二話 勇者の弟というなの冒険者4
お日様が真上まで上ってきたあたりで、依頼された村の近くまでこれた。
「このあたりなんだよね。その、ゴブリンが出てくる場所って」
「そう書いてあるけど・・・・・」
リオンさんはキョロキョロと村の周りを見渡す。
「あ、あれ見て」
リオンさんの指さす方を見ると人型の、だけど確かに人ではない何かが見えた。
「なに?あれ」
それは肌が薄汚れた緑色で、耳と鼻が異常に長く、背は子供の僕より低そうだった。それと何故か頭に鍋をかぶっていて包丁を持っていた。
「あれがゴブリンよ。周りに仲間が居ないのを見ると、討伐対象はあいつで間違いなさそうね」
会話が聞こえたのかどうなのか、ゴブリンは僕たちの方を向いた。そしてどんどん近づい
てくる。
「り、リオンさん。あいつ、近づいてくるよ?」
「私、ノエムくんの実力が見たいなー」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」
リオンさんは聞く耳持たずで、その場から動こうとも構えようともしない。
よくよく考えてみたら、勇者の弟なんて言われて実力が気にならない人なんて居ないよね。でも僕はまだ子供だし、実際兄ちゃんからもたいした事教えてもらってないし。でも事
実として兄ちゃんの弟なんだし。でも、でも、でも、でも・・・・・・・・・・・・。
「私、勇者の弟くんの実力、見てみたいなあ」
「んなああああああああ!わかったよ!戦えばいいんでしょ!」
僕は大声を出しながら背中の剣を抜き、正面に構える。そうこうしているうちに、ゴブリンはもう人一人分の距離にまで近づいていた。
「やあああああああ!」
剣を左肩まで持ち上げそのまま地面を蹴る。そしてすれ違う瞬間に斬り降ろした。だが、ちょうど鍋に当たったのか防がれてしまった。「この!」
そうと分かるとすぐに振り返り、今度は右下から剣を振り上げる。しかしゴブリンは僕の行動を見切っていたのか、同時に振り返って包丁で剣を抑える。
「意外と、強いっ」
ひょろひょろな見た目をしているくせに、僕よりも格段に力がある。時間が経つにつれ剣が地面に近づいていく。
「うっ、くっ」
両手で剣を持つが、それでもやっと動かなくなったくらい。これ以上持ち上げるのは無理
そうだ。
「HTGTKG!」
ゴブリンは謎の言葉を発しながら、包丁に体重をかけるように前へ倒れる。この状況をどうにかする技術も何もなにもない僕は、ただただ耐えることしか出来ない。
「“風刃”」
聞き覚えのある言葉と共に、ゴブリンの背か中から血が噴き出した。
「GAA!?」
あいつは驚きの叫びと共に後ろを振り向く。僕も同じ方向を見ると、訓練場の時と同じようにリオンさんが手を前に出していた。
「AGYAAAAA!!」
ゴブリンが怒り狂ったように、リオンさんに突撃する。しかしそれを難なく躱すと一言。
「“炎槍”」
その瞬間、リオンさんの前に炎で出来た槍が出現した。槍は一度後ろに下がると、一気にゴブリンの腹へ突き刺した。
「A・・・・・・GA・・・・」
僕は何も言うことが出来なかった。自分の魔法以外、今までまともに見たことがなかった。そして、生き物が死ぬ瞬間も。
ゴブリンが血を吐き出すと同時に槍は消え去った。
「すごい」
やっとひねり出せた言葉がこれ。いつも言ってるような気もするけど、本当にそれしか言
えない。
「ノエムくん」
リオンさんは僕を見て、にっこりと笑った。
「帰ろっか」
読んでくださり、ありがとうございます
気のせいかもしれませんが、書き方が変わったような気がします