72.偶然とはおそろしいものである。
5/9(木)
連休明けの3日目。休みボケもおさまり、ようやく身体が学校に慣れて来た。
「ホームルームを始めるぞー」
「せんせー。助田くんはどーしたんすか?」
「助田は今日も休みだ。親御さんから連絡があった」
助田の奴。今日で3日も休みか。
「助っち心配って感じ? うちらでお見舞いってどうよ?」
お見舞いは良いが、何故にそれを俺に聞くのか?
「城っちまだそんなこと言ってるー。うちらもう戦友で親友じゃん?」
だとしても、野郎の看病をして得られるものは何もない。
「いや。これだけ長いとインフルエンザの可能性がある。今押しかけては危ないと思うな」
「あーそっかあ。城っち頭いいー」
相手が女子であれば弱ったところに付け込みムフフもありえるが、助田は男子。常識的に却下である。そもそもが今日はパスポートセンターに行かねばならないわけで。
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「イモー。待ったか?」
「いいえ。お兄様」
今日も今日とて校門前での待ち合わせ。
相変わらずイモの周囲には女生徒が多い。
「ふひー。今日もお兄様は美しいです」
「お兄様って……こいつそんなガラなの?」
ふむ。1人口の悪い女生徒がいるようだが……その髪は金色。イモのクラスメイトにとんでもないヤンキーがいたものだ。
「誰がヤンキーよ? で、いつまで知らんぷりしてるの?」
「あの。お兄様。ハンナさんとお知り合いでしたか?」
「まあ。ダンジョンで」
誰あろう。アメフト親父の娘である華さん。
いや、海外の発音ではハンナさんか。てっきりオリジン国に帰ったものと思ったが。
「パパの赴任先が日本だもの。おまけで私も留学することになったのよ」
それでイモと同じ学校になるとは、偶然とはおそろしいものである。
「それで。なんでアンタが中学校に? ロリコンなの?」
失礼にも程がある。
「今日はイモと一緒にパスポートの取得に行くから、その待ち合わせに来ただけだ」
別にわざわざ中学校で待ち合わせる必要はないのだが……最近の中学生は発育が良いのだから仕方がない。
「パスポート? アンタ海外に行くの?」
「ああ。武者修行に出ようかと思ってな」
「ふーん……ならオリジン国に来なさいよ」
オリジン国。ハンナさんの母国。
日本の西。茶位帝国の南東洋上に浮かぶ島国で、最近、日本とダンジョン協定を結んだ国である。
ダンジョンは国の資産。
貴重な資源を海外に奪われないう、例え探索証を所持していようとも、他国の探索者が無許可で立ち入ることは出来ない。
ただし、ダンジョン協定を結んでいる国同士は例外である。
現在、日本がダンジョン協定を結んでいる国は米国、オリジン国の2国。つまり日本の探索者証をかざすだけで、どちらのダンジョンにも入ることができるわけで。
「どちらかといえば米国に行こうと考えているのだが……」
前回、アメフト親父との邂逅の後、オリジン国については調べている。
文明レベルは昭和末期の日本と同程度だという。
それは良いのだが……政情不安定で銃による犯罪が頻発していると書かれていた。
ただでさえ危険な海外旅行。
ハンナさんには悪いが、初心者である俺が旅行するには難易度が高すぎる。
よって、海外旅行初心者に優しい米国。ハワイ島のダンジョンあたりを予定している。
「なによ? アタシがダンジョンをガイドしてあげても良いわよ?」
マジで?
「あの。ハンナさんはオリジン国出身と自己紹介がありましたが……何か、そういった関係者なのでしょうか?」
「ええ。アタシのパパが外交官だからいろいろ便宜を図れるわよ? ダンジョンにも入れるしね」
それは知っている。といっても、イモは知らないか。
「そうなんですか。あの。オリジン国ではハンナさんの年齢でもダンジョンに入れるのですか?」
「年齢制限どころか今は誰でも入れる状態よ。ダンジョン整備が進めば、いずれ制限も出来るでしょうけど」
「お兄様」
クルリ。イモがこちらを振り向いた。
「武者修行の行き先は、オリジン国にしましょう」
ふむむ。してその心は?
「私もダンジョンに入りたいです」
……なるほど。確かにアリかもしれない。
正直、俺1人で異国のダンジョンに入るには不安がある。
仮にダンジョン整備の進んだ米国に行ったのであれば、探索資格の無いイモはダンジョンに入ることは出来ず、俺1人での探索となる。
治安の良い日本のダンジョンとは異なり、危険な異国のダンジョン。暗がりでいきなり同業者に襲い掛かられようものなら、俺の純潔は血に塗れる。
その点、ハンナさんとイモが一緒なら安心できるというもの。
何せダンジョンにおけるイモは無敵なのだから。
「いいわね。イモちゃんも一緒にダンジョンに入る? 案内するわよ」
「はい。よろしくお願いします」
ハンナさんに深々とお辞儀するイモ。
どうやら行き先はオリジン国で決定されたようだ。
「そうと決まればお兄様。書類も揃ったことです。パスポートを受け取りに行きましょう」
その後、俺とイモは無事にパスポートを受け取り帰宅した。




