第4章 銘名と開花6
授業後の食堂の一角。
そこは同クラスメイト達が自然と集まるようになった、ある意味交流の場だった。
「見ろよ。俺の禍津石」
「見せびらかすなよ。俺だってあんだから」
「私のも。……えへへ、なんだか本当に退禍師になったみたいだね」
禍津石が配布されてからというもの、クラスメイト達は嬉しさ故か、どこか浮き足立っていた。各々が首から提げた禍津石を見せ合っては、本当の退禍師になれたようだと思いを口にしている。
【やれやれ。呑気というべきか、微笑ましいと捉えるべきか悩みどころよのう】
リツの呆れ声に苦笑しながらも、僕も自分の首に提げた禍津石を見つめる。
今のところ、特別な反応もない。
けれど『あの時』のような反応があれば、すぐにでも飛び出していきたい。
「そうすぐ反応するわけ、ないか……」
【まったく、おまえさんは落ち着きがないのう】
(落ち着いてるよ。……これでも)
ふうと深呼吸を一つし、クラスメイト達の反応を眺める。
各チーム毎に固まる者もいれば、親しくなった友人に話しかける者もいる。
(この中で、どれだけの人が〝開花〟ができているんだろう……)
ふと、そんなことが脳裏を過る。
【爆花したことを悔やんでおるのか?】
僕の思考を読んで、リツが声を掛けてきた。
その問いに、密かに頷き応える。
【もう、戦いたくないと思うたか?】
(それはないよ)
その問いには、直ぐさま首を横に振った。
戦場に立ちたくないわけではない。その選択肢は、僕の中にはない。
ただ、大切な誰かを――あの対の蛇神の時のように傷つけないか。
それだけが心配でならなかった。
(もう、誰かを失うのはたくさんなんだ……)
【……そうじゃな】
しっとりとした声での、リツの同意。
きっと思い浮かべているのは、同一人物に相違ないだろう。
【そういう意味では、れんは一度爆花を経験しておる。れべるあっぷ、じゃな】
(そういうもの、かな)
分からないけど、と小首を傾げていたその時だった。
「キミは確か……日暮君、だったか……?」
「え……?」
不意に声をかけられ、ふっと顔を上げる。
するとそこには眼鏡をかけた高身長のクラスメイト――渋谷君が心配そうな面持ちで僕のほうを見つめていた。
「顔色が悪いように見えた。具合が悪いなら実習は切り上げて、保健室に行きたまえ」
「あ……、だ、大丈夫だよ」
そんなに顔に出ていただろうかと、内心小首を傾げる。
ひとまず心配させまいと渋谷君に笑いかけた。
「ありがとう。渋谷君」
「なに、礼は不要だとも。同じ学友として身を案じるのは当然のことだからな。退魔師になるには視野を広く持つことも大切な修行の一環だと、我が祖父が言っていたのだ」
「渋谷君とは初めて話すけど……もしかして、クラスメイトみんなの名前……覚えたの? 自己紹介もして無かったのに」
「ああ! 有事の際に学友の名前が分からなければ困るだろう?」
「…………」
即答する渋谷君に唖然とする。
「先生から教えて貰ったの?」
「いや? 学友達の声に耳を傾けていれば自然に覚えるだろう!」
チームも組み終わったのだから、とさも当然のように答える渋谷君。
(リツ……これは僕が他人への関心が疎いだけかな?)
【いや。此奴が特殊じゃろうて……】
そう呟くリツの応えに苦笑する。
「改めて、俺の名前は渋谷藤治郎だ。藤治郎と呼んでくれたまえ」
「……わかった、藤治郎。僕のことも、れんでいいよ」
「ああ。改めて宜しく頼む。機会があれば俺のチームメンバーも紹介させてくれたまえ。だが、一先ずは今日の残りの授業……街の見回りを終えなければな」
ハキハキと喋る藤治郎君の言葉に耳を傾けながら、密かに胸が締まる。




