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妻の命とクローンの命

(27)妻の命とクローンの命


武は本当の父親がクローン研究者の竹村、本当の母親が竹村の妻のクローンであると聞かされた。

実の母親がクローンと聞いても、武にはあまり驚きはなかった。今日は何度も驚いているから、ひょっとすると『驚く感覚』がマヒしているのかもしれない。


竹村は息子に真実を話す決心をしたようだ。


「僕の妻、つまり君の母親の話を聞きたいかな?」と竹村は武に言った。


「話したければ聞くよ。話したくなければ、話さなくてもいい」


「じゃあ、話すよ」


竹村はそう言うと武の母親の話を語り始めた。


「僕は今から23年前、東京帝国大学(今の東京大学)で生物の研究をしていたんだ。僕が所属していた研究室は生物の細胞を培養して研究していた。妻の信子と会ったのはその研究室だ。信子は僕の1年先輩だった。出会ったときは僕が大学院博士課程の1年目、信子は2年目だった」


「へー。母さんの方が年上だったんだ」


「そうだね。頭が良かったし、美人だったから研究室のマドンナだね。僕以外の学生もみんな狙っていた。僕が信子と仲良くなったのは、僕が信子の研究を手伝ったからだ。信子の研究はクローン技術の前提となる細胞培養についてだった。僕は信子の助手のようなことをしていたんだけど、しばらくして僕たちは交際することになった」


「両親の馴初めを聞くのは、少し恥ずかしいね」


「僕も息子に話すのは恥ずかしいんだ。我慢して聞いてくれ」


「分かったよ」


「交際が開始してから1年が経った頃、信子の病気が見つかった。ステージ4のがんだったんだ。僕は大学院に残って研究を続ける予定だったけど、信子のために山形県の研究所に就職することを決めた。それで、信子にプロポーズしたんだ」


「結果は?」


「オッケーしてくれた。ただ、信子は余命が少ないことを知っていたから、信子が死んだら僕に再婚するように言った。山形県の研究所に移ってから、僕は研究所の仕事をしながら信子のがん治療に役立てるためのクローン技術の研究に没頭した。信子のクローンを作って、がん細胞に浸食された部分をクローンの細胞と置き換えることができれば、信子の癌は完治すると思ってたんだ。頭のおかしい奴だと思うだろう?」


「母さんの病気を治そうとしたんだろ?変じゃないよ」


「僕は最終的に信子のクローンを作ることに成功した。でも、信子にはクローンが完成したことを言わなかった。クローンを何年か成長させた後、その臓器を信子に移植しようとしていたからだ」


「臓器を移植されたクローンは死ぬってこと?」


「そうだね。信子を救うために臓器を取り出したら、クローンは死ぬ。でも、信子がそのことを知ったら反対するだろう。だから、信子には内緒でクローンを育てる必要があったんだ」


「移植は成功したの?」


「いや、移植できなかった。クローンが十分に育つ前に、信子に気付かれた。女性は勘が良いからね」


「母さんは何て言ったの?」


「信子は僕を怒らなかった。むしろ、妻のために世界で初めて体細胞クローン技術を完成させた僕の努力を誉めてくれた。でも、信子はクローンの臓器を移植することは拒んだ」


「なぜ?」


「その頃には信子の癌は末期だったから、全身を移植しても助からないと考えたと思う。そして信子は『その子は私だから、私と同じように愛してほしい』と言ったんだ」


「自分が死んでも、その子がいるから・・・」


「そう。信子のクローンだ。手術が失敗して信子とクローンを両方失うよりも、少なくとも片方クローンを僕に残したいと思ったのかもね」


「それで、僕の母さんは生き残った」


「そうだね。これがマッドサイエンティスト竹村の由来だ」と竹村は静かに言った。



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