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東京Re-survive  作者: 櫻木 いづる
終章 彼方からの文
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第3章 黄昏刻に潜むモノ10

「硬ってェ……!」

 一方、夏生は応戦しようとしたのだろう。

 切り裂こうにも刀の刃が蛇の鱗に弾かれ、その硬さに呻いていた。

【赦さぬ、赦さぬぞ……人間どもめ】

【我らが住処を壊し、この地に追いやった罪――その身を以て贖うがいい!】

 ゾルリと岩壁や地面に敷き詰められた積み石を削りながら、二匹の蛇はとぐろを巻く。

【殺してやる、ころしてやる、コロシテヤル――――!】

 耳朶に張り付く、怨嗟の声。

【不敬者。やかましいぞ】

 眉を寄せ、リツが吐き捨てる。

【本来の私の姿であれば、喰らってやっても良いがのう】

(駄目だよ、リツ!)

【……判っておるわ。冗談よ】

 リツの言葉に安堵しながらも、宙空で壁を足場に攻撃を回避していく。

 けれど、防戦一方。

 硬質な皮膚なうえに、蛇の身体のほとんどは筋肉で構成されている。

 長い身体で獲物を絡め捕り、締め上げ、殺す。

 その様子はただ毒液を吐く蛇の一面とは別の恐ろしさを物語る。

「おい! このままじゃ祠に近づくどころか、逃げるしかできねぇぞ! どうする!」

 夏生の判断――それは正しい。

 けれど、やり遂げなければならない。

 逃げる訳には、もういかない。

 そう、決めたのだから――。

 ヒュウと呼吸を整え、心を静める。

 今自分にできること、今までのことをパズルの如く分解し、再構築する。

 出発前、目黒先生に言われた言葉を思い出す。

『転化した刀ってのは、それぞれ〝五大元素〟に振り分けられる』

『五大元素って、あの……木火地水風の五大ですか』

『識ってんなら、話が早い。そう、それだ』

『お前らのチームは一見すると、火を冠する秋葉。水を冠する夏生とあって相性が反発しあうように見えるがそうじゃねぇ。お前のは……正直特殊だがな。生き残りたきゃ、能力を開花させるこった』

 生き抜くこと。

 互いのことを識り合うこと。

 そして何より、能力を〝開花〟させること……!

(昨日の試練の時、秋葉さんの刀は炎を放っていた。それならきっと……)

「僕に考えがある、聞いて!」

 何度目かの攻撃を跳躍し回避した後、ようやく三人で集まると、弾む呼吸を抑えながら早口で指示を出す。

「秋葉さんの刀、炎を扱えたよね? それで周囲の鈴に火を灯して行って欲しい」

「えっ、ええぇ……? でっ、できますけど……どうしてそんなこと」

「蛇はもともと暗闇に弱い。その代わり蛇には熱源を知覚する器官があるんだ。それで僕らの居場所を追ってる筈……!」

「だから熱源を増やして攪乱させようってか……」

「あの対の蛇にも効果があるかは分からない。上手くいくか分からないけど、このまま何もできないよりかはマシだと思う……!」

「わ、わかりました! でも、灯してるその間、あの蛇はどうするです?」

「それは僕と……」

「……俺で引きつける」

「わかりました! い、いきます……!」

 秋葉さんの合図と共に、大きく刀が振り抜かれた。

 すると注連縄に吊されていた刻印鈴に、次々と青白い炎が灯っていく。

 その様は幻想的で、こんな状況でなければゆっくりと見ていたくなる程だ。

 だが、そんな悠長なことはしていられない。

 僕は白蛇、夏生は黒蛇。

 各々の相手を見定めると、同時に駆けだした。

 秋葉さんが火を灯しきるまでに、邪魔をさせないために――。

【小童風情がぁ……!】

 怒りに満ちた白蛇の声が耳朶を打つ。

 そして暗闇の中に一瞬白蛇の瞳が垣間見えたかと思った直後、巨大な顎がこちらへと迫ってくるのが見えた。積み石や卒塔婆をなぎ倒し、僕の全身を喰らおうとするのを間一髪で避けては、抜き身の刃で一撃を食らわせる。

 けれど先ほどの夏生同様、硬い鱗に阻まれ傷を与え弱らせるまでにはいかなかった。

(リツ、さっきの爆花って何……? また起きる……?)

【爆花は〝開花〟のなり損ない……謂わば、力の暴発じゃ】

 今のお前では再発しかねん、そう言い切るリツの言葉にグッと歯を噛み締めては、白蛇を秋葉さんから引き離すように反対側へと駆け抜ける。

 視界の端で動く夏生も回避と攻撃を繰り返しているのが垣間見えた。その時、

「できました……!」

 秋葉さんの合図に、夏生と互いに視線を交わせる。

 シューという耳障りな音が響く中、タイミングを図り合図を出す。

「行こう! 夏生」

「応。こんな所で、くたばってたまるか!」

 互いに刀の柄を握り締める。

 身を屈め、一気に飛び出しては蛇の胴体の隙間を縫うように駆ける。

(結界が綻んだ影響で荒ぶっているのなら、(たま)(しず)めをするしかない)

 斬り付けるのではなく、最速で駆け抜け祠に札を貼る。

 そうすれば、恐らくこの対の蛇達も鎮まるはずだ。

 そう計略し、最短最速で祠を目指した。

【小癪な……!】

【童風情が我らが宝に触れるなァ……!】

 僕らの動きに気づいたのだろう。

 秋葉さんが灯した炎につられていた白蛇と黒蛇はそれぞれ攻撃を繰り出そうとする――が、もう遅い。

 懐から取り出した札を、古びた祠に力強く叩き付ける。

 刹那、札に綴られた印が焼け付くように祠に刻みつけられた。

【ぐッ……】

【これ、は……】

 呻くような、けれど苦しみとは違う声が届く。

 ピタリと動きを止めた対の蛇は、祠とその傍にいる僕達を交互に睨み据えていたが、大きくもたげていた頭を降ろしたかと思うと、その眼をゆっくりと閉じた。

「お、落ち着いた……?」

【そのようだが……まあ、油断はせぬことだ】

 札の効力によって一時的に眠っただけだろう、とリツは言う。

「眠ってるように見えるが……今のうちに斬るか」

「だから禍津者じゃないってば……。それに、僕らの刀じゃこの皮膚や筋肉を裂くことなんてできない」

 だから霊鎮めをするのが精一杯だと、小さく呟いた。

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