第4章 銘名と開花4
† † †
「お前ら喜べ。今日は座学だ」
週が明け――それは、始業ベルが鳴って間もなくのこと。
いつもと変わらない、喪服のような黒スーツ姿で現れた目黒先生は開口一番に言い放った。
「本当は今日も実践のつもりだったんだが、色々上から面倒くせェ文句が――あー、いや貴重な意見が出た。まぁ、あとは別の問題もあるんだが……」
チラリと目黒先生がこちらを見てくる。
きっと先日のことを言いたいのだろうが、目黒先生はそれ以上は何も言わなかった。
「……という訳で早速今日のお題だ。お前ら、〝開花〟についてどれだけ理解している? 答えられる奴はいるか?」
『はい』
目黒先生の問いかけに、即答したクラスメイトが二人いた。
一人は、入学式の日に質問を投げかけていた眼鏡を掛けた人物。
そしてもう一人は、神式零その人だった。
「お前は、確か神式の……。よし、それなら答えてみろ」
「はい」
目黒先生からの指名に、零は美麗な動作で立ち上がると静かな声で言葉を紡いだ。
「私たちが呼ぶ〝開花〟――即ち〝能力開花〟とは、五大元素のいずれかに属する形で私たちに宿るモノだ。大まかに先天的なものと後天的なものとで分けられ、要因としては環境に基づく考え方と物理的に基づく考え方の二種類がある。だが、実際のところ〝開花〟については未だに解明されていない部分も多く、退禍師の協力を得ながら研究途中であると訊いている」
零の回答はまさに模範解答のようだった。
そう、僕達が〝開花〟と呼ぶその現象は、一言でいうなら謎だった。
初めて〝開花〟に関する記述がされていた書物――『五大神書』曰く、生き物は生まれ落ちた瞬間からすべからく〝神〟が憑くという。そしてその神々の属性はそれぞれ五大元素である木火地水風に属するのだという。
これが〝開花〟が先天的なものとして結論づける根拠だ。
だが一方で〝開花〟をし得ない人間や〝開花〟に遅れを生じる人間も存在する。
そういった人間は、環境的なものか物理的なものが要因であると結論づけることが多い。
(環境的要因と物理的要因……か)
【思い当たる節がありすぎるのう? れんよ】
(そう、だね……)
現状〝開花〟ができていない僕はどちらに当てはまるのだろう。
ふとそんなことを思いながら、目黒先生がホワイトボードに記述していく内容をノートに書き写していく。
それだけを見ていると普通の高校のようで、少しだけホッとした。
(連日実践続きだったから、なんだかやっと高校生らしい雰囲気だね)
【座学など詰まらん。だが、れんは昔から実技よりも座学を好んでおったな】
リツが、影の中で大あくびをする様子が伝わってくる。
リツの気の抜けた様子に苦笑しながら、ホワイトボードに記述された内容をノートに写し終えたその時だった。
「さて、初めに言っておく。開花についてだが……俺の目が黒いうちは、開花に関する差別的発言は一切許さん。これは能力の優劣を測る物差しでも何でもないからだ」
『……!』
目黒先生のその言葉に、クラス中が動揺したのが空気で伝わる。
それもそうだろう。
表向き〝開花〟の有無で退禍師としての素質の優劣が決まるわけではない。
そう、公言されている。
だが現実は想像よりも厳しく、排他的で、差別的だ。
先天的に〝開花〟の予兆が見られた者ほど、素質を認められ優れた教育環境に身を置くことができる。退禍師であれと強制されることを良しとするなら、だ。
「今まで……そんなこと言う先生なんかいなかったぞ」
クラスメイトのうち、何処かからそんな呟きが聞こえた。
当然だろう。此処に入学した以上は退禍師の素質を認められた者……そして少なからず、優遇された環境に身を置いてきた者も多い筈だ。
自分達は選ばれた人間だ、と選民主義的な錯覚を抱く者も少なくない。
そしてその錯覚は良くも悪くも人間の精神を歪める毒にも成りうる。
それが名家であれば、なおのこと……。




