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裏切り者

(6)裏切り者


武は警察に相談することに決めたものの、少し迷っている。

警察に事実を話すことは、同級生への裏切り行為だからだ。


男の友情は既に崩壊しているものの、密告は男として一線を越える行為だ。

これから何十年もの間、同級生4人には『裏切り者』と言われることになるだろう。


『裏切り者』は戦後世代としては屈辱的な称号だ。

赤紙(臨時召集令状)が届いたのに戦地に行かなかった人たちがそう呼ばれた。


武には男としてのプライドを捨てる勇気が必要なのだ。


武が考えていると、姉の和子かずこが家に帰ってきた。

和子は部屋にランドセルを置くと、武に話しかけた。


「どうしたの?そんな深刻な顔をして」


「別に・・・」と武は和子の問いに対して言った。


「『別に』って武が言う時は、何かあったときでしょ。何があったの?」


武は和子に打ち明けていいものか迷った。

和子が心配してくれているのは有難い。でも、和子があの日の事件のことを知ると命が危なくなるかもしれない。


武は警察に一人で行く間に、容疑者が襲撃してくることを恐れている。

警察には誰かと一緒に行った方が生存確率は上がるだろう。でも、小学生の姉と一緒に警察に行ったところで役に立たない。


それに武が一人で警察に行って事件のことを話しても、警察は真剣に対応してくれないだろう。小学生の言うことを警察が信じるはずないし、子供のいたずらだと思うに違いない。


そう考えると、警察には大人と一緒に行く必要がある。

武の近くにいる大人の中では父親と一緒に行くのが理想的だ。

だが、武の父親はやや性格に難がある。


杓子定規な父親は、武の話を信じてくれるだろうか?

父親は武にあれこれ質問してくるはずだ。きっと長時間尋問されるだろう。


尋問の間、武は父に緊張せずに話せるだろうか?


武が一人で父親を説得するのは難しいかもしれない。

そうすると、母親にフォローしてもらった方がいい。

母親が武の話を真剣に説明すれば、父親も信じてくれるだろう。


父親が帰ってくるまであと1時間だ。

今すべきことは、父親に説明する前に母親に内容を理解してもらうことだ、と武は考えた。


武は台所で夕食の用意をしていた母親の幸子さちこに説明しにいった。

重要な話であることをアピールするために、姉の和子にも着いてきてもらった。


「母さん、聞いてほしいことがあるんだ。すごく緊急で重要な話だ」と武は母親に言った。


「何なの?おこづかいの話?」と母親は武に聞いた。


「違う。警察署に行って事件の内容を話そうと思うんだ。でも、子供が一人で警察に行っても信じてくれないだろ。だから、警察には父さんに着いてきてもらいたいんだ。父親が一緒の方が警察も真面目に聞くと思うから」


「警察なんて、物騒な話ね」と母親は呑気に言った。


「父さんが帰ってきたら事件の内容を説明したいんだけど、僕一人で説明できるかどうか分からない。父さんはいつも僕の話を真剣に聞かないから。だから、僕が父さんに説明する時に母さんからも説明してほしいんだ」


「何かのいたずら?それとも本当の話?」


「本当の話。そして、物騒な話。事件は、殺人と放火なんだ」


「冗談でしょ?」母親は明らかに動揺している。


小学生の息子の『重要な話』は『おこづかいを増やしてほしい!』くらいの話だと思っていたのだろう。少し小学生を侮っていたようだ。


動揺する母親の目を見据えて、武は言った。


「昨日、遠藤主税の家が燃えたのは知っている?」


「さっき買い物にスーパーに行った時に聞いたわよ。武の友達だったわよね?」と母親は答えた。


火事の件はみんな知っているようだ。

武の家からは聞こえなかったが、消防車が来たりして騒がしかったのだろう。


「そうだね。友達だった。じゃあ、遠藤主税が死んだのは知っている?」と武は母親に聞いた。


「死んだの?」と母親は言った。


主税が死んだのは知らないらしい。

警察が口外しないように家族に口止めしているのだろう。


母親は武の話を半信半疑で聞いている。


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