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東京Re-survive  作者: 櫻木 いづる
終章 彼方からの文
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第5章 舞士道と偽士道5


「ワタシの名前は、(りよう)(こく)()()()

「ボクの名前は、(りよう)(こく)()()()


 まるで鏡映しであるかのように、そっくりな双子は揃って会釈をしてきた。

 運動着の色から、一年歳上であることが見て取れる。

「新しい入門者ね。祈舞樹」

「新しい入門者だね。風舞祈」

 二人の間に流れる妙な空気に、緊張が混ざる。

『二人の名前は?』

「夏生」

「れん、です」

「体験入部をしたいと伺いましたが……」

「武術を学ぶのは初めてかい?」

「俺は我流で……」

「い――あ……」

 いいえ、と否定の言葉を言いかけハッと口を紡ぐ。

 自分自身が今まで学んできた武術――それは『偽士道』と呼ばれる別物だからだ。

「……? どうかしましたか」

「なにか思い当たる武術でも?」

「い、いいえ。なんでも、ありません」

 慌てて首を横に振ると、首の皮一枚で繋がったようなヒヤリとした汗が背筋を伝う。

 二人が名乗った名は『両国』――その二人に対し『偽士道』の名を出すことは、両国家に対し喧嘩を売るに等しい行為だからだ。

 舞士道――本来は『舞志道』と記述される歴とした古武術である。

 主な武器を刀剣と定め、まるで舞うように剣技を振るうことがその由来だという。

 名家である五つのうち、舞士道を尊び継承してきたのが両国家。

 一方、舞士道の対として挙げられるのは日暮家が誇る『偽士道』だ。

 曰く、偽士道は他流派の技を組み合わせ振るう。

 その様はまるで盗人のようだ、と揶揄する者すらいるほどだ。

 けれど、たとえ他の武芸を盗み組み合わせたモノだとしても、それは極限にまで精練された一種の武術として既に型を成していた。故に、偽士道は特異な流派という認識をされていた。

(もっとも、僕は偽士道に向いてないみたいだけど……)

 武道の基本は、嫌というほど叩き込まれた。けれど結局、父様の期待には応えられなかった。

 武術が不得意だと自覚した上で、舞士道にまで手を出すのは欲張りなのかも知れない。

 兄様のようにはなれないと知った上でも、その影を追わずにはいられない。

(兄様は、舞士道の技も見せてくれてた……なら、僕も……)

 どこか後ろめたさのようなモノも感じながら、僕と夏生は正面に佇む双子の先輩を見据える。

「舞士道に興味を持って頂けるのは大変喜ばしいことです」

「でも、だからって誰にでも簡単に教えるつもりは毛頭ないよ」

 両国先輩はチラリと足下に転がる他の生徒を一瞥した。

「現に此方の方々は、学ぶ資格がない者として認定しております」

「認めて欲しかったら、ボクらに力を見せてよ。舞士道を教えるに値するかどうか――それから見定めてあげる」

【随分と上から目線の仔らだのう。どうする、れんよ? それでも挑むか】

(やるよ……。何もしないまま、諦めたくはないから)

 グッと掌に力を込める。

「夏生、やる?」

「やるに決まってんだろ。……仮入部試験があるだなんて、燃えるじゃねぇの」

「燃えるって……血の気が多いんだから」

 ハァと溜め息を吐きながら、僕は双子の先輩へと問いかけた。

「力を見せろ、とは何でもいいんですか?」

「ええ、勿論」

「キミ達の得意な得物は? それに合わせてあげるよ。拳でも、刀でも」

 それは、強者故の余裕だろうか。

「…………」

 そしてその結果が、足下に転がっている仮入部希望者達なのだろう。

 戸惑いを隠し切れないまま、どの得物にしようかと思案している最中だった。

「なら、遠慮無くいかせて貰いますよ。両国先輩」

 戦闘開始の合図は、意外にも隣りの人物――夏生のほうから告げられた。

「銘は黒雨、名は刻水。今、汝の力を此処に解放せん――」

 夏生が銘名の詠唱を口ずさむや否や、その手には一本の刀が握られていた。

 両国先輩のほうにも視線を向けると、両国祈舞樹と名乗った先輩の手にはいつの間にか得物が握られている。互いにどちらを相手どるか、それで決定した。


「れん、貴方はどうしますか?」


 鈴が鳴るような、高くて何処か蠱惑的な声が僕の名前を呼ぶ。

 パチリと両国風舞祈先輩と視線が合った。

「…………」

 夏生のように幽冥と冥血に頼りたい気持ちが募る。

 けれど僕はまだ心を通わせきれていない。冥血と魂冥の二つの力を扱いあぐねている。

 それならまだ、体術の戦闘でならどうにかさせられる。

(前のように爆花をさせる心配もないし……)

 一番の懸念事項を払拭させられるなら御の字だ。

「諦めますか?」

「いえ。お相手、お願いします」

 その言葉に対し僕は深く一礼した。

「宜しいでしょう。では、両国風舞祈――お相手致します」

 刹那、音もなく風舞祈先輩との距離が詰まった。

「……!」

 それは舞士道の基本にして高速移動を得意とする技――〝音隠し〟。

 かつて兄様が見せてくれた偽士道の技の中にもあった。

 音もなく、まるで瞬間移動でもしたかのように、互いの距離を詰め瞬時に相手を殺す暗殺術。

『舞士道を尊ぶ両国家は、特にそういった無音術が得意なんだよ』

 記憶の中にある兄の言葉。そしてその時に見せてくれた舞士道の技を想起させながら呼吸を整える。 

 風舞祈先輩の細い指が、眼前に迫る。

 それを咄嗟に弾く。けれども直ぐさま、連続した一撃が襲ってくる。

【落ち着け。この程度なら、お前さんならいなせるじゃろう】

 その一撃一撃を、正確に躱し、受け流し、時には打ち合う。

 それは此方の攻撃を伺うような手筋。

 チラリと風舞祈先輩と視線が交わった刹那、挑発するような動きに変わった。

(防ぐだけじゃ……駄目だ!)

 これはきっと基礎以下の――反応を見るためのレベル。

 風舞祈先輩達は『力を見せろ』と言った。

 夏生達の様子を見る余裕なんてない。

 けれど、きっとこのままじゃ駄目だと思った。

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