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東京Re-survive  作者: 櫻木 いづる
終章 彼方からの文
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第4章 銘名と開花9

「あ……ありがとう、秋葉さん」

「どう致しましてです」

 ここ数日の実践訓練の賜物だろうか。

 三人のコンビネーションといい、意思疎通がしやすくなったように思う。

 まだ二人のことは深くまで知らない。

 けれど互いに命を預け合える存在には変わらない……!

「こんな雑魚にやられるようじゃ、兄貴捜しは諦めたらどうだ?」

「……っ、そんなつもり毛頭無いよ!」

 相変わらずの夏生の皮肉には、時々言い返せるようになった。

「はいです! れん君は意外と頑固ですです♪」

「……秋葉さん、それフォローしてるのかな?」

 秋葉さんは優しい。けれど時々、不思議と真意を突いてくる。

【クカカッ、頑固だと秋葉にも言われてしもうたなぁ? ほれほれ、私も良く言うておろうが】

 そしてなにより、リツがこうしていてくれる。

 二人――いや、三人が一緒なら、兄を見つけられるのかも知れない。

 そんな高揚感に気持ちが膨らむ。

「だから殺れ! れん!」

「だから心置きなくやっちゃってください! れん君!」

 僕が爆花しても構わないと、背中を押す。

 その信頼が、優しさが胸を打つ。

【仔どもらが吠えるもんだ。……れんよ】

 不意に、リツの優しい声が脳裏に響く。

【なにかあればまた引き戻す。そのために私がおる。思い切り、やれ】

 その優しい後押しが、引き金になった。

「――わかった」

 二本の冥血と魂冥を構える。

 拘束された禍津者を睨み据えると、細く息を吐いた。

 ブツ……っ、

 その時、何かが千切れる音がした。

 眼前の禍津者から響くその音は、拘束している糸を千切っているような不安を煽る音。

 そして――その予想は的中した。

 拘束されていた髪束のうち一つが拘束された糸の隙間をぬい、唸りをあげて迫るのが見えた。

 それはまるで一本の矢の如く。

【躱せ! れん!】

 リツの鋭い言葉が頭の中に響く。

 けれど、もう心に決めていた。

〝禍津者〟に出逢ったその時は、逃げることはしない――今度こそ、葬り去ると。

 あの時、敵わなかった怨みを晴らしてやろうと決めていた。

 あの時、助けられなかった悔しさをぶつけてやろうと決めていた。

 兄の代わりになれないのなら、せめて別の生き方で贖おうと自分自身に誓った。

 それが、兄の代わりになれない僕の役目だと思った。

 胸の内に、昏い炎が灯る。

「冥血――魄冥」

(お願いだ。僕に、力を貸して欲しい)

 幼い頃から、そうだった。

 屋敷に住まう、ほとんどの人間は〝開花〟ができていた。

 僕だけが、できなかった。

 一本の脇差しの聲すら聞けないと嘆いた。

 そのことを責めなかったのはただ一人――兄のこうだけ。

(お前達は、どんな能力なんだ……?)

 再度、一対の刀に問いかける。

 僕に足りない物があるというのなら、それを補える力を身に付けよう。

 僕がお前達に相応しくないというのなら、相応になれるよう努力をしよう。

(出来損ないだと嗤われてもいい)

 ギリッと奥歯を噛み締める。

(ただ、こんな僕でも証明できるのなら……)

 この右腕が壊れようとも。

 この左腕が砕けようとも。

 護れる存在があるのなら――この両手で救える存在があるのなら。

 怨みを晴らすその時まで――兄を〝黄昏刻〟から救い出すその瞬間まで。

 どうなっても構わない。どれだけ怪我を負おうと構わない。

 かつて絶望を味わったこの身でも、赦されるのなら。

 その罪に報いることができるのなら。

(劣等感を、力に変えてやる!)

 刹那、言葉が頭の中に浮かぶ。

「冥血……!」

 言葉が生まれ、力が爆発する。

「愚囚を祓え! 紅麗斬……!」

 それはまるで心の中にしまい続けていた昏い感情が起爆剤となったようだった。

 思い浮かんだ言葉のまま、声を発する。

 すると深紅の刃が幾つも周囲に生まれたかと思うと、此方に迫っていた髪束を微塵に切り裂いていた。――以前、対の蛇を斬り付けた時の赤黒いものとは違う。鮮やかな紅い色の血刃。

「魂冥……!」

 髪束が斬り裂かれたことに困惑する禍津者。

 その一瞬の隙を見逃さず、もう一本の刀の名を叫ぶ。

 駆け出すと、拘束下にある禍津者めがけ一気に刃を振り抜いた。

(こん)(けつ)を喰らえ! 魂縛葬送……!」

 刹那、命を喰らう音がした。

 それは形容し難い、もの悲しい音色だった。

 つい先刻まで呻き声と悲鳴を上げていた筈の禍津者。

 それは淡い光に包まれたかと思うと、何匹もの蝶の姿に変化すると砕け散っていった――。

 

「……っ、は、ぁ」

 

 熱い吐息。血脈がドクドクと悲鳴を上げる。

 言葉にできない感情が、胸いっぱいに広がる。

 頬を塗らし地面へと滴り落ちる雫は、ただ熱かった。

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