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東京Re-survive  作者: 櫻木 いづる
終章 彼方からの文
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第6章 黄昏刻の邂逅2

 その容姿は初めて逢った時と変わらず、深紅の髪と瞳を宿しており、その容姿は確かに嫌でも目立つだろう。その結果、望まぬ厄介事に巻き込まれることもあったのかもしれない。

 それでも夏生は嫌々ながらもこうして着いてきてくれた。

「…………」

「…………」

 どんなことを話そうかと窮したのもある。

 同時に、ずっと気になっていたことがあった。

「ねえ、夏生。その……」

「なんだ?」

 気怠そうな声で夏生は言葉を返す。

「なんだよ、俺が答えられることか?」

「……。夏生の、髪のことについて訊いてもいいかな。勿論、話したくないなら話したくないって言ってくれて構わない」

「あー……」

 僕の問いに、何を言いたいのか察しがついたのだろう。

 夏生は中空をボンヤリと見上げていたが、やがて口を開いた。

「まあ……この見た目で大体予想はついてるだろうが」

「それって……やっぱり」

「ああ、れんの想像の通り……〝混血〟の家系だよ。遠い昔、ご先祖の一人が禍津者と交わった結果だそうだ」

「…………」

「なんの禍津者か識るつもりはない。けど、一族の中でも俺は特にその性質が色濃く出ちまったみたいだって、母さんは言ってたな」

 自分の家系の根源。

 それを識りたくないと言う夏生の気持ちはきっと複雑だろう。

「この〝色〟も判るやつには判るし、理解できない奴には一生解らない。地毛だっつっても無駄に言いがかりをつけて絡んでくる奴もいやがったしな」

「…………」

〝混血〟は……忌むべき一族だと蔑視する言動をする人間は少なくない。

 きっと夏生は――夏生の一族は、大いに苦労してきたのだろう。

「けど、八百万学園に来て……今までと違う環境で、少し良かったとは思ってる。初めは馴れ合うつもりなんざ毛頭なかったけどよ」

「だから、あんなことを言ってたんだね」

 足を引っ張られるのは御免だ、と他人を拒絶するような言葉を言い放っていた夏生の姿を思い出す。

「……悪かったな」

「え?」

「自分の、俺の、一方的な都合を押しつけて……」

「そんなことないよ。押しつけられただなんて、思っていない」

「……ありがとよ。れんも、兄貴や家のことで苦労してきたんだろ」

「そんな……お礼を言うのはこっちだよ。話してくれてありがとう」

 まさかお礼を言われるとは思わなかったからか、諸手を振って言葉を紡ぐ。

 初めて逢った頃は、凍てついた関係だった。

 けれどチームとして様々な課題に直面していくにつれ、その関係性も氷解してきたように思う。そして今、夏生とは互いの事情について話し合えるほどにまで前進できた。

 他人の過去をむやみやたらに、掘り返すこと。それを良しとするつもりは毛頭ない。

 正直どこまで踏み込むべきか、悩むところは沢山ある。繊細な話題なのも理解している。

 けれど他者の過去を理解することで、他人を理解できるものだと……その時の僕はまだ、そう思っていた。その考えが甘く温い夢だと気づけないまま――。

「あ……」

「どうした?」

 ふと思い出した。

 つい先ほどまでは、日暮家縁の商人のもとに顔を出していた。

 けれどよくよく考えれば今此処は『呪術市』。

 これを機会に失せ物捜しなどに長けた呪具を扱う商人と縁を結んでみても良いのかも知れない。 

「少し気になる物があるのを思い出したんだけど……」

「ん? それなら見て来いよ。秋葉達なら見とくからよ」

「ありがとう。すぐ戻るから」

 そう言うと、僕は足早にその場を後にした。

 懐から『呪術市』のエリアマップを取り出すとリツに声をかけた。

(リツ……、失せ物捜しに長けた呪術商人っているのかな)

【ふむ。おらんこともない……が、お前さんが扱える呪具があるかは別の話じゃぞ】

(それは、わかってる。でも可能なら一緒に買い付けておきたいんだ)

【やれやれ、仕方のない。自分で目利きしたいのか。……そこの突き当たりの道を左に曲がるんじゃ】

 迷うんじゃないぞ、とリツは忠告してくれる。

「ありがとう」

 我が儘だと分かっていても、リツはよほどのことでない限り、付き合ってくれる。

 本当に危険な時は強い言葉で忠告してくれる。そうでなければ、僕の意見を尊重してくれる。

 その信頼があるからこそ、僕にとってリツという存在は何よりも大きかった。

(リツが『呪術市』に詳しいのって……もしかして此処に来たことあるの?)

【まぁの。昔の話じゃが、気まぐれに遊んでやった商人もおるわい。今は其奴がどうしておるかは知らんがのう】

(へぇ……)

 リツは、自分のことを深く語らない。以前問いかけた時、語る必要がないからだ、と言った。

 けれど時々こうして教えてくれることもある。

 それはまるで秘密を少しずつ共有してくれるようで、僕は密かに嬉しかった。

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