79.テロ騒ぎを鎮圧できないのでは政府の求心力は落ちる一方というわけか。
ハンナさんに案内された俺たちは客間へ。
「部屋はあまってるけど2人一緒の部屋でいいの?」
もちろんである。
俺にはイモを守る義務がある。得体の知れない海外。イモを1人にできようはずがない……というよりURギフトのイモと離れては俺が危険である。1人となった俺は平凡な高校生。いつ死んでもおかしくない。
「それじゃ明日の朝に迎えに来るから。おやすみ」
しかし……今日は疲れたぞ。
ぐったりベッドに倒れる俺とは異なり、イモは部屋をうろちょろ探索して回っていた。
「うわー。おにいちゃん。この部屋お風呂があるよー」
ふむふむ。省庁の客間というだけあって豪華である。本来は俺たち学生が泊まれるような部屋ではないのだろう。
「はい。おにいちゃん。コーラがあったよー」
ベッドで寝転ぶ俺の隣に座り込んだイモは、手に持つコーラの瓶を俺の頬に押し当てた。
冷たい。というか何処にあったのだ?
「冷蔵庫の中だよ。プリンにケーキ。冷凍庫にはアイスクリームもあったよー」
すげえ。というか無料でもらって良いのだろうか?
後で冷蔵庫の中をチェックして請求されないよな?
「でもやっぱ外国は凄いね。いきなり銃を撃ってきたりスリル満点だよ」
いやいや。満点すぎるだろう。
初めての海外。ハンナさんが案内してくれるというからホイホイ付いて来たが、こんなに危険だとは思わなかったぞ。
「んー。失敗じゃないよ? だっておにいちゃんと一緒にこんな豪華な部屋に泊まれるんだもんねー」
イモはリモコンを操作してバカデカイ大きさのテレビを点けた。
「ペラペラペーラ。ペラペーラ」
さすがは海外。テレビ音声も聞き取れなければ日本語字幕もありはしない。
「あー。イモたちが襲われたことニュースになってるよ! 街中でのテロ行為に警察は何をやってるんだーって怒ってるみたい」
ふむむ。テロ騒ぎを鎮圧できないのでは政府の求心力は落ちる一方というわけか。
「しかし……驚いたぞ。イモのギフトが外でも使えるとは」
「うん。なんでか使えるんだ。でもダンジョンに比べれば3割くらいかなー?」
3割とはいえ有ると無いとでは大違い。
ハンナさんはイモに協力して欲しいと言っていた。
俺にではなくイモに言ったということは、ダンジョン外での協力が欲しいということ。
思えば最初にアメフト親父が俺に近づいたのも、俺のギフトをURだと誤解しての接触。
まさかテロ組織を捕まえるのに協力しろとでも言うのだろうか?
だとしても、イモを危険に巻き込むわけにはいかない。
異国の番組が物珍しいのだろう。リモコン片手に何やらチャンネルを切り替え切り替えテレビに夢中となるイモの姿は、まだまだ幼さの残る普通の中学生でしかない。
ハンナさんには悪いが、オリジン国での出来事はあくまでも他人事。日本に住む俺たちには関係のないことであり、俺にできる協力はダンジョン内に限られるのだから。
・
・
・
バタン。荒々しく高級乗用車に乗り込むグンジー委員長。
「ええい。くそ生意気なガキどもじゃ! 腹立たしい」
わめき散らすグンジー委員長に対して、後部座席に座る男が静かに口を開く。
「今晩の襲撃は貴様の独断専行。貴様の失敗で首都の警備レベルが上がったアルぞ?」
「し、しかしじゃな。あの生意気なハンナが日本人を連れて来たというなら襲うしかないじゃろ?」
黒いスーツを着込んだ年若い男。あきらかに年下を相手にグンジー委員長は卑屈に腰を屈める。
「URにはうかつに手をだすな。そう言ったはずアル」
「しかしじゃな……じゃあどうするつもりじゃ? お里が知れるなど、ワシだけでなく茶位帝国まで馬鹿にしおったのじゃぞ」
「何も焦る必要はないアル。今までどおりテロとデモで人心を煽れば良いアル。民主平和党では駄目だとな」
「しかしじゃな」
「グンジー。お前は茶位帝国の指示に従っていれば良い。脳みそのない頭で勝手に動くなアル」
目的地に着いたのだろう。年若い男は1人で車を降りると、ビルの中へと消えて行った。
「なんじゃい。ワシは将来のオリジン大統領じゃぞ。たかが本国の使い走りが偉そうにしおって」
腹立たし気に座席を殴るグンジー委員長を気づかうよう運転手が問いかける。
「どうしますか?」
「ヤルに決まっておろうが。あの小娘に好き勝手させたおかげで、日本とインフラ整備の締結、さらにはダンジョン協定まで結ばれたのじゃぞ? 日本企業が多数来れば景気は上昇。民主平和党の支持は、うなぎ登りじゃ」
「しかし」
「あのガキの片割れ。妹のほうはダンジョンに初めて入ると言っておったのう……狙うのはダンジョン内じゃ。あやつらを、SSR部隊を向かわせるのじゃ」
「しかし先ほどURには手出しするなと……」
「ダンジョン内で何が行われようがモンスターの仕業。ワシのしったことじゃないわい。URじゃか何じゃか知らんが、素人の小娘を庇いながら戦えるものか」




