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東京Re-survive  作者: 櫻木 いづる
終章 彼方からの文
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第3章 黄昏刻に潜むモノ9

(こんなとこで、足止めを喰らうわけにはいかないのに)

 退禍師になるには、任務をこなさなければならない。

 常に人を助け、護り、時には導く存在。

 気高い誇りなどいらない。

 ただ〝あの人〟に追いつけるならば、それでいい。

 なのに、こんな最初の任務でくじけてなどいられない。

【落ち着け、れん! ここで冷静さを失ってどうする】

「……!」

 焦りから感情が乱れていたのを察してくれたのだろう。

 制するリツの声に、ハッと我に返る。

 今は、目先のこと――二人の命を護れる選択をしなければならない。

 けれど、この蛇に刃は利かない。否、刃を向けることができない。

 禍津者ではなく、神使と呼ばれる遣いならば尚更だ。

 だがそんな逡巡すら嘲笑うかのように、シューという耳障りな鳴き声が闇の至る所から聞こえてくる。

【れん、諦めろ。此奴らに話は通じぬ。ある意味禍津者よりタチが悪い】

(でも……、このヒト達は悪くないのに……)

【くどい……! 死にたいか!】

 ピシャリと撥ね除けるようなリツの言葉に歯噛みし、今は真っ向から争うしかないのだと覚悟を決める。

 刹那、左方から鞭のように尾がしなって飛んでくるのが見えた。

「冥血――魂冥」

(お前達の力を見せてくれ……!)

 反応はない。

 ただ無機物な鋼の塊の感触だけが伝わってくる。

「頼む……お願いだ」

 きっと僕は誰よりも劣っている。

 その事実はどうしても覆らない。

 かつて護ることができなかったこの身だからこそ、力が欲しい。

 転化できたこの力を自分の物にしたい。

 そんな幾つもの昏い感情が渦巻き、胸の内を掻き毟る。刹那、

 バチリ……ッ!

 紅い火花のような光が、刀身から瞬いた。

「う、わ……!」

【れん……!】

 それは不思議な、初めて識る感覚だった。

 自らの意思で刀を振るうのではなく、刀によって腕を振るわされる感覚。

 そして刀身から生まれたのは、今までに見たことのないような赤黒い液体が滴り落ちていた。「なに、これ……」

 呆然と刀を見下ろす。

(ほう)()か! このタイミングで、運のない……!】

 爆花という初めて耳にする単語――。

 それについて深く考えるより前に、腕が勝手に振りあがる。

 紅い液体を滴らせながら眼前に迫っていた蛇の尾めがけ、刀を振り抜くと赤黒い液体が触れた箇所から肉が腐ったような異臭と傷口が爛れていくのが見えた。

 それは紛れもなく、敵意をもっての攻撃に他ならなかった。

「く……っ!」

 直後、つんざくような悲鳴が空間を奮わせた。

 対の蛇のうち白蛇のほうが、僕の攻撃で苦しんでいる――ただそれだけは理解できた。

 けれど、意思とは異なる攻撃に胸が張り裂けそうになる。

「やめ、ろ……」

 一太刀浴びせる毎に、視界が紅く染まる。

 赤黒い液体が刀身に纏わり付き斬り付けると、本来であれば硬質な鱗と筋肉で覆われた白蛇の尾は容易く裂けた。

「……ッ」

 びしゃり、と湿った音をたてて鮮血が頬に散る。

 目の前が真っ赤に染まる。受け入れがたい現実に思考が紅く塗り固められてゆく。

【れん……! しっかりと意識を保て! 此処でお前が暴走したら仲間らが死ぬぞ!】

 死ぬ、という強い警告の言葉。

 そしてそれを発したリツの、普段聞くことのない鋭さを帯びた声に、半ば無理やり現実へと引き戻された。腕が、刀が、身体の主導権を奪おうとするのを無理やり堪え、制御する。

「この……鎮まれ……頼む」

 何が悪かったのだろう。

 冥血と魂冥の意思を汲み取れない歯痒さに情けない気持ちに襲われる。

 けれど、泣いている暇も立ち止まる隙も対の蛇達は与えてはくれなかった。

 空間を奮わせる咆哮と連続で繰り出される攻撃。

 それをなんとか紙一重で躱しながら、蛇の攻撃が届かない場所を捜す。

(他の、二人は……)

 無事だろうかと視線を彷徨わせると、夏生と秋葉さんの二人ともが蛇の攻撃をなんとか防ぎ躱している姿が視界の端に垣間見えた。

「く……っ」

 気づけば腕が操られるような感覚も刀身から滴る血も消えていた。

 代わりに、腕に巻き付くような重い痛みと痺れが残っていた。

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