一話 勇者の弟は冒険者になるため旅に出る2
リオンさんに付いて歩いていると、さっきまで普通の服の人が多かったはずが、知らない間に鎧や不思議な色をしたローブに身を包んでいる人をよく目にするようになった。
「さて、やっと着いたわよ」
「ここが、冒険者ギルド?」
他の建物が木造なのに対して、ギルドは何故か石造りだった。
「なんで石造りの建物なの?」
「さあ?丈夫だからじゃない?というかよく石造りなんて言葉知ってたわね」
変な所で関心されながら、建物の中へ入っていった。
「あんまり人いないね」
ギルドの中は何人か冒険者っぽい人と受付のお姉さんだけだった。
「ちょうどいいじゃない。すぐ登録出来るんだから」
「そうだね」
リオンさんの言葉に頷きながら、一緒に受付の所へ行った。
「あの、すみません。冒険者の登録に来たんですが」
「冒険者の登録ですね。少しお待ちください」
リオンさんが声をかけると、受付のお姉さんはすぐに対応してくれた。というか、受付の台が高すぎて全然前が見えない。
「お待たせいたしました。ではまず、ご登録される方のお名前とご年齢を教えてもらって良いですか?」
「えっと、私はリオンです。十八歳です。それと、この子が」
「ノエムです!十歳です!」
手を上げて名乗る。お姉さんは僕の存在に驚いていたようだったけど、すぐに笑顔になっ
た。
「リオン様とノエム様ですね。お二人はご姉弟ですか?」
「いえ、違います」
確かに端から見たら僕たちは姉弟に見えるだろう。お姉さんもそう見えたのかな?
しかし僕の想像とは違い、お姉さんはこんなことを言った。
「では、リオン様はノエム様の保護者ではない。と言うことでよろしいですか?」
「はい、そうですが・・・・・・」
「それでは、ノエム様はご登録することは出来ません」
「なんで!?」
僕はそう言って、顔だけ台から出るように背伸びした。
「原則として、十五歳未満の方がご登録する際には、保護者として十五歳以上の方とご一緒に登録し行動してもらう事となっております」
「・・・・・・」
助けを求めるようにリオンさんを見るが、彼女は片手で顔を押さえ、うつむいていた。完
全に忘れてたって顔だ。
「申し訳ございません」
お姉さんは沈んだ声でそう言った。
僕は背伸びを止め、台に正面からもたれる。 あと五年。僕が冒険者になれるまで、あと
五年かかる。その間に兄ちゃんはどうなるだろう。もしかしたら魔王にやられちゃうかもし
れない。もしかしたら魔王は倒し終わっていて、約束を守らなかった僕を突き放すかもしれない。
考えれば考えるほど嫌な想像がわき出てくる。どうしようどうしようどうしようどうしよう。
「・・・・・・はあ」
不意に、真上から何度も聞いたため息。
「あの、姉弟じゃなくても保護者ってなれます?」
「ええ、問題ありません」
ため息の主は僕の頭の上に手を乗せた。
「じゃあ私、この子の保護者になります。それなら問題ないですよね」
あのときの兄ちゃんみたいな手つきで僕の頭を優しくなでながら、リオンさんはそう言った。
あれからなんとか登録は済んだ。詳しい説明は明日になると言われ、二人分の応援金をもらい、宿へ向かった。ちなみに応援金の中身は銅貨五枚と銀貨二枚。一応その上に金貨というものが存在するが僕は見たことがない。
宿に着き部屋を借りると、リオンさんは真っ先にその部屋に行きベッドへ仰向け
に倒れ込んだ。
「やっとベッドで寝れるー! やったー!」
本当に同一人物かを疑うほどベッドではしゃいでいた。
「ねえ、リオンさん」
しかし、僕にとってはそんな事よりも重要な事があった。
「ん?」
「ほんとに、よかったの?さっきの」
「保護者のこと?」
「・・・・・うん」
リオンさんのおかげで僕は冒険者になれた。その事に感謝はしている。だけど。
「リオンさんも、目的があって冒険者になったんだよね」
「そうね」
やっぱり。僕は余計に気分が沈み、うつむく。
「なら、僕がいたら邪魔になると思うんだ」
どれだけ頑張ったって、僕はまだまだ子供だ。それは自分が一番よく分かっている。リオンさんが居なければ、王都にすらたどりつけなかったんだから。
「かもね」
「なら!」
分かっているならどうして!とリオンさんを睨み付けようと顔を上げると、彼女は知らぬ間に上半身だけをベッドから起こしていた。「君のことを放っておけばよかったの?」
「それは・・・・・・」
自分の事だけを考えるなら素直には頷けないし、だからとい言ってそれを「うん」とも言えない。
「私ね、国一番の魔法使いになりたいの」
リオンさんはいきなりそう言ったが、僕は口を挟まず聞くことにした。
「でもね、そんなの沢山沢山努力すればなれるものだって、私は思ってるの。そんな簡単な話じゃないかもしれないけどね」
彼女はそう言って笑い、そのまま優しい声で話し続けた。
「それでもし、私の夢が叶って国一番の魔法使いになれたとしてよ?その人が、すごく悪い人だったら嫌じゃない?」
「悪い人?」
「そう。迷子の子供なんて放っておいて、本当に困ってる人も見捨てる。ただ表面上の名誉と自分の強さだけに満足してる魔法使い」
「嫌だな人だ」
「でしょ?私はそんな魔法使いにはなりたくないの。だからノエムくんを助けたことも、私の夢の大事な一歩目なの」
言い終えると、もう一度ベッドに倒れ込んだ。
「つまり、私もノエムくんもお互いがお互いの夢のために必要って訳よ。わかった?」
「・・・・・・分かった」
それはそれでどうしてそんなに優しい人になりたいのか、という疑問もあるが、今は聞くのを止めた。
「よし。じゃあこれで真面目な話もお終い。明日かられっきとした冒険者になるんだから、早いうちに休まないとね」
「うん!」
そうして、僕に初めての仲間が加わった。
優しい優しい魔法使いという仲間が。