76.さすがは海外。平然と銃が登場しやがる。
突然の衝撃に俺は座席につかまり直す。
「ファック! タイヤを撃たれた。速度を保てないぜ!」
「チッ。アタシを見張っていたやつが居たようね」
撃たれた?
撃たれたということは銃で撃たれたということか?
いったい全体何がどうなっているのか?
「省庁ビルまで持ちそうなの?」
「これは防弾車ですから大丈夫かと……でも援護があれば助かるぜ」
運転手は銃を手に後部座席の俺たちに差し出した。
さすがは海外。平然と銃が登場しやがる。
「いや。無理だから。銃なんて撃ったことないから」
「取って構えて。それだけでも牽制になるわ」
いつの間にか俺たちの車の横には、黒塗りのゴツイRV車が幅寄せしようと迫っていた。
嫌な予感は当たるもの。どうやらトラブルへの巻き込まれが確定したようだ。
「私もお兄様も銃を取り扱ったことがありません。少しで構いませんのでレクチャーしてもらえませんか?」
イモは運転手の差し出す銃を手にハンナさんに問いかける。
「そこの安全装置を外して。後は引き金を引くだけで良いわ」
寄せるRV車から身を乗り出した男が大型の銃を発砲する。
ズダダダダダダダ
げっ!? あれは機関銃か?
連続して銃弾が命中したサイドガラスには、蜘蛛の巣のようにヒビが走っていた。防弾ガラスとはいえこれでは持つはずがない。
いったい首都の警備のどこが厳重なのか……文句の1つも言いたいところだが……今、言うべきことはただ1つ。俺もイモも。こんなところで死ぬわけにはいかないということ。人だろうがモンスターだろうが……襲い来るならぶっ殺すまでの話。
俺は運転手から拳銃を受け取り安全装置を外した。
ガシャーン
防弾ガラスが機関銃の連射に耐えかねたように撃ち破られる。
「身体を低くして!」
必死に頭を下げる俺の頭上を何かが空を切り通過する。
まさか銃弾が掠めたというのか?
ズダダダダダダダ
銃声が途切れると同時。
俺は身体を起こして窓から銃口を突き出した。
5メートル隣に並走するゴツイRV車。
その窓には機関銃が玉詰まりしたのか、何やら弾帯をガチャガチャいじる男の姿が見えた。
相手の車の窓は開いたまま。チャンスである。
確かに俺は銃を撃ったことはないが……それは本物の銃の話。スマホのバトルロイヤルゲームでは幾度も銃を撃っているのだから……ここは当てる!
「死にさらせええええ!」
パン
発砲の瞬間。その反動に俺の腕は跳ね上がる。
げっ!?
俺が撃ったはずの銃弾はどこへ飛んでいったのか?
一瞬だけ車体に火花が散ったということは、狙いを外れてRV車のドアに当たったか?
思った以上の反動。素人がいきなり人を狙い撃つなど土台が無理な話である。
「バカ! 何が死ねよ。銃口がブレるに決まっているでしょ! 撃つ時は呼吸を止める。常識よ」
マジかよ? ゲームではいくら叫ぼうが問題ないというのに。
相手の銃口がこちらを向くと同時。
ズダダダダダダダ
再び座席に倒れ込む俺の頭上を銃弾が通過する。
ひええ……これでは牽制にすらなっていないのではないか?
続いて鳴り響く銃弾は車体側面。
こちらの車を破壊するつもりか?
身体を屈めた俺たちに対して、相手はこちらの車体に銃弾を撃ちこんでいた。
いくら防弾車とはいえ、これ以上に撃ち込まれてはマズイ。
パン パン パン
銃撃の間隙を突いてハンナさんが素早く発砲する。
その銃弾は黒塗りゴツイRV車の後部に命中していた。
あのゴツさから相手のRV車も防弾車。先ほど俺の銃弾が弾かれたように、いくら撃とうが拳銃では無理である。俺たちが狙うべきは防弾仕様の車体ではない。相手の射手。俺たちを撃とうと身体を乗り出したその瞬間にある。
こちらの銃手は3人とはいえ2人は素人。頼りはハンナさんだけだというのに……
ボカーン
「え?!」
突如。黒塗りゴツイRV車の後部が火を吹き爆発する。炎に包まれ制動を失ったRV車は速度を落とし後方へ流れ去っていった。
「ハンナさんの銃……何か特別な銃なのか?」
「アンタたちと一緒。ガソリンタンクを狙い撃っただけよ」
なるほど。引火、爆発したというわけか……だとしてもだ。防弾仕様であるゴツイRV車の装甲を貫通したというのは不思議である。
俺の銃に関する知識はゲームで得た程度であるが、たかが小さな拳銃で防弾装甲を貫けるとはとうてい思えない。
「それより、もう1台が来てるわよ!」
ズダダダダダダダ
俺の座る反対側。運転席の方向から銃声が響き渡る。
ちっ! 助手席に座るハンナさんからも反対側。
運転手に銃を撃つ余裕はなく、その後ろに座るのは虫すら殺すに躊躇する心優しく可憐なイモの姿だけ。
「イモ。座席を代わってくれ。俺が撃つ」
同じく座席に伏せるイモと入れ替わろうとするその時。相手の銃撃が音を止めていた。
入れ替わるより先に攻撃のチャンスが来たか!
ならばと身体を起こす俺より早く、イモが身体を起こすとその両手に拳銃を構えていた。
キキー
発砲の寸前。ちょうどカーブに差し掛かったのだろう。
「うおっ?!」
突然の急ハンドルにバランスを崩した俺が座席に崩れ落ちるなか、銃を構えるイモの身体はピクリとも動かない。
パン パン パン
3度の発砲音が鳴り響き、RV車を乗り出し機関銃を構える男の額から。右肩から。左胸から赤い血が迸る。
「ワオ! イモさん。やるじゃない!」
マジかよ……イモのやつ。あれだけ車体が揺れる中、初めて撃つ銃で狙ったというのか?
射手を失ったRV車は追跡を諦めたのか、後方へと離れていくが。
パン パン パン
さらにもう3発。窓から身を乗り出すように発したイモの弾丸その全てが、遠く離れるRV車のタイヤを正確に撃ち抜いた。
ドカーン
制動を失いガードレールに衝突。炎上するRV車。
「ハンナさん。この銃。狙いより少し左に逸れています」
興奮する俺をよそにイモは淡々とハンナさんに告げていた。
「あのさあ……アンタの妹って軍隊か何かに入ってた?」
なぜかコソコソ小声で俺に耳打ちするハンナさん。
「いや。イモは可憐な向日葵。軍隊なんて汗臭そうな集団に入ったりしないぞ?」
そもそもが他国はどうか知らないが、日本で14歳の女子中学生が軍隊に入れるはずがない。それは同級生であるハンナさんも知っているはずだが。
「やっぱそうよね……ということは……あー。この場にパパがいないのが悔やまれるわ」
「お兄様。何をコソコソ話しているのですか?」
いや。何かハンナさんが小声なもので釣られて俺も小声になっただけで何もやましい話はしていないわけだからして冷たい目線はやめてください。
「イモさん」
「はい?」
「アナタ……URギフトを保持してるでしょ?」




