表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/87

75.いよいよ俺たちは海外へ出発する。

6月上旬。


「ただいまー」


「おにいちゃん。お帰りー。早く急ごー」


学校からダッシュで帰宅した俺は、速攻で着替えを終えると荷物を手に家を出る。


今日。金曜日の夜から土、日を利用して、いよいよ俺たちは海外へ出発する。


「アンタたち。もしかして荷物それだけ?」


駅で合流。電車に乗ったところで俺たちの姿を見たハナさんが声かける。


「まあ2泊だから良いけど、海外旅行なめてない?」


舐めているわけではないが……同じく空港を目指す他の乗客みんなスーツケースを抱えるなか、俺とイモはそれぞれスポーツバッグを1つだけ。


「まあまあ。ハンナさん。お兄様には秘策があるのです」


「秘策って何よ?」


何よと聞かれましても、隠すからこその秘策である。


「何を考えてるのか知らないけど、日本みたいに治安が良くないんだから勝手なことしたら死ぬわよ?」


「分かった。よろしくお願いします」


初めての海外旅行。ハンナさんだけが頼りであるため、全面的に従わせていただく。


空港。手荷物検査の後、いよいよ飛行機へと乗り込んだ。


「こんなデカイのが空を飛ぶというのだから凄い時代になったものだ」


「アンタ。飛行機ぐらいで大げさね。いつの時代の人間よ」


「お兄様。4時間のフライトだそうです」


映画が2本くらい見れそうだ。せっかくだし何か見てみるか。


「それならお兄様。こちらの映画がお勧めです」


なになに……兄妹による禁断の愛を描いた問題作か。なかなかに興味をそそる題材である。


「禁断だろうが何だろうがアタシの知ったことじゃないけど、映画の前にオリジン国の説明をするわ」


オリジン国の文明レベルは昭和末期程度であることなど、多少の下調べはしているが、実際に暮らすハンナさんの口から教えてもらえるならそれに越した事はない。


「そもそもオリジン国の始まりは、紀元前の遺跡がアレコレで大航海時代にソレコレで……」


マジかよ? これでは日本を語るのにイザナミイザナギから説明するようなもの。こう言っては悪いが、俺が知りたいのは現在の治安についてのみ。オリジン国の成り立ちに興味はないのだが……


「ハンナさん。オリジン国の歴史は私もお兄様も事前に勉強しましたので十分に存じています。今は現在の情勢についてだけ、お聞かせいただけないでしょうか?」


ナイスだ。イモ。


「そう? ここからが良いところなんだけど?」


「はい。島を占拠せんと迫る西欧船団に対して、オリー総督が島の漁船を集めて戦ったという逸話ですね。せっかくの武勇伝。出来ればもっと時間のある時に詳しく聞きたいと思います」


「そう言われてみればそうよね。分かったわ。それじゃ、とりあえず今の情勢だけね」



オリジン国は議会制民主主義の国。


現在の政権与党は民主平和党で、政策として自由平和平等を掲げている。


しかしわずか6年前までは独裁軍事党が支配する独裁政権であった。民主主義とは名ばかりの不正、贈賄、暴力が横行しており、抗議のデモ隊と軍部の武力衝突が日常茶飯事となる闇の時代。


国連の選挙監視団が監視するなか行われた国民投票により、民主平和党が圧勝。政権交代と同時に独裁軍事党は解散。


その勢力は消滅したものと思われていたが、近年、再びその名が表に表れるようになっていた。


民主主義に未来はない。現政権を破壊、急成長を遂げる茶位帝国の庇護下に入り国を発展させるという主義を掲げて。


その主義に感化されたのか、直接的な暴力に走る集団が現れるまでになっていた。




「つまりは政府に対するテロが横行していると?」


「……平たくいえばそうね。でも、あくまでも地方の話よ。首都の技術レベルは日本にも引けは取らないし警備は厳重だから心配いらないわ」


4時間後。無事にオリジン国の空港に到着。

入国手続きの後、俺たちは首都であるオリジン市に降り立った。


時刻は夜の21時。

海外旅行は日本との時差ボケに注意とあるが、それは遠方の国へ行く場合の話。オリジン国と日本との時差は1時間で何ということはない。


「こっちよ」


ハンナさんが手招きする先に高級そうな車が1台。

その助手席にハンナさん、後部座席に俺たちが乗車する。


「ハンナさん。行き先はどちらですか?」


「外務省ビルよ。客間を1つ取ってあるから」


マジかよ。宿の手配は任せて欲しいというから従ったのが、まさか省庁ビルが宿泊先だとはな。


「……ちなみに宿泊代金は?」


「無料……と言いたいところだけど予算不足なのよね。1万円で良いわ」


「それは格安です。ラッキーでしたね。お兄様」


うーむ。ダンジョンに入る手助けだけで良いのだが……


心配性な俺としては官公庁の世話になるというのが気にかかる。政府に対するテロが横行しているという中、政府に関わるのは危険な気がするのだが……


パアンッ


俺たちの乗る高級乗用車。

突如、その車体下方から音がしたかと思うと、車体を揺らし速度を落としていた。


「な、なんだ!? なにごとだ?」


突然の衝撃に俺は座席につかまり直す。


「ファック! タイヤを撃たれた。速度を保てないぜ」


「チッ。アタシを見張っていたやつが居たようね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ