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73.助田は転校だ。

5/10(金)


週末。花金である。


「ホームルームを始めるぞー」


「せんせー。助田すけたくんはどーしたんすか?」


「助田は転校だ。親御さんの仕事の都合で急遽、決まったそうだ」


放課後。


「助っちさあ。挨拶もなしに転校とか薄情すぎっしょ?」


「そうっすね。俺らも初めて聞いたっす」


「もう自宅に居ないのかな? 最後に挨拶しておきたいよね?」


「住所なら学級名簿で分かりますわよ」


助田。ああ見えてなかなか人望があったようで、助田のお供の男子生徒2人と只野(ただの)さん、佐迫(させこ)さん、賀志古(かしこ)さんで、自宅へ挨拶に向かうという。羨ましい。


「羨ましいじゃありませんわ。城さんも行きますわよ」


いや。俺はこの後は品川ダンジョンへ行く予定なのだが……


「そんなこと言わずに。最後なんだから一緒に行こうよ」


ふむむ。助田はどうでも良いが、地味に可愛い只野さんに頼まれては断りづらい。

そんなこんなで俺を含むクラスメイトが6名。ゾロゾロ助田のマンションにやって来た。


ピンポーン


「うーん。反応ないね」

「もう引っ越し終わった感じ? 助っち早すぎ」


マンション入口はオートロック。

ロビーから先に入れないとあっては、これ以上どうしようもない。


その時。オートロックの自動ドアが開き1人の女性が歩き出て来た。


「あっ。ちょうど入れるじゃーん」

「駄目だよ。勝手に入ったら怒られるよ」

「いえ。それよりも……彼女。ワンさんじゃないかしら?」


出て来たのはチャイナドレスを来た派手な美少女。

俺は1度見ただけだが、確かにワンさんに見える。


「あのー。ワンさん?」


「ホワッ? ア、アイヤー?!」


一瞬、驚いたような顔をした少女は、その後すごい勢いで何かを話し始めた。


「ペラペラペーラアル」


「ちょっ? あたし外国語は無理だってば」

「わ、私も無理。これ分からないよ」

「これは……英語ではないですわね。茶威語かしら?」


「オーウ。ペラペラペーラアル。バーイ!」


最後に彼女は手を振り、そそくさとマンションの外へ消えて行った。


「もー。何を言っているのか意味不明って感じ?」

「ワンさんじゃなかったのかな?」

「まるで私たちのことを知らないような振りでしたわ」


俺はともかく、他の人とは一緒にダンジョンに入った仲。

それしにしては、まるで他人行儀な話しぶりであった。


「あら? 彼女、何か落としましたわよ?」


しゃがみ込む賀志子さんが地面から拾い上げる。


「何かしら? ボタン?」

「大変。彼女、服のボタンが外れたのかな?」

「いや。これ学生服のボタンっすよ。ほらこれ」


男子生徒が自分の学生服を指さした。


確かに。俺も自分の学生服を見れば、同じボタンが着いていた。


「どうしてうちの高校の。それも男子の学生服のボタンを持っていたのかな?」

「やっぱり彼女。ワンさんだったんじゃないかしら?」

「もー。やっぱり意味不明って感じ」


結局。何の収穫もないまま俺たちは助田のマンションを後にする。


「助っちいなくなったし、ダンジョンどうしよ?」

「私たちだけだと危ないよね?」


「そっすね。俺らは帰るっす。怪我したくないっすから」


助田のいなくなった今、助田のお供2人はダンジョンに入るつもりはないようで、そのまま別れ帰宅していった。


「それじゃ俺はダンジョンに行きます」


「お待ちなさい。わたくしたちも行きますわ」


まあ、それは構わないが。


「え? 私たちも行くの?」


「もちろんですわ」


佐迫さん、只野さんも行くのか?


「うちも行く。モンスター殴るのちょっと楽しくなってきた感じだし?」


「えーと……暴力は駄目だと思うけど……」


「まーまー。それより……賀志子っち。城っちといつの間に仲良くなったの?」


「な、な、何を言っているのかしら。それより只野さんこそ行くべきですわよ。せっかく良いギフトですもの。生かさなければ勿体ないですわ」


「うう……2人が行くなら私も行く」


そんなこんなで品川ダンジョン。


「でも助田くんいないし……誰が盾役やるの?」


「うちはパス。痛いの嫌って感じ?」


ちょうど今日はこれを試したかったことだし丁度良い。


「俺がやります。ほら。これを持って来たから」


俺はリュックから自宅ダンジョンで手に入れたゴブリン王の盾を取り出した。


「おー! ちょー準備いいじゃん!」


「それじゃモンスターを釣ってきますわ」


賀志子さんは腰からクロスボウを取り出し構えて見せる。


「賀志子ちゃん凄い。いつの間に用意したの?」


「パパにねだって買ってもらいましたの」


普段はダンジョンの武器ロッカーに預けているという。

受付の後でロッカーに寄っていたのはそのためか。


「それならほら。うちも用意してきたって感じ?」


そう言って、佐迫さんは右手に木刀。顔には白マスクを着けていた。


「木刀は分かるが……病気でもないのに何故にマスク?」


「女子が喧嘩するなら木刀に白マスクが定番じゃん。パパがそう言ってたって感じ?」


……それは昭和のスケ番の話ではないか。

そもそもがスケ番だというなら膝上ミニスカートは駄目である。


「えー? ミニの方が可愛いっしょ?」


はい。

といいますか……賀志子さんはジャージに着替えた上に何やらプロテクターを着けているが、佐迫さん只野さんは制服のまま。つまりはスカート姿なのだが……大丈夫なのだろうか?


「うう……ダンジョン行くって聞いてたら私も準備したのに……」


周囲から浮いている自覚があるのか、何やらモジモジ可愛い只野さん。

後衛だから大丈夫だろうが……前衛として激しく動き回るであろう佐迫さんは良いのだろうか? その、チラリとか。


「もち。可愛いっしょ?」


はい。

となれば絶対に怪我させるわけにはいかない。

もしも怪我してスカートでの参加がなくなれば。

プロテクターなど着けられては俺の眼福が失われる。


「賀志子っちがモンスターを釣って、城っちが抑える間に、うちがモンスターを叩くって感じ?」


「私はいつも通りバフで援護だね」


前回クラスメイトと一緒にもぐった時に、助田が担当していた役割を俺が埋めるわけだ。


近くをポヨポヨ跳ねるアメーバ獣に賀志子さんがクロスボウを狙い撃つ。


ズドッ


命中。突然の攻撃に怒ったアメーバ獣は、身体にボルトを生やしたまま、こちらに跳ね飛びかかって来た。


ガキーン


俺は左腕に固定した盾でもって、アメーバ獣の体当たりを受け止め跳ね返す。


地面に落ちたアメーバ獣。

すかさず佐迫さんが木刀で殴りつけ、賀志子さんが槍で突き差し止めをさした。


「やっり! 助っちいなくてもイケルじゃん」


地下1階。アメーバ獣相手なら当然といえる。


「じゃーいつもの地下2階へ行っとく?」


助田と一緒の時は地下2階で狩りをしていたというが……早くないか?

地下2階の推奨LVは5。パーティを組むのであればもう少し低くても行けるだろうが……


「みんなはLVいくつになった? 地下2階はけっこう危ないのだが?」


「わたくしは3ですわ」

「あの。私は2です。ちょっと危ないかも?」

「え? うちも2だけど、前に助っちと行った時は楽勝だったじゃん?」


それは助田のギフトがSSRの聖騎士だからである。

攻略読本にある推奨LVは、最も人数の多いNギフトを基準に書かれている。


「じゃあ大丈夫っしょ? 城っちも賀志子っちも良い装備あるしー。うちはRの剣士で只っちなんてSRの強化魔導士だし」


SRならまだしも、Rギフトは自慢するほどのギフトでもない気はするが……

せっかく本人が剣士を気に入っているのだ。わざわざ気分を害する必要もないか。


要は俺が盾でもってモンスターを抑え込めば済む話。

もしも危なくなった場合も、暗黒デバフを打ち込めば良いだけだから楽勝である。



地下2階。狩場では今日も大勢の探索者がモンスターを相手に戦っていた。

俺たちもその一角、狩場の隅に陣取りモンスター退治を開始する。


「釣ってきましたわよ」


クロスボウを手に、こちらへ走って逃げる賀志子さん。

その背後から額にボルトを生やしたイノシシ獣が追いかける。


イノシシ獣。

突進しての体当たりが最も注意するべき攻撃である。

つまり、その突進を抑えることができれば勝ったも同然であるのだが……


ドドドド


凄まじい勢いで走り来るイノシシ獣。怖い。


うむむ……いくら盾を持ったとはいえ、後衛ギフトの俺で大丈夫なのだろうか? だがこの先さらに地下奥深くへ進もうという俺が、たかがイノシシ相手にびびってどうするという。


「よし……来い!」


走り込む賀志子さんと入れ替わり、俺は盾を構えてイノシシ獣の進路に立ちふさがる。


俺が手に持つ盾はゴブリン獣キングのドロップ品。ゴブリンとはいえ仮にも王の持つ盾。それなりの防御力はあるはずだ。


ガシーン


激突の瞬間、イノシシ獣を受け止める盾が淡く輝いた。


何らかの魔力が働いたか?

俺の魔力が盾に吸い取られるのを感じる……などと冷静に解説している場合でない。


「ぐほあー!?」


軽トラックにも匹敵するというイノシシ獣の突進。

盾を構えたまま俺の身体は吹き飛び宙を舞うが……


「むぐぐ……こなくそが!」


空中で態勢を立て直し足から着地する。

必死に盾を構えて向き直る俺に対して、イノシシ獣は痛みに顔をしかめ動きを止めていた。


鋼鉄の塊である盾に衝突したのだ。

痛くて当然。だが、それだけではない。


衝突の瞬間、ゴブリン王の盾が輝いたのが影響しているのか? 受けた衝撃の一部を跳ね返したように見えたが。


とにかく。


「チャンスって感じ?」


ズドカッ


背後に控える佐迫さんが木刀でもって殴りつける。


「わたくしも」


ズドスッ


続いてクロスボウから槍に持ち替えた賀志子さんが突き刺した。


「イノー!」


痛みに咆哮を上げるイノシシ獣。


だが……浅い。

イノシシ獣の表皮はぶ厚く固く致命傷にはほど遠い。


どうする? デバフを入れるか?


暴れ振り回される牙を、俺は盾でもって受け止める。


ガーン。カキーン


瞬間、淡く輝く盾に触れたイノシシ獣が痛みに怯んでいた。


やはりだ。ゴブリン王の盾。

鏡のように輝く表面に魔力を込めるなら、受けた攻撃の一部を跳ね返す効果が表れる。



■ゴブリン王の盾(SR)

受け止めたダメージを10パーセント軽減、反射する。



2人の攻撃、そして盾による反射を嫌ったイノシシ獣は走り距離を空けると、離れた位置から再びイノシシ突進を繰り出そうとしていた。


むぐぐ……またあの突進か。

先ほどはウルトラCの着地を決めはしたが、かなりの衝撃。

ぶっちゃけ痛い。あまり受け止めたくはないのだが……


「ぷっ。城っち。すっごい吹っ飛んだからねー」


おのれ。笑っている場合でないというのに。


「えーと……城くんにもバフをかけるね」


只野さんの両手が輝き、俺の身体を暖かい光が包み込む。


むむ? 何やら力が湧き上がるこの感覚。

これが只野さんの強化魔法。これがバフの力……というか俺だけバフがなかったのか……


「えーと。助田くんが自分にバフは必要ないって言ってたから……」


おのれ……あの野郎。

そりゃあ聖騎士であるあの野郎には必要ないだろうが、俺はただの魔導士。いくらLVがあるとはいえ本来は守られる立場である魔導士が、バフもなしに盾役など無理である。


とにかく。


「よし……これなら行ける。バッチ来い!」


雄たけびを上げ凄まじい勢いで走り来るイノシシ獣。

その加速重量は酔っぱらい運転で暴走する軽トラ級。


「イノー!」


真正面から迫り来るイノシシ獣に対して、俺は構える盾に暗黒の魔力を込めていく。


何がイノーか? 能天気に直進するしか脳がない哀れな奴め。

てめーが軽自動車だというなら、俺の排気量はF1級。


ガーン。


衝突の瞬間、両足が深く地面に食い込む衝撃。

バフによる強化を受けた俺は、がっしり盾で受け止める。


カキーン


受けた衝撃に対して盾の魔力が発動、ダメージの一部を反射する。

しかも、ただのダメージではない。今回は盾に暗黒の魔力を込めているのだ。


デバフ発動:イノシシ獣の攻撃力が減少

デバフ発動:イノシシ獣の防御力が減少

デバフ発動:イノシシ獣の敏捷力が減少

デバフ発動:イノシシ獣のスキルを封印


反射するダメージにも、問題なく暗黒魔力が乗るようで。


突進を受け止められたイノシシ獣。

その場で牙を振り回し暴れるが、その牙の勢いはあきらかに弱い。


「イノー?!」


イノシシ獣の突進も、牙の振り回しも。

いずれもスキルにより強化された攻撃。

威力が落ちるのも当然。俺の暗黒魔力でスキルを封印しているのだ。


「とーっ」「この」


ズドカッ ズドスッ


続く2人の攻撃は、デバフで防御力の落ちたイノシシ獣の表皮を貫き、深く傷つける。


「きいてる。きいてる」


その後、俺がイノシシ獣の攻撃をおさえる間、2人がかりでイノシシ獣を殴り突き刺し止めをさした。


「なんかうちらイケルじゃん。前より強くなったって感じ?」


「そうですわね。途中からイノシシ獣が柔らかくなったようにも感じましたけど」


ジロリ。賀志子さんが俺を見る。

まあ、今まで固かったイノシシ獣がいきなり柔らかくなったのだから疑問にも思うだろう。


「この盾のおかげだな」


「凄いよね。イノシシ獣の突進を受けても壊れないなんて」


壊れるどころかへこみすらない。

ゴブリン獣キングが所持していたこの盾。やはりただの盾ではなかったわけで。


「デバフ効果のある魔法アイテムというわけですわね」


これ以降の狩りで、俺は表立ってデバフを使えるようになったわけだ。


「でもぉ……助っちに比べると城っちショボくない?」

「あっ!? ダメだよ。佐迫ちゃん。本当のこと言ったら……」


おのれ……スカートをヒラヒラ木刀を振り回すその姿。その光景は俺の脳裏に保存している。後で抜きまくってやるからな……などと怒るようなことでもない。

助田はSSRギフトの聖騎士。守りに長けたギフトなのだから当然である。

恐るべきは聖騎士ということ。LV差があるにも俺より防御が上なのだから。


「まあまあ。城っち。うちらがフォローするから落ち込まない落ち込まない」

「えーと。私も弱いのは一緒だから大丈夫だよ。うん」

「そうですわ。助田くん1人に頼るより、みんなが協力している感じで良いですわよ」


はい。

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