からない。

 引き剥がす方法も、打破する方法も不明確なことが多すぎる。

 だから、今の自分自身にとって出来ることをするまでだ。

 呼吸を一つ。

 冥血と魂冥に意識を注ぐ。

 ザワリと胸の内に炎が滾る。

 明確に〝争う意志〟を一対の刀に込めると、反響するかのように刀の芯から響くモノがある。

 それは、冥血――魄冥の両刀が喜んでいるように感じられた。

 僕が意志を宿すことを。

 僕が争いを求めることを。

 僕が感情を爆発させることを。

(護れるものなら……手が届く場所にあるなら護りたい)

「――行きます」

 それが、戦闘開始の合図となった。

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