表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/32

猫語

(3)猫語


学校から家に帰る途中、武が畑のあぜ道に入るとあの白い猫がやってきた。


周りに誰かいなくて良かった。猫と話しているのを見られたら、頭のおかしな奴だと思われてしまう。田舎の噂話の拡散スピードは恐ろしい。武が猫と話しているのを見られたら、翌日には町中から頭のおかしい奴だと思われているに違いない。


「だから言っただろ」と白い猫はドヤ顔で言った。


「何がだよ?」と武はとぼけたものの、何の件かは理解している。


白い猫は親切に武の問いかけに答えた。

「だーかーらー、警察に相談しろって言っただろ」


「そんなこと聞いてねーよ。誰に言ったんだ?昭か?聡か?」と武は猫に聞いた。


「おまえはアホか?人が猫と話せるわけないだろ。お前が聞いてなかっただけだ」


そりゃそうだ。猫と話せる人間なんて聞いたことがない。

武は猫と話せるが、なぜ猫と話せるのかは知らない。


「じゃあ、なんで僕はお前の言葉が分かるんだ?」


「前世が猫だったんじゃないか?」と白い猫は無責任に言った。


「本当か?」


「そんなわけねーだろ。この世の中に、前世なんて無い。昔の宗教家が創った設定だ。前世がある方が、物語に幅が出て良かったんだろうな」


「じゃあ、あの世も無いのか?」武は猫に聞く。


「無いね。生物が死んだら無になるだけだ」


「じゃあ、なんで僕は猫の言葉が分かるんだ?」


「俺が知ってるわけないだろ。俺たち猫は人間の言葉を理解している。でも、猫の言葉を理解できる人間はごく僅かだ。お前は理解できるようだが」


「前世が猫じゃなくても?」


「だから、前世なんて無いって言っただろ。そうだ、俺の仮説を教えてやろう。聞きたいか?」


「いい。長そうだから」と武は言った。


「そう言わずに、聞けよ。最後まで聞いたら、お前の他に猫と話せる奴を教えてやるからさ」と白い猫は言った。どうしても話したいようだ。


「分かったよ」武はしぶしぶ猫の話を聞くことを了承した。


「まず、お前は日本語話せるよな。英語は話せるか?」


「話せない」


「なんで話せないか分かるか?」


「分からない」


「ちゃんと英語を聞いたことないからだ。お前は日本語を話せるようになるのに、誰かに習ったか?学校で国語を習うのとは別だぞ」


「習ってないと思う」


「そうだ。お前は日本語を習ってないけど話せる。ちゃんと日本語を聞いていたからだ。生まれてから1~2年間、お前は何も話せなかったけど、ずっと周りの人間の話す日本語を聞いていた。そして日本語の意味を理解したんだ。お前が日本語を話せるようになったのは、周りの人間が話す日本語を聞いて真似したからだ」


「へー。じゃあさ、英語をずっと聞いてたら話せるようになるの?」


「なるよ。英語習得にかかる時間は2,200時間って言われているから、1日10時間英語を聞いてれば220日で習得できる」


「外国人の家に住めってこと?」


「お前頭いいな!ホームステイすればいいじゃん」


「そうかな?」


「そうだよ。ついでに言うと、言語の習得は子供の頃がいい。子供の頃は、脳神経が言語の情報を吸収しやすいんだ。大人になると他の言語の情報は必要ないと脳が判断するから、習得するのに時間が掛かる。まあ言ってみれば、人間の生存のための能力の一部だな」


「へー。お前、猫なのに物知りだな」と武は思わず白い猫に言った。


その瞬間、武は猫の言葉から英語にすり替わっていることに気が付いた。

どうやら猫のペースにはまってしまったようだ。


「それで、英語習得と猫の言葉と何の関係があるんだ?」武は猫の言葉に話を戻した。


「ああ、つい話し込んでしまった。猫の言葉も英語習得と同じロジックだ。要は、猫の言葉も習得するのに一定の時間が必要で、毎日聞いてれば話せるようになるんだ」


「じゃあ、僕は2,200時間も猫の言葉を聞き続けたってこと?」


「そういうことだな。お前は日常的に猫の声を聞いてないか?」


「猫の声か。僕の家は猫飼ってないし・・・。そう言えば、天井裏でよく猫が夜中に喧嘩している声を聞くかな」


「それじゃないか?お前、睡眠学習してたんだよ。毎日、毎日、天井裏の猫の声を寝ている間に聞いてたんだ」


「それで僕は猫の言葉が分かるようになった」


「俺の仮説によれば!」白い猫は自慢げに言った。


「これでお前の仮説は終わりだな。じゃあ、誰が猫語を話せるか教えてくれよ」


「この町には2人いる。タバコ屋さんのおばさんとパン屋のおじさんだ」


「へー、あの2人話せるんだ。今度聞いてみよう」


「それとな、もう一つ教えてやるよ。主税が死んだのは、同級生の一人が家に火を付けたからだ。気をつけろよ!」


そういうと白い猫はどこかへ消えた。


知ってるんだったら、誰が犯人か教えろよ・・・。


それにしても、猫と話し込んでしまったようだ。

辺りが暗くなってきたので、武は団地に向かって走り出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ