第6章 黄昏刻の邂逅3
マップと見比べながら、リツのナビゲーションを頼りに呪術市の中を歩く。
【次の角を曲がれ。そうしたら見えてくるぞ】
(うん……!)
皆を待たせないようにと駆け出しだのがいけなかった。
「いて……っ」
角を曲がった刹那、誰かの身体に思い切りぶつかってしまった。
反動で体勢が崩れそうになるのをなんとか堪え、
「す、すみません……」
咄嗟に頭を下げる。けれどその直後、頭にドシリと大きな手が置かれた。
「なんだテメェ、いきなりぶつかりやがって。スリか」
低くドスの利いた声。
恐る恐る声がした方を見ると、そこには鮮やかな銀髪を結い上げた一人の青年が立っていた。
「チッ、なんだ。ガキかよ」
ガキじゃなければ殴っているのに、とその人物は物騒な言葉を口にする。
「ほ、本当にすみませんでした……怪我は?」
「してねぇよ。――おらガキ。なんでこんな場所にいやがる」
迷ったのか、と銀髪の青年は問いかけてきた。
「い、いえ。この先の区画に用事があって……」
「ンあ……? チッ、そういうことかよ」
僕の服に着けている校章で何かを理解したのか。
銀髪の青年は小さく舌打ちすると、頭から手を離し背を向ける。
「ガキはさっさと学園に帰りやがれ。黄昏刻が来る前にな」
銀髪の青年はそれだけ言うと、特に暴力を振るうでも金品を要求するでもなく去って行った。
「はぁ、怖かった……」
特に騒ぎにならなかったことに安堵し、ふと遅れて『迷ったのか』とまるで此方を気遣うような素振りすらあった。
「けど、いい人……だったのかな」
そんな呟きをつい漏らす。すると、
【どこまでお前さんの頭はお人好しでお花畑なんじゃ。まったく】
盛大な溜め息と共に、僕の影の中からスルリとリツが姿を現した。
【やれやれ……災難だったのう、れんよ。にしても随分と粗暴な輩だのう】
引っ掻いてやろうか、と鋭い爪を顕わにするリツを慌てて止める。
「あの人も怪我がないって言ってたんだから……」
【ぶつかったのは、れんのドジが原因じゃがな。物の言い様というのがあるぞ】
「ドジ……って。僕の不注意だったのには変わりないけどさ……」
とにかく早く目的地に行こうとリツを急かす。
話題を変えなければ本当に先ほどの青年の後を追いかねないと思ったから。
【……やれやれ、仕方が無い仔だ】
まるで我が儘をいう幼子をあやすかのような口調で、僕の肩に飛び乗るとリツは尻尾で目的の商人がいる区画を指し示した。
「ありがとう。リツのお陰で早く着けたよ」
【当然じゃ。私はえらーい神様じゃからな】
「ふふ、そうだね。リツ神様」
そんなことを話ながら、僕は目的の場所へと駆けていった。




