二話 勇者の弟というなの冒険者2
そう言われ、僕たちはギルド内にある訓練場という所に連れて行かれた。
「訓練場とは、その名の通り冒険者の皆様が剣技や魔法を訓練するための場所です。ですが、最近は実践でなれろ。という方が多いので利用する方はほとんどいませんが」
その言葉通り、僕たちがその訓練場とやらに着いてみると、そこには誰もおらず多分練習台として使われているのだろうカカシが寂しそうに立っていた。
「ではまず、ノエム様から始めましょう」
「はい!」
僕はカカシの前に立つ。
「そういえばノエムくんって魔法とか使えるの?」
「い、一応」
リオンさんの疑問に、すこしためらいながら頷く。使えるには使えるけど、ちゃんと実践で使えるのかと言われれば・・・・・・。というレベル。
「とりあえず、見せてみてください。このカカシに当てる必要はないので」
「あ、はい。分かりました」
ならカカシの前に立つ必要、なかったのか。・・・・・まあ、いいや。
「すう・・・・・・・・はあ」
深呼吸をして、僕は胸元で掌を天に向けた。そして想像する。小さな炎の玉が僕の掌で浮いている事を。想像して、想像して、想像して。その内に掌をむずむずとした感覚が襲う。それと同時に僕は思い切り全身に力を入れ・・・・・・・・そして。
ボワッ!
目を開けると、僕の想像通り石ころ大の炎が浮いていた。
『おー』
それを見た二人は、感心するように声を上げる。
「子供にしては上出来じゃない」
「ええ、充分過ぎる程です」
「えへへ。そ、そうかな」
魔法なんて両親にしか見せたことがなかったから、他の人に褒められるのはちょっと恥ずかしい。
「他の属性は・・・・・・流石に使えないわよね」
「うん。なんなら炎属性もこれしか使えないよ」
魔法というのは炎、風、水、土、雷で分けられている。簡単に言ってしまえばそれが属性というものだ。その中でも僕は炎属性しか扱えない。だって勇者になった兄ちゃんはそれし
か使わなかったから。
「では次にリオン様」
「はい」
しかしリオンさんは何故か、カカシとは真逆の方向に歩いて、立ち止まった。
「ノエムくん。そのなとこにいると危ないわよ」
「え?わ、わかった」
言われたとおりカカシの前から離れるが、改めてみると、それとリオンさんの距離は大体五メートルくらいかな?離れていた。
「そんな遠くで大丈夫なの?」
「これでも近いくらいよ。魔法使いなんて、遠くにいないとただの的なんだから」
なるほど。兄ちゃんが居なくなってから、近くに魔法を使う人が居ないのもあって知らなかった。
「よーし」
リオンさんは大きく伸びをして、自分の腕を前に突きだした。
「“風刃”」
スコン!
リオンさんが呟くと、次の瞬間カカシの方からそんな音がした。
当のカカシを見てみると、僕の胴体くらいの大きさはあるはずの腹が、半分ほど切れてい
た。
「すごい・・・・・・」
何が起きたのか分からなかった。多分風の魔法だろうから目で見えないのは仕方がないのかもしれないけど。
「リオン様は申し分がなさそうですね。素晴らしいです」
「ありがとうございます。でも、たいした事ないですよ、こんなの」
褒められたのに、すこし不満そうな顔をするリオンさん。・・・・いや、違うかも。僕と初めて会ったときの、あの嫌そうな顔だ。「ま、とにかくこれで実力は分かったんですよ
ね。それで、次はどうするんです?」
しかしやっぱりというかなのというか、次の瞬間にはそんな雰囲気のかけらもなく、いつものリオンさんだった。
「次はこちら側が用意した依頼を受けてもらいます。リオン様が居るのであまり難しい物ではありませんが、頑張ってくださいね」
お姉さんも何か気にした様子もなく、そう言った。・・・・・・やっぱり僕の気のせいなのかなあ。