第6章 黄昏刻の邂逅8
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一歩、白い繭籠から出ると、目の前には黄昏色の世界が拡がっていた。
燃えるような、熱い色。
でも何処か儚くもあるその世界が、いつしか俺にとってすべてだった。
強く在ろうともがいた日。
強く在りたいと決めた日。
そのどちらもを祝福して迎えてくれたのが、この黄昏色の世界だった。
外の世界はすべてがマヤカシだ。
口では助け合いを促し、甘く温い協調性ばかりを求めてくる。
真に強く在りたいと思う者を邪魔者扱いし、淘汰しようとする。
そんな、排他的な世界はいらない。
そんな、不平等な世界はいらない。
必要なものは己の力――刀一本さえあればいいと常に思っていた。
そう、ある男と出会い――負けるまでは……。
一見するとその男は、昼行灯のようだと思った。
特段ガタイが良いわけでもない。
特段剣術に秀でているわけでもない。
なのに、勝てなかった。
何度挑んでも、勝つことができなかった。
「…………ッ!」
初めて敗北した瞬間を思い出すだけで、腸が煮えくり返りそうになる。
何故ならその男は、俺を負かしただけに飽き足らず、妙な信頼を寄せてくるのだから尚のこと性質が悪かった。
「愛宕、彼女のこと……宜しく頼む」
そう、だ。
謂わば繭籠の中にいる女のこともそうだ。
一方的に信頼を寄せ――俺の力を認めた上で頼んできたのだ。
それが不快である筈なのに、密かに、ほんのわずかだが嬉しくさえ思ってしまった自分がいた。
――それがまた、赦せなかった。
最強は、ただ俺一人でいい。そう思っていた筈なのに……。
「チッ……胸クソが悪いぜ……」
黄昏色の粗悪な道を歩きながら吐き捨てる。
「見回りばかりじゃ退屈だ……腕が鈍っちまうぜ」
そう――求めるのは、ただ強者のみ。
もう二度とあの男に負けるつもりはない。
そのためなら鍛錬になり得ることなら率先して行うつもりだった。
「そういや……あのガキと出逢ってからだ。久々に夢見が悪かったのは……」
つい先日のことだ。
必要な物資の買い出しと食事がてら『呪術市』へと赴いた時のこと。
唐突にぶつかってきたガキが一人いた。
初めはスリの類いかと警戒したが、結局のところやたらと気の弱いただの退禍師見習いらしきガキだった。なのに――何故だろうか。
似ていたのだ、不愉快なあの男に。
言動などはオドオドしていてとても似つかない。
だが、雰囲気……風貌がどこかあの男を彷彿とさせた。
「クソ……」
嫌なことを思い出させる、と吐き捨てる。
(憂さ晴らしに暴れてェ……)
募る苛立ちを発散したい。
そんな気持ちから黄昏色の境界線を越えた時だった。
ギギィン……!
遠くで、聞き慣れた金属音が響いたのが聞こえた。
(また退禍師か……?)
そんな予想に、警戒心が針のように鋭く尖っていく。
チラリと今しがた己が出てきた領域――禁域を一瞥する。
もし今いるのが退禍師なのだとしたら……取るべき手段は一つだけだ。
「銘は白雪。名は雪花! 今、汝の力を此処に解放せん!」
銘を呼び、名を唱え、もう一人の自分自身を顕現させる。
「さァて……、狩らせて貰うぜェ」
癪ではあるものの、約束を違えるつもりは毛頭ない。
それは俺自身の主義に反するからだ。
禁域に踏み入ろうとする輩であれば排除する。
そのつもりで剣戟の旋律が響く場所へと一直線に向かう。
新人の退禍師だろうがベテランだろうが関係ない。
強者であればあるほど燃えるのだ。心が、身体が、力を渇望して堪らない。
(面ァ、拝ませて貰うぜェ……!)
岸壁に囲まれた場所に飛び移ったその時だ。
「……!」
眼前に飛び込んできたのは、
「このッ……!」
〝禍津者〟と戦闘を繰り広げる、一人のガキがいた。




