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お前と見た入道雲

作者: 北森青乃

 


 ここに来るのは何年振りだろう。

 その場所を眺めるとそんな懐かしさがこみ上げる。

 大学生活を過ごした特別な場所。ただ1つ、そこにお前はもう居なかった。


 でもさ? 今でもはっきり思い出すよ。一緒に入道雲見てた……あの頃をさ?




 初めてお前を見たのは、今日の様な少し肌寒さの残る日。その誰も寄せ付けないって姿は、上京間近だった俺にはかなり特徴的で……印象に残った。


 名前を知ったのも、入学してから少し経った時。仕方ないだろ? お前は自分から名乗ったりしないし。

 とにかく、この雰囲気でそんな優しそうな漢字なのか!? それが俺の率直な感想だったよ。


 肝心の大学生活は順調だった。お前は相変わらず気に掛けても素っ気なかったけど、俺は友達も出来たし、生活費の為にバイトも始めて楽しくて仕方なかったよ。


 でも、すぐに現実を思い知らされた。

 徐々に増える講義の数とレポートの量に時間を取られ、合間をぬってのバイトはきつくて仕方なかった。目の前の事で精一杯で、お前に構う余裕なんて無くなった。


 そしてある日……俺はとうとう限界を迎えた。

 零れる涙。情けない自分。途方もない虚無感。それらが脳裏に過った瞬間、目の前が真っ暗になった。もう駄目だと思った。


 でも、そんな時俺を支えてくれたのは……お前だった。


 その温もりがこんなに心地良いなんて、想像も出来なかったよ。それに口にはしないけど、まるで『無理すんな』って、言ってくれてるみたいでさ? とにかく不思議な感覚だった。


 それからだ、お前との関係が変わり始めたのは。

 相変わらずの姿だけど必要最低限の事はしてくれる。それを知ってからは、自然と同じ空間に居る時間が増えた。意外と拒めないっての分かると調子に乗ってさ? 甘える事も多くなったっけ。一緒に風呂は無理だったけど。

 一緒に見た花火大会。雪化粧。桜の花弁。夏に昼寝しながら入道雲を眺めた時は、実家に居るみたいでさ……出来る事ならずっとこうして居たかった。


 でも、それが叶わないのは知ってた。4年って月日、お前も気付いてただろ? 

 だから最後の瞬間ですら俺をただ見ているだけだったんだろ?


 ……最後までお前らしくて安心したけどさ?




 あれから上手くやってるよ。出張で近く来たから、なんとなく寄ってみたんだ。

 まぁ、さすがにお前は居なくなってたけど、そんなの関係ない。俺は伝えに来たんだ。あの日言えなかった……言葉をさ?


 ありがとう。そして……じゃあな?




 ―――母衣(ぼろ)アパート――




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