第8章 隠し神3
「……そういえば、貴方に憑いている〝ソレ〟はいったい何なの? ただの式神ではないでしょう」
不意に禍津姫が口を開く。
「一見猫のような姿をしているけれど……普通じゃないわ」
そして何を言うかと思えば僕のことではなく、僕の影の中にいるリツについて言及してきた。
「猫……? ンなのが憑いているのか? このガキの中に?」
「もしかして……リツのこと、ですか?」
チラリと自分の足下に視線を移す。
加えて平夜さんの言葉から、夏生や秋葉さん同様に視えていないのだと判った。
けれど禍津姫は違う。はっきりとリツがいる僕の足下に目線を向けていた。
「リツは……僕の友達です。小さな時から一緒にいてくれた、大切な友達です」
「友達? こうの弟、それは本気で言っているの?」
「……どういう、意味ですか?」
禍津姫の声は、淡々としている。
ただその言葉にはわずかに困惑の色が滲んでいた。
「見たところ封印具のようなものかしら。貴方のことを……呪いで縛っている」
「え……」
呪いで縛っている――まるで死の宣告を告げるようなその言葉に、不可視の心臓にギリッと一本の爪痕が奔る。そしてそれは、キリキリとゆっくり何本もの線へと変化してゆく。
【其奴の言葉に耳を貸すな、れん】
リツの言葉が脳裏に響く。
同時に、禍津姫が発した封印という言葉も反響する。
(封印……呪いで、縛っている)
いつから、誰を、なんのために――。
いったい何を封印している――この〝リツ〟という名の偉い神様は。
そして何処で出逢った。どうやって、出逢った。
疑問という泡が次々と浮かんでは消えることなく心を頭の中を埋め尽くしてゆく。そして、
「封印具……」
自らその単語を発した瞬間、ガシャンと封じられていた枷が外れた。
「……ッ!」
【れん……】
幾度となく、夢に見た。
黄昏色の世界。怨嗟の声。そして――黒くて追い掛けて来る〝ナニか〟。
記憶の点と点、線と線が繋がり、形となっていく。
「どうした……?」
平夜さんが顔を覗き込んでくる。
けれどその顔も滲み掻き消え、声も遠くに聞こえてくる。
【……思い出してしまったか……】
ズキンと頭の奥に、重いリツの声が響く。
それは、わずかに憐憫を含んでいた。
喉奥がカラカラに渇く。心臓が、早鐘を打つ。
そうだ……どうして思い出せなかったのだろう。
今の今まで、黄昏刻の夢を見ていながら。
最後に兄の姿を目撃したのが、いったい誰なのか、を――。
(リツ……リツ……)
【……教えてやろう】
それは、冷たい宣告だった。
【お前さんの〝代わり〟に、彼奴が〝隠し神〟になったんじゃ】




