第4章 銘名と開花3
「~~。お前なぁ……」
からかうような仕草に呆れたのか、目黒先生は不意に僕の頭をガシッと掴むと乱雑に髪を掻き乱してきた。それに抵抗できず、数秒後解放された後、ボサボサになった髪を手櫛で直した。
「あの日暮家のことだからあまり干渉はできないが……困ったことがあれば教師を頼れ。あと、能力開花についてはこれから授業で触れていく。だから、授業中寝るんじゃねぇぞ?」
「寝ませんよ。先生の授業、楽しみにしてるんです。今まで実践続きでしたから」
「実践に勝る経験はない、って上にも言ってんだがな。座学なんか面倒だ」
「先生の言葉じゃないですね。他の生徒に聞かれたら呆れられますよ?」
「ハッ、どうだかな。もう呆れてる奴はいるだろうさ。ンなことより……ほれ、さっさと寮に帰って寝ろ」
バンと背中を強めに叩かれると、わずかに咳き込む。
屋敷の人間とは違う、人として扱われているのだと感じられる言葉の数々。
秋葉さんや夏生含めて、この八百万学園に来られて良かったと再認識した。
【れんよ。あれで良かったのか? まだ訊きたいことはあったろうに】
寮へと戻る道すがら、頭に響いたリツの声。
(今はあれだけ訊ければ充分だよ。ありがとう、リツ)
本当ならば、リツのことも紹介したかった。けれど何となく、その時ではないように思えた。
「ふあ……、流石に眠いね」
【実践の後に黄昏刻に潜るなど無茶をするからじゃ。まったく……】
仕方の無い仔じゃ、とリツは呆れながらも傍にいてくれる。
それがどれだけ有り難いことか。
いくら感謝の言葉を告げてもし足りない。
「うん。それじゃ、帰ってたらすぐ眠るよ」
学生証を寮の入口に翳して中に入ると自分の部屋へと向かう。
【寝るのは良いが、いいのか?】
「……? なにが?」
【段ボール、まだ片付いておらんじゃろうが】
「あ……」
ガチャリと自室の扉を開くのと、リツの言葉で段ボールの存在を思い出したのはほぼ同時だった。
「…………」
【片付けるか? せっかくの休みなのじゃから、後回しにせんほうがおまえさんの為じゃぞ?】
「……うん」
部屋が汚れたままなのは、落ち着かない。
昨日はどうしようもなく眠ったものの、流石に二日連続でそのまま眠れるほど図太い神経を持ってはいない。
【……。まったく、変なところで、繊細な性格をしよってからに】
「そう言われても……仕方ないよ」
チラリと段ボールの山を見る。積み上げられているせいか山のように見えるだけで、幸いというべきか荷物自体はさほど多くない。
「よし。やるか……」
気力を振り絞ると未開封の段ボールを片付けていった。




