第5章 舞士道と偽士道
それは、八百万学園に入寮してから初めて外出届けを申請した日のこと。
僕はリツと共に懐かしい生家へと顔を出していた。
目的は無論、〝開花〟の報告――の筈だった。
【相変わらずの親だったのう】
「……そう言わないでよ」
結果は、そう。
正直良い反応は貰えなかった。
少しだけ……〝開花〟したことを褒めて貰えるかもしれないと、期待をしてしまっていたこともあり内心、両親の反応には寂しさを覚えた。
「できて当たり前、か」
そう言い放った、父親の冷たい視線を思い出す。
【早く、こうを見つけろとも責っ付かれたな】
そう言い放った、母親の怒りを孕んだ表情を思い出す。
そう――日暮家にとって当たり前のことを、僕はようやくこなせるようになった。
やっと、日暮家の人間としてスタートラインに立ったことになる。
「…………」
それは本来、出来損ないであった僕自身にとっては何よりも代えがたく喜ばしいこと。
チームの夏生や秋葉さんが喜んでくれたことも相まって、つい過分な期待をしてしまっていたのだと打ちのめされた。
ギィと重い音を立てて閉まる門。
その音はまるで、早く出て行けと言われているようで余計に気分を暗くした。
「帰ろうか。八百万学園に」
【そうじゃ、早う帰ろうぞ。こんな場所に長居は無用じゃ】
リツに促され、ポツリポツリと歩き出す。
(次はいつ来るか判らない。来れるかも……)
そう思うと、郷愁に胸が締め付けられる。
チラリと背後を振り返る。
生家は、僕が出た時のあの日と何一つ変わらない姿でそこに在る。
ところどころ苔むした石畳。
脇道を流れる細く長い川。
瓦の積まれた塀の間にそびえる城門のような木製扉。
それは僕を閉じ込める檻そのもののようでもあった。
【れん。何をしておる? 何か忘れ物でもしたのか】
「ううん。なんでもないよ」
首を振り、前を向く。
日暮こうを――兄を黄昏刻のから救い出すことには変わりない。
その報告ができるまでは、もう帰ることはないのだろうと密かに思いを巡らせた。




