第6章 黄昏刻の邂逅4
† † †
その日は、久々に完全なオフの日だった。
退禍師として〝黄昏刻〟での見回りもなく、教職としての課題も終えた完全なオフ。
そんな日は決まって、職員寮の一室で一日中を寝て過ごすのが常だった。
そう――緊急招集の連絡が入るその瞬間までは……。
ヂリリリリリリ……!
地震警報にも似た普段の呼び出しとは異なる、けたたましいベルの音。
その不快音に思い切り目を覚ました俺は、携帯を壁に投げつけようとして――やめた。
「緊急招集だとぉ……」
そのベルの種類から、思い切り舌を討つ。
「久々のオフが台無しじゃねぇか。どこの何奴だ」
誰かの失態の尻拭いだけは御免だと思いながら、起床し手早く身支度を済ます。
普段の職員会議の時間よりも遙かに早い時間だと思いつつ、職員室に顔を出した時、そこには既に退禍師でもある同僚達が顔を合わせていた。
「……っ、ねみぃ」
「急にお呼び立てしてしまい、すみません。早急に共有しておくべきだと判断し、お呼び立てした次第です……!」
「あー……。それはわかったから」
当直だった別のベテラン教師のキーンとするかのような大声に思わず片耳を塞ぐ。
「それで、呼び立てたのはいったい誰なんだ?」
「そ、それはですね……」
『私です』
それは、求めていた答え……というよりも、おおかた予想通りの答えだった。
職員室の中央最奥に備え付けられた大型のディスプレイ。
それが起動したかと思えば、数秒の暗転の後にローブに身を包んだ一人の人物を映し出した。
「やはり貴方でしたか……。学園長」
そう。目の前に現れた人物こそ、この八百万学園を束ね最高位に座する学園長その人だった。『おはようございます。学園長』
新人からベテラン教師の全員が声を合わせて挨拶をする。
「皆さん、おはようございます。急にお呼びしてごめんなさいね」
「そりゃ構いませんが……いったい何なんです?」
教育的指導といった点において個人的に呼び立てられるのはよくあることだ。
だが、今回のように教職員全員に通達が流れる緊急招集など滅多にないことだった。
困惑と不安。そんな感情が、新米教師を中心に、空気にのって嫌でも伝わってくる。
(新種の〝禍津者〟だとか……そんなのは勘弁してくれよ)
内心、密かに舌打ちをしながらも学園長がどんな話をするのだろうか、と今か今かと待っていたその時だ。
「学園長、用意ができました」
『ありがとうございます。轟先生』
ベテラン教師の名前を呼びながら学園長はある式神を一枚取り出すと、此方に対しある映像を展開し見せた。
ザリザリとした砂嵐のような映像。
そしてその中には、数人の人影に〝禍津者〟どもが群がる悲惨な光景が広がっていた。
『つい先ほど、私のもとに一体の式神が飛ばされてきました。これがその映像です』
「…………ッ!」
見慣れている、とは言っても筆舌に尽くしがたい光景に、教師の中でも各々で反応が異なる。
目を背ける者、映像を凝視する者、半泣きになりかけている者――様々だ。
(学園長め。朝からなんて悪趣味なモンを見せやがる……)
新米教師へのアフターケアについても思考を巡らせていた俺に対し、学園長が続けて紡いだ言葉は驚くべきものだった。
『この映像のうち、〝禍津者〟どもの影に隠れてはいますが……私は〝禍津姫〟の存在を確認しました』
「〝禍津姫〟だと……」
「〝禍津姫〟だって……? そんな馬鹿な……!」
学園長のその言葉に、数名のベテラン教師がざわつく。
(ようやく姿を見せやがったか……!)
勿論、俺もその内の一人だった。




